紅蓮の二人 1
このお話は、陽依が藤井と出会う前のお話。
藤井ファンラブができるまでのお話。
主人公は藤井ファンクラブ代表の楠木江梨香、当時15歳。
中学三年生にして、関東暴走族のトップを仕切る“紅蓮”の副総長。
そしてもう一人の主人公。
楠木江梨香の姉にして、男でも力でかなうものは誰もいないという無敗の最強の女、“紅蓮”の総長、楠木綾女の物語である。
港近くの使われていない倉庫。
ブォンブォン…
多数のバイクのエンジン音が集まる中心に彼女はいた。
「テメーら、ちょっとここで待ってろ」
バイクのそばにいる、これまた多数の赤や黄色の髪をした俗に言う“ヤンキー”に向かって華奢な体つきの少女が叫ぶ。
深紅の赤に染められ綺麗に巻かれた髪を翻して、少女は奥の部屋へ入った。
「綾姉、みんな集めたけど?」
「…おっ、そうか。早かったな、江梨香」
綾姉と呼ばれた女性は、ストレートの紅蓮色に染められた髪の毛を人差し指に巻きつけて、ぼーっとしていた。
「行かねぇの?」
「…あぁ。行くけどよ。その前に江梨香…お前に大事な話があんだよ」
「えっ?なんだよ改まって」
話があるという姉の言葉に、しかたなく近くにあるソファーに腰を下ろす江梨香。
「で、なんだよ話って」
「あのよ…江梨香…」
「そんなに深刻な顔するほど、ヤバい話かよ!」
何を勘ぐったのか、江梨香は拳を握り締めて「天竜の族の奴らがまたなんかしたのかよ綾姉!!」と眉間にしわをよせて怒っている。
「ちげぇよ」
「じゃあ何なんだよ」
いったい綾姉は何を話そうとしてんだ?
あたしに言いにくいことなのか?
まさか紅蓮を解散する気じゃねぇよな。
頭をブンブン振って、嫌な考えを吹き飛ばす。
「…なぁ…江梨香」
意を決したように、綾女は口を開く。
「お前……“恋”って知ってっか?」
はい?
「は?」
江梨香は口をあんぐりとあけて、自分の耳を疑った。
喧嘩上等、暴走上等の男勝りな姉の口から、いままで聞いたことのない単語が出てきたことに、心底江梨香は驚く。
「『は?』じゃねぇよ。だからぁ、“恋”って知ってっかって聞いてんだよ」
「綾姉…熱でもあるんじゃねぇの」
江梨香は自分の額を綾女の額にくっつけて、温度を測る。
「ねぇ…みてえだけど…」
ドゴッ!!
「綾姉!いきなり頭突きすんじゃねぇよ!」
「あたしは一度も風邪ひいたことねぇし、熱も出たことねぇぞ!あたしはマジメに言ってんだよ」
赤くなった額をなでながら、江梨香は大きくため息をついた。
「…はぁ…。で、“恋”がどうしたって?」
「これが恋かどうか、わかんねぇけど…そいつのこと考えると心臓がうるせぇんだ…」
綾女は胸を抑えて、苦しそうに顔をゆがめる。
江梨香は、姉の恋する女の表情にひたすら驚くばかりであった。
「…で、相手だれだよ。族のメンバーにいんの?」
江梨香は頭の中に、そこそこ顔がいい紅蓮の幹部たちの顔を思い浮かべる。
セイヤか、ムサシか、コマか。
下っ端にもイケメンいたなぁ確か。
「仲間は男に見えねぇよ」
仲間じゃねぇということは、まさか天竜の総長…とか?
敵対する族のトップに恋して、悩んでるのか?綾姉!
「…同じクラスの奴だよ」
「はぁ!?同じクラスの奴だとぉ!??」
「そーだよ。わりぃか」
予想外すぎる。
綾女のクラスの男。
そういや、今4月だったな。
クラス替えの時期じゃん。
まぁ学校行ってねぇから分かんないけど、私も3年に進級したし、クラス替えしてんだろうな。
「ってか、綾姉も学校行ってないじゃん!」
それなのに、どこで出会うっていうんだよ。
というか、綾姉進級できたのか?
