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藤井先輩と私。  作者: 寿音
番外編:紅蓮の二人
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紅蓮の二人 4

5か月後。



「コマ、あれから天竜のやつらに動きは?」

あたしは、その日もいつものように、倉庫で仲間たちと過ごしていた。

「総長が下っ端ヤってから、目立った動きはないっす」

「そう。今日の走りには邪魔はなさそうだね」

今日は3ヶ月に一度の“紅蓮祭”と呼ばれる暴走の日。

あたしが治める紅蓮の配下の族たちとともに、街をバイクで走り抜ける。

警察がうるさいから、3ヶ月に一回っていうのが族の掟。

不良なんだか、マジメなんだか。

だから、倉庫では仲間たちがみんな自分の自慢のバイクの手入れを入念にしてる。

一生懸命汗を流しながら作業する姿は、見ていて楽しい。

「コマ、あんたのバイク見てやろっか?」

「えっ!?いいんスか?」

「暇だしいいよ」

「うれしいっス!」

コマそんな…犬みたいによろこばなくても。

そして、時間になり、あたしは特攻服に着替えた。

紅蓮色の、姉からもらった特攻服に。


空もだいぶ暗くなり、バイクをふかす音が倉庫中にこだまする。

「そろそろか」

あたしの独り言を聴いたコマが、倉庫に集まっていた族や仲間に声をかけた。

「テメェら!道をあけろ!!」

たむろしていた男たちがさっとあたしの前を退く。

その先には、漆黒の車体に赤い文字で“紅蓮”と書かれたバイクが月に照らされていた。

ふぅっと息を吐いて、仲間たちの方へ振り返る。

「コマ、セイヤ、ムサシ、カズ、紅蓮の仲間、配下の族の仲間たち。今日は“紅蓮祭”だ。存分に楽しめよ!」

「「「「「「「おーーーーーっ!!!!!」」」」」

倉庫中に野郎共の威勢のいい声が響いて、バイクもその音を轟かせる。

≪ピピピピピピピッ≫

そんな折、ポケットに入れておいた携帯が鳴った。

「総長!携帯はマナーモードっしょ!!」

セイヤが陽気にツッコむ。

倉庫中が笑いに包まれた。

「いや、悪ぃ!」

サっと携帯を開いて、誰からなのかチェックすると、思いがけない名前に驚いた。

≪楠木国広≫

おやじ!?

なんで、おやじが!!

電話なんて一度だってかけてきたことないのに。

まぁ仲が悪いわけじゃないけど、なんだろう…珍しい。

今から走りだそうって時に…タイミング悪いなおやじ。

あたしはポケットに携帯を戻した。

「総長!そろそろ行きましょう」

コマがバイクにまたがり、ウキウキした目でこちらを見ている。

「おう!」

しかし、やはりポケットの中の携帯が気になる。

なんだか…出ないといけない電話に思えてしょうがない。

どうしてだろう…この胸騒ぎ。

あたしは意を決して、携帯の着信ボタンを押した。

「もしもし、おやじ?」

『江梨香か!いますぐ、帰りなさい!』

切羽詰まったような、慌てたようなおやじの声。

「んだよ。いまから走るんだ、帰れねぇよ。んじゃな」

『ちょっと待ちなさい!江梨香』

あたしが電話を切ろうとすると、おやじが必死でそれを止めた。

「なんだよ!」

『……綾女が…』

おやじ?

『綾女が倒れた』


「わりぃ……」

「どうしたんスか?総長」

心配そうにこちらに近づくコマ。

あたしは、自分の携帯を強く握りしめて、バイクにまたがった。

「総長?」

「今日の先頭はお前が走ってくれ。あたしは………すまねぇ!」

コマの返事を聞かずに、アクセルを思いっきり踏みこみ、走った。

総長失格かもれない。

でも…、こんなときに走られるほど、あたしは強くない。

綾姉が心配だ。

あたしのたった一人のお姉ちゃんだ。

親父からの初めての電話がこんなだなんて。

死ぬんじゃねぇぞ。

綾姉!!


