紅蓮の二人 2
一カ月後。
あれから綾姉がいなくなった倉庫は、バイクの音が鳴りやむことはなかった。
あたしは、みんなに支えられて総長という立場にいる。
綾姉は、あれから一度もここに来ない。
二人で暮らしていたアパートからも姿を消して、両親の住む家に戻った。
不良なのはあたし一人。
でも暴走族ってーのに、昔から憧れてたし、暴れるの好きだから…ここは嫌いじゃない。
ただ…綾姉がいないここは、少し…ううん、結構さびしいな。
「昨日の暴走の件で天竜のやつらが文句言いに来てるんスけど!どうしますか!?総長!」
「…コマか」
「『…コマか』じゃないっスよ!どうするんスか?」
こいつの名前は、駒井太郎(こまい たろう。
こま犬みたいな奴だから、コマ。
「何人来てる?」
「下っ端連中だと思うんスけど…だいたい30人程度っス」
「適当にやっとけ」
「えっ!ちょっと総長!?」
お前も幹部で強ぇんだから、ちったぁ自信持てっつーの。
飼い主に見放された犬みたいに、こっち見やがって。
「しゃーないな」
ま、そこが可愛いんだけど…。
あたしは、ゆっくりと部屋から出ると、倉庫の出入り口にできている人だかりをぼーっと見つめた。
この紅蓮に喧嘩売るたぁいい度胸してるじゃないの天竜さん。
綾姉の代よりは少しは弱くなったかもしれない…けど、でもあたしは紅蓮が最強だと思ってる。
天竜の奴らが何と言おうが、紅蓮はずっとトップを行く。
「総長!」
幹部メンバーや下っ端くんたちが次々と私に振り返り頭を下げた。
総長ってのも悪くないかも。
頭を下げない連中がいる。
よく見ると見慣れない特攻服。
……天竜の下っ端共か。
あたしは堂々と天竜の族の前へ歩み出た。
ものすごい形相であたしを睨んで、いきがっちゃって…。
下っ端の頭らしき男が私の前へ来た。
ほんと、いい度胸してんじゃん。
「天下の紅蓮も劣ったな」
ニヒヒッと笑いながら挑発するようにあたしに告げる。
「なに言ってんだ!雑魚!」
「殺されてぇのか!!」
「ふざけてんじゃねぇぞ!!」
背後から飛び交う仲間たちの怒りの声。
私は無言で手を挙げて、鎮めた。
コマたち幹部もなにか言いたそうだが、ぐっと我慢してる。
「紅蓮が劣ってる?どういうこと」
あたしは冷たく睨みつける。
「これ見ろよ」
「笑えるよなァ…これが紅蓮の元総長だなんてよぉ」
ゲラゲラと下品な笑い声が天竜の方から聞こえてくる。
男が地面に落とした一枚の写真。
よく見るとそれは、姉の姿だった。
紅蓮色に染めていた髪の毛を黒髪にして、三つ編みで結っている。
昭和を彷彿とさせるメガネをかけて笑っている制服をきた綾姉。
「落ちたもんだよな。紅蓮も、今なら天竜の方が上だぜ」
聞き捨てならねぇな。
落ちた…だと?
綾姉がこういう格好してるからか?
マジメに学校行ってるからか?
綾姉は最強だ。
どんな姿をしてようと、私は綾姉には勝てねぇ。
それを愚弄するとは…許せねぇ!
お前らそれだけの人数であたしら紅蓮を潰せると思ってんのか?」
「あぁ、今のお前らは総長のいないただの烏合の集だからな。余裕だぜ」
ははっ、笑える。
幹部たちの方をちらりとみると、今にも殴りかかりそうな姿が見えた。
「お前らは下がってろ、手だしすんな」
「何言ってんスか!総長」
コマは心配そうにしてる。
「大丈夫だ。あたしを誰だと思ってる」
あたしはね、綾姉の後継者。
最強の紅蓮の看板を背負う者。
「天竜のクサレ共、みんなあたしが相手してやるよ。さ、どこからでもかかってきな!」
私が両手を広げて不敵に笑ってみせると、天竜は少し驚いたように後ずさったが、すぐに戦闘態勢に入った。
「この楠木江梨香が総長である理由、お前らの体に刻みこんでやる。覚悟してかかってこい」
「「「「うぉーーーーーっ」」」」




