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屋上から教室に戻ると、案の定クラスには誰一人いなくて、私の鞄だけがあった。
いつも思うけど、みんな帰るの早いよね。
放課後の教室で、ふと思う。
私、やっぱり藤井先輩のこと傷つけてたんだ。
楠木さんに言われて、つい忘れてしまっていたけれど、先輩に対してあの態度はいけなかったと思う。
それにパニックになったからってタメ口使っちゃったしなぁ。
あれから全然藤井先輩に会わないけど、会ったら全力で謝ろう。
教室を出て、廊下を歩く。
吹奏楽部のトランペットの音が遠くで聞こえる。
野球部の練習の声がグラウンドから聞こえる。
なんか、青春だなぁ。と思いながら歩いていると、見慣れたオレンジ色の頭が廊下の先に見えた。
少しうつむき加減で歩いているのは、藤井先輩。
声掛けようにも、ここからじゃちょっと距離があるし…走っていくか。
少し小走りで先輩のもとへ駆け寄る。
あと数メートルのところで藤井先輩がこちらを振り返った。
「あっ…」
目と目がバチッとあう。
一瞬止まる時間。
私が先輩の名前を呼ぼうとしたら、
「あー!!今日はジュンプの発売日やった!!急いで帰らな!!」
と風のごとく走り去って行ってしまった。
…さ、避けられとる。
これは避けられてるよね。
いくら鈍い私にだって分かる。
あの気まずい顔で、無理矢理な台詞。
私の事…嫌いになったのかな。
ううん。
最初から好きじゃなかったのかも。
私があんなこといったから、先輩もう私と関わるの面倒になったんだ。
そうだ…きっとそう。
泣きそうです。
目が合ったのに、なにもしゃべれなかった。
好きだって分かったのに、なにもできなかった。
楠木さんは私に藤井先輩の幸せを任せるって言ったけど、だめだよ。
私には荷が重すぎる。
藤井先輩を幸せになんてできっこない。
嫌われちゃったんだもん。
頬を伝う涙を右手の甲で拭うと、重い足取りで家路についた。
翌日。
「わお、すごいことになってるわね」
「………」
「陽依、見てごらんなさいよ」
「………」
「貴光の時とは比べ物にならないわね」
「………」
「どうしたデス?陽依なんでこんなにドヨドヨしてるネ?昨日のワタシ見たーい」
「………」
もう、やだ。
案の定、藤井ファンクラブが解散したことで女子たちの、藤井先輩に対する恋愛規制が緩和されて、先輩は1年から3年の女子に取り囲まれています。
2年の教室へつづく階段のおどり場で、藤井先輩はたくさんの女子たちに囲まれて足止め状態。
階段に一番近い教室の私のクラスから、その様子が一番見えるわけで。
昨日より格段に私のテンションは下降一直線。
「わぁ、藤井の手に持ってんのあれ全部ラブレター?」
「すごいネー。ユータあんなにモテモテだったノ?」
「もともとモテてたのよ。でも今まではいろいろあって女子たちが手を出せない状態だったのよ」
「ohそうだったノ」
「藤井ってバカみたいに優しいからあのラブレター全部読むんじゃないのかしら」
「ねぇ、ヒヨリ!ユータ誰かに取られてもいいデスカ!?」
「そうよ!陽依!あんたそんなに落ち込んでる暇はないわよ!」
え…。
ユカは分かるけど、なぜジュディまでそんなこと。
「なんでジュディがそんなこと言うの?」
「ユカに聞いたデスよ!ヒヨリ、ユータのことホの字だったんでショ?」
ホの字って…いつの時代の言葉ですか。って、ユカほんとおしゃべりなんだから。
どうしてそんな勝ち誇った顔してるのよ。
「もう!ユカ勝手にぃ!」
「いいじゃない。協力者は多い方がいいわよ」
協力者って…。
ジュディが私の方を向いて申し訳なさそうに頭を下げた。
「ど、どうしたのジュディ!」
ジュディは顔をあげて私の顔をじっと見る。
そして私の両手をジュディの両手が包み込む。
「ホント、ごめんなさい!私ヒヨリの恋路邪魔してたデス!知らなかったとはいえ、大変申し訳ないでござい」
ジュディはほんと、どこで日本語を勉強してきたんだろう。
「いいんだよ!そんなに謝らなくても。私別に気にしてないし!」
ちょっと、ズキズキしたことはあったけど、ジュディのおかげで藤井先輩への気持ち気付くことができたんだもん。
逆に感謝だよ。
「それを聞いてワタシとても安心したヨ!これで思う存分陽依の恋を応援できる!」
ジュディは腕まくりをして、高らかに拳をつきあげた。
「ちょっと…待って」
「なに?ワタシがチアリーダーじゃ不満デスカ?」
不満とかそういうんじゃなくて…なんというか…。
「そっとしておいてほしいっていうか」
この発言に、ジュディとユカは眉毛をつりあげた。
なぬっ!?
「陽依!あんたが甘いものに目がないのは知ってるけれど、ここまで自分にも甘いなんて知らなかったわ!」
すごい剣幕です、ユカ様。
「Love is war!恋は戦争ヨ!そんな甘っちょろい装備じゃ、すぐに負けてしまうヨ!」
今日からジュディ様と呼ばせていただきます。
「だって…私…先輩に嫌われちゃったもん。今さら近づけないよ…」
ため息交じりに言う。
「「はぁ!?」」
女子のほとんどいない教室に、ユカ様とジュディ様の声がこだまする。
「陽依ってば……」
「ユカ、これってjokeでなくマジ発言ですノ?」
ユカはあきれたように頭を抱えて、ジュディは意味が分からないというようなジェスチャーをしている。
「どうしたの?二人とも」
「“どうしたの”ってあんたがそれを言う!?」
「ジュディ、初めて鈍感という言葉をちゃんと理解できたデス」
ユカは、頭をかかえたまま、「なんで嫌われてるって思ってるわけよ。ばかばかしいけど一応聞いとくわ」と半ば投げやりに言った。
そんな嫌々聞かれてもなぁ。
話すことを躊躇してると、ジュディが「早く話す!!hurry up!」
私は、しかたなく藤井先輩との一連の話を二人に話すことにした。
「えっと…おとといね…」
ユカとジュディにまくしたてられるままに私はおとといから今日までのことを話し終えた。
「あのバカ」
聞き終わったユカの第一声。
そうだよね。私バカです。
「そうだよね、なんであんな事言っちゃったんだろ。私ってほんとバカだぁ」
「私がバカって言ってんのは藤井の方!まぁ陽依も十分バカだけど」
えっ藤井先輩の方?さっきからユカ、藤井先輩のこと呼び捨てだよ。
「ユータは背は高いのにチキンデス!」
ジュディとユカは、まだ階段のところで足止めをくらっている藤井を見つめてあきれた表情をした。
「なんで?なんで?私がひどいこと藤井先輩に言ったのに…先輩がそんなに言われるの?」
どうして、ユカ達がそんなに先輩を責めるのか分からない。
悪いのは全部私なのに。
「そ、それは…ねぇ?」
「そ、そうネ、アレよネ」
「そうそうアレアレ」
突然慌てだす二人。
「アレってなに?」
「アレはアレよ。ねっジュディ」
「そうデス。アレです」
意味わかんない。
「アレじゃ分かんな≪キーンコーン……≫
「あっ、チャイム鳴ったし席つかなきゃ、じゃまた!」
ユカは自分の席に走っていった。
ジュディは隣のせきに座って、わざとらしくいそいそと鞄の中身を整理し始める。んもう!二人ともおかしいよ!




