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「ヒヨリ?何ぼーっとしてるネ!おいていくデスヨ」
「あっ!ごめんごめん」
先輩とジュディは私を心配そうに見ていた。
「次はあれしたい!ユータ!」
私がついてくるのを確認したジュディは次の屋台を指差して、藤井先輩の腕に自分の腕を絡めて、引っ張って行った。
「ちょ、こら待てジュディ!」
呼び捨てにするの、私だけじゃないんだ。
そうだよね。
うん。
先輩みたいに人懐っこい人だったら、自然と呼び捨てにするよね。
うん。
…でも、なんだかさびしい気分になるのはなぜだろう。
おっと、下ばっかり向いていたら先輩たち見失っちゃう。
浴衣が着崩れしないように、気遣いながら走って追いつくと、先輩とジュディは射的の列に並んでいた。
「陽依大丈夫か?」
「はい!」
「ちょっと、陽依こっちくるデス」
やっと、先輩のところに追いついたかと思うと、ジュディが私の腕を引っ張って屋台の裏へと連れて行った。
「どこいくねん!」
「ユータはならんでるデース」
周りに人がいないことを確認すると、ジュディはニコっと微笑んで
「ヒヨリ!グッジョブね!私が一人でお祭来てることいつ知ったデスカ?ヒヨリは本当に恋のキューピットね!」
と飛び跳ねて喜んだ。
「え?」
「ヒヨリが私のためにユータと引き合わせてくれたんデショ?」
「えっ違」
「今から2人であそぶから!ヒヨリは任務終了ネ!thank you~」
私の声にかぶせるようにジュディはそう言うと、手を振って去って行った。
サンキューって。
任務終了ってなに?
私と先輩が一緒にお祭行こうねって話しあって、計画立てて、約束したのに。
でもうれしそうにバイバイって手を振って去って行くジュディに、本当のこと言える勇気は私にはなかった。
浴衣…お母さん一生懸命着付けてくれたのにな。
髪型も、全部。
お母さん張り切ってくれたのに、ごめんなさい。
まだヨーヨーもすくえてないし、射的で競争もできなかったな。
私は、駅の方へ、もと来た道を戻り始めた。
道行く人たちの笑顔が眩しい。
なんで私ひとりなんだろう。
なんで隣に先輩がいないんだろう。
「………っく…」
あれ?
なんで私、泣いてるの?
なにが悲しいの?
分かんないよ。
「陽依!?」
屋台裏から表に出て、少し進んだところで、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
声の方を振り返ると、そこには
「橋宮さん?大丈夫?」
「どうしたの陽依!?」
委員長とユカが心配そうな顔をしていた。
2人の顔を見た瞬間、なんだかいろんな押しこめていた気持ちがこみ上げてきて、涙があふれる。
「ふぇ…ユカぁ~」
「何?どうしたの?泣いてちゃ分かんない」
私は、優しく抱きしめてくれるユカの胸で、周りの目も気にせずにわんわん泣いた。
しばらくして、涙が落ち着いてくると、
「ここじゃあれだから、広場の方いこう?」
と、ユカが人気の少なくなった駅前の広場を指差した。
「…ひっく……うん」
とぼとぼとした足取りで、ユカに支えられながら歩く私。
隣ではオロオロと心配している委員長の姿。
ごめんね。ユカ。
せっかく2人っきりのお祭だったのに。
そう思うと、泣いている自分が情けなくなって、また涙がでてくる。
「何心配してんの?あたしらは大丈夫よ。ね?貴光」
「あぁ、祭りより、橋宮さんのほうが心配だよ」
私の気持ちを悟ったのか、ユカと委員長は優しく私に言ってくれた。
広場に着くと、空いているベンチに座った。
私の隣にユカ、ユカの隣に委員長。
「…ゆっくりでいいから、何があったのか、どうして泣いてるのか教えて?」
「あの、俺どっかいってようか?俺いないほうが…」
私は首を横に振った。
これ以上委員長に気を使わせたくない。
2人の時間を奪うわけにはいかないもの。
「陽依?」
ユカに背中をさすられて、涙もおさまってきた私は、深呼吸をして呼吸を落ち着かせた。
「あのね、ユカ。私変なの」
「あんたはいつも変でしょ?」
からかうように頭をたたくユカ。
「違うの!」
「ごめんごめん。冗談よ」
ユカはにっこり笑う。
さっきまで、激しく動いていた心臓がゆっくりと脈を打ち始めた。
ありがとうユカ。
「今日ね、私先輩と2人でお祭にきたの」
「そうなの!?私知らなかった…あれ?その肝心の藤井先輩は?」
ユカと委員長は周りを見渡す。
「ったくアイツ、陽依をほったらかしてどこほっつき歩いてんのかしら!」
「もしかして、橋宮さん、その先輩となにかあったの?」
委員長の穏やかな口調に、私は首を縦に振る。
それから私は、ジュディが現れたときのこと、屋台の裏で言われたことをユカ達に話した。
「それで陽依は帰ろうとしてたの」
「うん」
話し終わると、なんだかまた涙が溢れそうになる。
そんな私をユカはまた優しく抱きしめてくれた。
「ユカ…私分かんないの。おかしいよね…なんでこんなに涙がでるのか…自分でもわからないの」
「ばかね、もう陽依のなかに答えは出てるはずなんだけどな」
ユカは、このモヤモヤした気持ちの正体を知ってるみたい。
「なに?」
私がそう問いかけると、
「俺が言うのもなんだけど、それは教えられて分かることじゃないから」
と委員長が答える。
「そうね。…でも陽依は鈍感だからねぇ…そうだ!」
ユカは思いついた顔で、私の両肩に手を置くと、
「ヒントは教えるわ」
「ヒント!?」
ユカ様、もういっそヒントだけじゃなく答えを教えてくださいよ。
「今度藤井先輩の前で目を閉じてごらんなさい」
「ちょっと柚果!それは…」
「貴光は黙ってて」
委員長の言葉をさえぎり、ユカは続ける。
「二人きりになった時に、先輩の前で目を閉じるの。そしたら答えがわかるわ」
先輩の前で目を閉じる?
ほんとうにそんなことで答えが分かるの?
なにかのおまじないかなぁ。
「わかった!やってみる」
ユカの後ろでは、委員長がやれやれと言った表情で陽依をユカを見つめていた。
「それじゃあ、私帰るね!」
「そう?帰り道、気をつけなさいよ」
「うん!じゃあ。委員長、ユカお祭楽しんでね!」
私はユカ達と別れると、足早に家路についた。
家に帰ると、お母さんは「あら?ずいぶん早かったわね」と夕飯の準備をしている所で、お父さんは私が帰ったのを確認するといそいでカメラを持ち出してきた。
「陽依!お父さんと写真取るぞ」
三脚を立てながら楽しそうにカメラの準備をする。
なんだか、そんなお父さんの姿をみて、今日の悲しい気持ちがちょっぴりだけど減った。
家族っていいね。
「ほら、母さんも」
「もう!忙しいときに…」
そう言いながらもお母さんはエプロンを外して髪の毛を整える。
そして、少し崩れた私の浴衣をなおしてくれた。
「よし、撮るぞ!」
シャッターボタンを押すと、急いで私の隣に立つ。
ピピッ、カシャッ
「じゃあ、私着替えてくるね」
「まだだ!あともう一枚」
「えぇー」
それから、数十枚も写真をとった。
楽しかったからいいけど、さすがに疲れるよ。




