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朝のHRの予鈴が鳴ったというのに、廊下は騒がしい。
早く先生来て注意すればいいのに。
ちらちらと廊下の様子を見るけれど、藤井先輩の表情までは確認できない。
周りに居る子たち、みんな可愛いなぁ。
あの中の誰かが先輩の彼女になったりするのかな。
先輩両手いっぱいに手紙持ってたけど、あの分だけ先輩を想ってる人がいるってことだよね。
ファンクラブって、私が入学する前からあったわけでしょ。
ということは、私よりずっと長い間先輩を想い続けている人がいるってことで…。
私なんか好きだって気付いたのつい最近なのに。
こんな私が、先輩に近づくのっていけない気がする。
でも…。なんだか先輩が女の子に囲まれているのをみてるの嫌だな。
…だめだめ。
もう、どんどん思考が暗くなってってる。
こんなの私らしくない!
頬を両手でパンパンとたたき、暗い思考を終わらせた。
「お前ら、クラスに戻れ!」
廊下で担任の声がする。
その声とともに、複数の足音が散っていくのが聞こえた。
廊下を見ると、先輩に群がっていた女の子たちはいなくて、先輩もいなくなっていた。
ホッと少し、安心。
「ほい、席付け~」
担任は教室に入ってくると、黒板にもたれかかって委員長に「号令」と一言だけ言うと、HR終了まで一言も話さなかった。
つくづく放任主義と言うか、なんというか。
昼休み、久しぶりにユカと白いベンチのところへ向かった。
ジュディは愛しの彼氏レオくんとランチするみたいで、すぐに隣のクラスへ。
「なんだか久しぶりね。ここで食べるの」
「そうだね!すっかりこの木も紅葉してるし」
ベンチの近くに立っている木は、赤々と葉を色づけていた。
でも、その他の木々は、まだ緑が少し残ってる。
きっと、この木だけいっぱい日光浴びたのかも。
「いただきまーす」
膝の上に弁当をおいて、手を合わせる。
やっぱり少し寒いけれど、外で食べるお弁当は美味しい。
「陽依、あんたの口から直接は聞いてなかったけど……」
ユカは、箸をお弁当の上に置いて、こちらを見た。
「何?」
「陽依は藤井…藤井先輩のことどう思ってる?」
ユカのまっすぐな眼差しに、箸でつかんでいたままのからあげを落としそうになる。
そういえば…ユカにちゃんと自分の気持ち伝えてなかった。
ちゃんと言わなきゃね。
「………す、好きだよ」
「そう」
意外とあっさりした返事に、「そ、それだけ?」と思わず私は声をもらした。
「あのねぇ、私はあんたが気づく前から知ってたの。そんな今さら驚くことでもないでしょ」
そりゃ、そうだ。
ヒントをくれたのもユカだし、梶瀬君のこともユカだったし。
「ユカっていつから私が先輩のこと好きなんだって知ってたの?」
「いつからかしら…藤井に会った瞬間かしらね」
「私と先輩が出会った瞬間ってこと?」
「まぁそうね」
ユカはたまごやきを口に入れてもぐもぐしたのち、
「私は二人が初めて話したあの時に、一緒にいなかったけどさ。なんか、分かっちゃったのよ。陽依この男の子と好きになるのかもって」
私でも知らなかった気持ちを、こんなに早くから気付いていたなんて。
やっぱりユカ様すごいっす!!
「うーん。でもどっちかって言うと…“好きになってほしい”ってのが正解かも」
どういうこと?
「なんかね…藤井、あいつバカでさ、アホでさ、ヘタレだけど」
「ちょっ…ユカ!!」
そこまで言うのは、いくらユカ様でも私怒っちゃうよ。
「でもそういうところ、陽依とあうんじゃないかなって思ったの。二人一緒にいたらなんか、こっちもあったかい気持ちになれそうだなって」
「ユカ…」
しばらくして、お弁当を食べ終えると、カバンにお弁当箱をなおしながらユカは笑った。
「私、おバカが好きだからさ、二人付き合ったらいいのにって願ってたのよ」
ユカ…ユカ様。
で、でも「付き合う」ってそんな夢みたいなこと。
ありえないのに、ユカこんなに期待してて、なんだか申し訳ない。
「ごめんね。ユカ」
「どうして謝るのよ」
「…だって、私…ユカの期待にこたえられそうにないもん」
だって…だって私、先輩に避けられてるし。
もしかしたら嫌われてるかもしれないし。
「ったく、あんたはなんでそう消極的なの!!」
ゆ…ユカ!?
お顔がすんごいゆがんでらっしゃる…。
こ、コワイ!!
「あんた、まだ何もしてないじゃないの。何もしてないのに、諦めるって恋する乙女として一番最低な行為よ!」
ユカは鼻息荒く言い放つ。
「何をそんなに怖がってんのよ。えぇ?言いなさいよ!」
さっきまで穏やかに会話していたはずなのに、どうしてこんなふうになっちゃったのぉ!?