学校ほとんど休んで、この溜まり場で集会してる綾姉とあたし。
私は担任を脅して進級させてもらったけど…。
「今日担任に出席日数が足りねぇってんで呼び出しくらってよ。久々に行ってみたんだわガッコー」
やっぱり。
「そんとき、1分だけクラスに顔出せって言われて、しゃーねぇなぁってクラス行ったんだよ」
機嫌良かったんだな綾姉。
不機嫌だったら、先公の言うことなんか聞かねぇもん。
「そこで…運命の出会いっつーの?あたしの席にそいつが座ってた」
「おいコラテメぇ、そこはあたしの席だよ。どの面下げてここに座ってやがる」
あたしの席は、窓際の一番後ろの席。
誰が何と言おうと、あたしの席。
うつぶせに眠っていたその男は、あたしの声に気付いたのか、目を覚まして顔をこちらに向けた。
どーっせ、しょっぼい男だろー。
「なんや、ここお前の席なんか?さっき席替えして俺の席になったと思ったんやけど…」
ドキ…ドキドキ…ドキドキドキ。なんだ、この胸のざわめきは!
なんでこいつだけ輝いて見える?
息が苦しい…。
心臓の音がうるせぇ!!
「おい、大丈夫か?風邪ちゃう?」
ふわっと額に男の手が伸びる。
その男の手が額に触れたとたん、あたしの心臓は死ぬかもしれないと思うぐらいに飛び跳ねた。
「なんだ、熱はないな。よかった」
この関西弁の男。
いったい何者だ!?
あたしをここまで乱すなんて…きっとただ者じゃねぇ!!
「あたしに触るなっ!帰る!」
「ちょっ…」
あたしは後ろを振り向かずに、教室を出た。
今の話を聞いてっと、あたしが思うに…綾姉は
「それ…完璧な一目惚れじゃねぇか!!」
あたしもそんなに恋の経験はないが…客観的に考えると、一目惚れに間違いない。
「一目惚れか…やっぱりあたし…恋してんのか…」
綾姉は、どっさりとソファーに座り込み、空中をボーっと見つめる。
「綾姉…、そろそろ行こうよ。あいつら待ってるからさ」
「待て」
まだ何か話があんのか。
綾姉は、クローゼットをあさる。
そのには特攻服がしまわれてるだけだけど、何かあんのか?
数分クローゼットをあさると、ある服を取り出してあたしにつきだした。
こ、これって。
「今日からお前がこれを着ろ」
「ってコレ、綾姉の特攻服じゃねぇかよ!!」
なんであたしが総長しか着れない紅蓮のトップの証を着るんだよ。
「あたしは今、紅蓮の総長引退する。江梨香、紅蓮をお前に任せる」
「は?何言ってやがんだよ!綾姉が総長だよ」
「違う、あたしはもう紅蓮のもんじゃない」
綾姉がトップだから、みんなついて来てるんだ。
あたしはまだ中3だし、そんな力はないのに。
「あたしは、何事にも本気でぶつかりたい。あたしはあの男に本気の恋してんだ。…紅蓮を中途半端な気持ちでまとめらんねぇ」
そ、そんな。
「江梨香。あんたはあたしの妹だ。強さもあたしには劣るが幹部のメンバーの誰にも負けてねぇ。信じてるからよ」
そんなまっすぐな瞳で見つめられちゃあ、頷くしかねぇじゃんか。
あたしは無言で、綾姉が手に持ってる特攻服を受け取った。
「じゃ、それを今から仲間に報告すっか」
「あ…綾姉ぇ…」
「泣くんじゃねぇ。男でも女でも簡単に涙は流すなってあたしいつも言ってるよな」
涙を拳で拭うけど、涙はすぐに流れて、ちっとも止まらなかった。
「綾姉…あたしも綾姉の本気応援する…」
「ありがとよ」
藤井悠太のファンクラブの創設者である楠木江梨香の姉綾女のお話です。
江梨香ちゃんと綾女ちゃんは結構お気に入りのキャラでもあります。
書いてて楽しい。




