紅蓮の二人 6
「………容体が急変したらしい…」
深夜遅く、あたしはおやじたちと病院にいた。
綾姉の病室。
安らかな顔で眠る綾姉。
「…っ…なんで」
眠ってるんだよね。
朝が来たら起きるんだ。
さっき、綾姉疲れたから眠るって。
死……死んでるわけない。
「眠ってるんだよ」
おやじは静かに泣いていて、母さんは綾姉にすがりつくように抱きしめて泣いてる。
「あたしは信じない」
「江梨香、…綾女はもう」
「いや!聞きたくない!!」
あたしは耳をふさいでしゃがみこんだ。
だってさっきまで、一緒に写真見て笑ってたんだ。
こんなに急に逝ってしまうわけがねぇ!!
「綾姉、また写真いっぱい撮ってくるからさ、いっぱいいっぱい持ってくるからさ。また一緒に見ようよ」
眠っている綾姉に近づいく。
青ざめた頬に触れると、その冷たさに驚いた。
初めて…実感する。
いつもぎゅって抱きしめると抱きしめ返してくれた優しい綾姉がとても冷たくなっている。
いくら呼んでも動かない。笑わない。
心臓の音が聞こえない。
なにも聴こえない。
「起きて…綾姉…綾女お姉様って呼びなさいって…怒ってよ!!」
あたしの頬を伝う涙のしずくが、綾姉の頬をぬらした。
「あやねぇ…死んじゃやだよおぉ」
「あなた、コレ…」
母さんが綾姉の枕元から、一枚の紙を見つけた。
おやじが母さんからその紙を受け取ると、紙を広げて中を見る。
おやじの顔がみるみるうちに歪んでいく。
「このバカ娘がぁっ!!!」
「あなた?」
「ど…っ…どうしたんだよ」
あたしはおやじから無理矢理、紙を奪う。
「……手紙?」
その紙の一行目には、丁寧な文字で≪大好きなみんなへ≫と記されていた。
《大好きなみんなへ》
おやじ、母さん、江梨香。
先に逝っちゃってごめんね!
死ぬってことはずっと前、あたしが倒れた夜診察室の前で立ち聞きしちゃって分かっていたんだ。
黙っててごめんね。
みんなが一生懸命隠そうとしてくれてるから、なんかその優しさがうれしくって言えなかった。
死ぬってわかって、怖かったけどさ、なんとなく道を外してしまった自分への罰だって思ったら妙に納得できたんだ。
親不孝もんだからね。
おやじ、母さん、ヤンキーになっちゃって心配いっぱいかけちゃったよね。
それでもあたしを見捨てないでくれてありがとう。
二人の娘でよかった。
おやじ、おやじはあたしの憧れだよ。
ずっと、これからも。
母さん、いつも優しく見守ってくれてありがとう。
もっと怒ってくれてもよかったのに。
でもそんな母さんが大好きだ。
そして江梨香。
最後まであたしの頼み聞いてくれてありがとう。
一緒に写真いっぱい見て話せてよかったって思ってる。
あの写真はさ、彼のことが知りたくて好きだから撮ってもらったんじゃないんだ。
江梨香と過ごす時間がほしかったんだ。
夏子に頼めば、写真なんていくらでも撮れるからさ。
紅蓮でずっと一緒だったけど、姉妹っていう時間はなかなか取れなかったから、この写真を一緒に見て笑ったりする時間がとても私には幸せだったんだよ。
ありがとう、江梨香。
あと、江梨香はもっと自分に正直にならなきゃだめだぞ。
好きなんだろう?
好きなら相手がこのあたしでも、倒す覚悟で恋しろよな。
藤井ファンクラブは、江梨香お前に任せる。
だから高校はうちの学校に来な。強制だから。
江梨香なら紅蓮も藤井も両立できるはずだ。
信じてるから。
じゃあな。
楠木綾女
P.S
高校の友達や紅蓮の皆にはあたしが死んだこと言わないで欲しい。
あたしのことで悲しませたくないんだ。
よろしく頼む。
知ってたんだ。
病気のことも、余命も…あたしが藤井に惹かれていることも。
全部…全部…知ってたんだ。
なんだよぅ。
やっぱり綾姉は最強じゃねぇかよ。
「綾姉…」
いままでお疲れさま。
ゆっくり眠って。
あとはあたしに任せてよ。
綾姉の遺志ちゃんと継ぐからさ。
もう弱音吐かないからさ。
綾姉みたいに強くなるから。
だから…せめて今日だけ、今日だけ。
泣いていい?
ねぇ、綾姉…?
それから数日。
綾姉の手紙の通り、葬式は家族だけで静かに弔い、学校の先生たちには亡くなったことは伝えられたが、生徒には転校したということにしてくれとお願いした。
夏子さんにはちゃんと伝えておかないといけないと思って、あたしから伝えた。
『そう……』
夏子さんはそれだけ言うと、空を見上げて、悲しげに笑った。
そして『春から江梨香ちゃん、あなたが会長よ。あたしは全力で支える』というと、そっとあたしの頭をなでると振り向かずに去って行った。
綾姉、あたし頑張る。
がんばるから。
あたしは、紅蓮の総長。
あたしは、藤井ファンクラブの会長。
あたしは、楠木綾女の妹。
あたしは、楠木江梨香。
大好きだよ。
綾女お姉様。
紅蓮の二人編完結です^^