とりあえず正直にこたえなくちゃ。
「あ、…あの…」
「ハッキリ!」
「はいぃ!!」
背筋がピーンと伸びる。
「他の藤井先輩のことを想ってる人達より、後に気持ちに気付いたし…もしも、嫌いって言われたらって思うと…」
「それが怖いの?」
正直に答えたのに、ユカ様の表情は変わらない。
ど、どうして。
「陽依、一度しか言わないからちゃんと聞きなさいね」
ユカは、私の前に立ち、腰に手をあてると、
「恋に時間は関係ない!」
と結構大きな声で言った。
「私の後つづいて」
えっ?これを私も言えと?
いくら人気がない場所とはいえ…ちょっと気が引けるというか。
「ほら!」
「はい!…恋に時間は関係ない」
恋に時間は関係ない。
「恋の“もしも”は考えない、はい!」
「恋の“もしも”は考えない…」
恋の“もしも”は考えない。
…っていったいどういう意味?
恋に時間は関係ないっていうのもいまいち理解できてないきがする。
「陽依、分かった?…その顔じゃ、理解できてないみたいね」
すいません。
私って国語とか得意なのになぁ。
ぜんぜん日常生活に応用できてない気がする。
「陽依が藤井先輩のことを好きだって気づいたのがたとえ遅かったとしても、他の人より後に好きなったとしても、時間は関係ないってこと」
「うん」
「気持ち=時間じゃないの。どれだけその人のことを想ってるかってこと、それは時間じゃはかれないの」
“時間じゃはかれない”
「私だってね。貴光を好きになったって分かったのじわじわとなんとなくだったし。問題は、時間じゃなくて気持ちってことよ」
そっか。
時間は関係ないんだ。
そうだよね。
好きって気持ちは、突然分かったり、じわじわ分かったり、タイミングって人それぞれだし、そっか…そうなんだ。
「んで、次の“恋のもしもは考えない”ってのはどういうことなんですか?」
「なんで敬語よ」
だって、それはユカ様だから。
「これからは師匠、ユカ師匠と呼ばせていただきたい!」
「普通にユカでいいから!話もどすけど…なんか熱く語ったら疲れたから座る」
ユカは白いベンチに座りなおした。
「陽依、恋するとさ、いろいろ考えるじゃない。その人のこと考えるでしょ?」
「うん!」
「そのときに、『こうしたら喜んでくれるかなぁ』とか『私のこと好きかなぁ』とか考えていくうちに、どんどんマイナスな思考も生まれてくるわけ」
マイナスな思考?
「『もしも…彼女いたらどうしよう』とか『もしかしたら他に好きな人いるかもしれない』とか」
私がさっき、ユカに言った怖がってることだ。
“もしも…嫌いって言われたらどうしよう”
「もしもっていうのはさ、考えるだけ無駄なのよ」
私はいつのまにかベンチの上に正座して、ユカの話を聞いていた。
「本人から聞いたわけでもないのに、勝手に妄想して落ち込んで…バカだと思わない?」
そうだよね。
直接本人から『嫌い』って言われたわけでもないのに、自分で自分を追い詰めて…考えてみれば自虐行為に近い。
でも、直接『嫌い』って言われたら、もっとキツイような。
「本人に『嫌い』って言われたとしても、諦めなきゃいいじゃない。好きになってもらえるように努力すればいいじゃないの。他人に自分の気持ちを止める資格なんてないんだから」
「だけど…」
「それに初めからフラれるって決めつけてる気持ちもいけないわね!」
ユカはそういいながら、私にデコピンする。
「痛いっ」
「告白ってのは、気持ちを伝えることが第一目標なの。“付き合う”ってのはその副産物」
「そうなの?」
「そうよ。陽依は要領も悪いし、一度に二つのことができるほど器用じゃないでしょ?」
はいと頷くしかできない。
「だから精一杯の陽依の気持ちを伝えなさい。それでダメだったら、努力が足りなかったってことで、また頑張ればいいじゃない」
うん。でも…あれ?えーっと…。
なんかこの感じだと…。
「ユカ…私先輩に告白するの?」
「何言ってんの。そのつもりで話してたんだけど?」
うそぉん。
だってだって、私まだ心の準備がまだできてないといいますか。
胸の中にある先輩への想いを言葉に変換していく作業もできてないですし。
時期的にも秋だし、寒いし…。
「まだなにか怖いことでもあるの?先輩に気持ち伝えられない理由があるの?」
さっきので、悩みは解決したけれど。
気持ちを伝えるってのは、まだな気がするというか、恥ずかしいというか…うー。
「ない…けど」
「じゃぁ、告白してしまいなさい!思い立ったが吉日」
あのぉ…まだ思い立ってないんですけど。
「恋は先手必勝!私だって貴光に気持ち伝えることができたんだから、あんたにもできる!」
ユカそういえば…委員長に告白したときすごく頑張ってた。
あんなに顔を真っ赤にして、一生懸命気持ち伝えてた。
「陽依はできる子、ずっと一緒にいる私が言うんだから、間違いないの。自信もってよ」
ユカ。
「陽依、大丈夫。私がついてるから」
ユカは私を抱きしめてそっとささやいた。
「陽依、自分に素直になって」