病院に着くと、急いで救急治療室へ急いだ。

特攻服を着ているせいか、廊下を歩く患者や看護師が驚いてる。

着替える暇なんてなかったんだから、しかたないだろ。

救急治療室へ向かうと、事情を知った看護婦に

「楠木さんはこちらの部屋です」

と個室へ案内された。

おやじと母さんは中にいるのだろうか。

勢いよく扉を開けて中に入る。

「綾姉!!!」

そう言って綾姉のベッドへ飛び込むと………

「あら、江梨香?どうしたのよ」

へ?

ケロッとした顔で不思議そうにこっちを見る綾姉がいた。


「えっ?綾姉倒れたんじゃ……」

「うん、倒れたわ」

「え?なんでそんなにピンピンしてんの」

「元気じゃ悪いかしら?」

えええぇぇ!?

なにそれ。

いや、綾姉が無事でよかったはよかったけどさ…。

「貧血だったみたい。お父様とお母様が慌てて救急車呼ぶもんだから」

あんのおやじぃ!!っていうか…お父様お母様って…鳥肌たつよ。

「で、おやじたちは?」

安心した私は、近くのパイプ椅子に腰かけた。

「医師とお話してるわ」

「そっか…」

ほんと…たいしたことなくてよかった。

「あら、今日“紅蓮祭”じゃないの?江梨香」

「あ…うん」

「悪いことしちゃったわね。3ヶ月に一回なのに」

「いいよ。全然」

「そうだ。今からでも間に合うんじゃない?コマやセイヤに連絡取ってみたら?」

「で…でも」

「私のせいで江梨香が“紅蓮祭”出ないなんて胸くそわるいんですもの」

胸くそってオイ。

そうだな。

今の時間だったらまだ走ってるし…。

「電話かけてくる」

「ここ病院だから外で電話するのよ!」

「はいはい」

あたしは綾姉に促されるまま病室を出た。

携帯を開くと、コマ達から着信とメールが数十件。

やっばいな~。

どう弁解しようか。

「う~ん…」



『…ですか!!?』

『治療法は!!』

病室を少し行ったところで、怒鳴り声がきこえた。

なんだよ。

ここ病院だぞ。

静かにしろっての。

そう言って横目で声の聞こえたところを見ると、チラっとおやじの顔が見えた。

え?

今の怒鳴り声っておやじ?

その部屋には≪診察室≫と札が貼ってある。

おそるおそる近づく。

「お、おやじ?」

そう呼びかけると、母さんの「あなた、江梨香よ」というこえとともに診察室の扉が開かれた。

中にはメガネをかけた医師と、あからさまに取り乱してるおやじと、涙を目にためている母がいる。

「なんで…どうしたんだよ?」

医師はあたしの赤い頭と特攻服に驚いているのか、戸惑いを隠しきれないでいる。

「この子は、綾女の妹です」

「そ、そうですか」

医師はゆっくりと口を開いた。

「では、妹さんにも聞いていただかなければなりませんね」

え?なんのことだよ。

暗い診察室に、煌々と光るレントゲン写真。

専門用語ばかりの医師の言葉。

頭が悪いあたしは何言ってるのかさっぱりわかんねぇ。

でも、だけど…最後のことばだけは、理解できた。


「綾女さんはもって…3ヶ月です」


「な…んだよ…3ヶ月って!!てめぇ医者だろーが!!」

あたしは頭に血が上って医師の胸倉をつかんだ。

「江梨香よしなさい!」

おやじがあたしを止める。

「でもっ…あんな元気じゃんかよ…嘘だろ?どうして綾姉がぁっ」

むしゃくしゃしてあたしは椅子や机を蹴る。

「江梨香!!」

パシンッと音がして、あたしの頬が熱くなった。

「おやじ…」

「落ち着きなさい」

おやじはあたしの肩をつかんで、しっかりとあたしを見つめる。

涙ぐんだおやじの瞳を見つめると、もう暴れる気力すらなくなった。

力なく座りこむと、母さんがあたしをぎゅっと抱きしめる。

「あの綾女が簡単に死ぬわけないじゃない。大丈夫よ」

「…………」

「大丈夫よ」

綾姉が死ぬなんてない。

いままでだって、いろんな戦いを乗り越えてきたんだ。

病気なんかで死ぬなんてあるわけがない。

綾姉は強いんだ。

最強なんだよ。

この医師は、綾姉の力を知らないんだ。


あたしは、声を押し殺して泣いた。


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