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携帯を開いて、時間を確認しながら小走りに駅まで向かう。
16:07
7分も遅刻だぁ。
先輩ごめんなさい!
やっと駅前についたけど、先輩どこだろう。
きょろきょろと、先輩の姿をさがす。
私の背が小さいからかな。
人ごみに押されて、あんまり前が見えない。
お祭ってほんとすごいなぁ。きっとみんな地元の人たちだと思うんだけど、日ごろこんなに人通りがないから、どこに隠れてたんだろうって言うぐらい人であふれている。
あーもう!せっかくお母さんに着つけてもらったのに、このままじゃくずれちゃうよ。
それよりそれより先輩さがさなくっちゃ。
思い切って呼んでみようかな、名前。
「ふっ…藤井先輩っ」
だめだ。
私、声小さい。
それに、まわりの人たちの声も大きくて、私の声はかき消されてしまう。
「ふじいせんぱいっ」
もう一回呼んでみた。
そうだ!携帯で連絡とれば…って、先輩のアドレス知らないや。
「このままじゃ会えないよ」
お母さんに可愛くしてもらったのに。
楽しみだったのに。
いっぱい、いっぱい先輩と計画練ったのに。
どんどん楽しみにしていた気持ちがしぼんでいく。
グイッ!
突然、左手を掴まれた。
なに!?またナンパな人!?
どうしよう!私はあわてて左手を振り回した。
「離して下さい!」
「俺や!」
え?
掴まれた左手を目で追っていく。
すると、その先には藤井先輩の顔があった。
「せんぱい…?」
「よかったぁ、陽依やったか。やっぱり」
先輩はそう言うと、すこし人がまばらなところまで私を連れて行ってくれた。
「駅前は人多いなぁ。祭りやもんな。もっと別のわかりやすいとこで待ち合わせすればよかったな。ごめん」
「そ、そんな。あっ先輩!どうして私の居場所分かったんですか?」
あんなに人が多いのに、私の声小さかったのに、どうして?
「陽依、俺の名前呼んでくれたやろ?」
あの声が聞こえたの?
「先輩すごいです」
「そーか?俺は陽依の声やったら、何百メートル、何千メートル離れた場所からでも聞こえるで」
そう言って、優しく笑う先輩はとても、とても、まぶしかった。
自然と頬が熱くなってくる。
あれ、なんでだろう。風邪ひいてるわけじゃないのに。
あ、そっか夕日のせいだ。
傾き始めた夕日が私のほほを染めてるんだ。
「…り?…陽依?」
「あっ、はい」
「なんやぼーっとして、人酔いしたか?」
「いえ、大丈夫です」
右ほほに添えていた手を下すと、ずっと左手ににぎったままの携帯を見る。
この人の多さだし、私小さいし、先輩とはぐれてしまいそう。
電話番号くらい教えてもらっとこうかな。
「あの、先輩?」
「なんや?」
「もし迷惑じゃなかったら、携帯番号教えてくれませんか?」
うかがうように、先輩を見上げる。
「うへぇ!?」
飛び上るように先輩は一歩下がる。
「や、いやならいいんです!大丈夫です!」
ちょっと悲しいけど。
「ちゃうちゃう!驚いただけや。いいよ。番号交換しよう?」
あ、嫌なんじゃないんだ。
よかった。
「私、背が小さいですし、迷子になってしまったらどうしようかと思って…」
「そうやな♪そんときは俺にすぐ電話するんやで?今日じゃなくても、迷子になったらいつでも駆け付けるからな!」
先輩はポケットから携帯を取り出して、赤外線の準備をする。
「ありがとうございます!先輩」
「こちらこそや!」
うれしそうに笑う先輩を見ていたら、なんだか私もうれしい気持ちになった。
それから電話番号とメールアドレスを交換した私と先輩は、駅前から大通に続く道を歩き始めた。
大通りのは歩行者天国になっていて、ところせましと屋台がならんでいて、おいしそうな香りが鼻をくすぐる。
ダンス発表が行われているステージや、カラオケ大会があるステージもあって、リズムのいい音楽がまた、祭りの空気を盛り上げていた。
「先輩、まずは何をするんでしたっけ?」
この前帰りながら計画を立てていたことを思い出してきいてみた。
「そーやな~!あ!あれしよ!あれ!」
先輩は、一つの出店を指差した。
「あっ!ヨーヨーすくい」
そういえば、この前一緒に帰ったとき、
『私、ヨーヨー好きなんですけど…なかなか自分では取れなくて…いつもお店の人が気を使ってくれて私に好きなヨーヨー選ばせてくれるんです』
『そおなんか?』
『はい。でも、やっぱり自分で取りたいじゃないですか。お店の人からもらうのちょっと悔しいんです』
『うーん…じゃあ、俺が教えたるわ!一緒に頑張ろ』
『はい!』
そんな会話をしたことを思い出した。
私って本当に不器用だから、すごくお金無駄にしちゃいそうだけど、今度こそヨーヨーをすくってみせる!
「お客さん、1回100円だよ」
つるつるに磨き上げられたスキンヘットにねじり鉢巻きを巻いた、人の良さそうなおじさんが、白い釣り針のついた紙を私と先輩に渡す。
「よーっし!俺が先に見本みせたるわ!」
先輩はそう言うと、真剣な表情で青いヨーヨーに釣り針を垂らした。
そーっと釣り針をヨーヨーから伸びているゴムの輪の中に通していく。
「よっし、ここからよーく見とくんやで?俺の華麗なヨーヨーすくいテクニック見せたるから」
先輩はヨーヨーから目を離さずにそう言うと、ゆっくりと腕を持ち上げる。
そーっと、そーっと。
それはもうゆっくりすぎるほどゆっくりと。
ビニールプールの中で横になったままのヨーヨーが徐々に上を向き始めたそのとき。
「ユータ!!」
「え!?」
ブチッ
「あー!!」
先輩の悔しそうな声が響いた。
けど、そんな先輩の声よりも、私は先輩の名前を呼ぶ声の方が気になった。
あの呼び方って、もしかして…。
私の予想は見事的中。
いつのまにか先輩の背後に胸元がパックリ開いた露出の激しい格好をしたジュディが立っていた。
「ハーイ!ユータそしてヒヨリ!こんなところで会えるなんて運命デース」
もうすでにいろいろと出店を回ったのか、ジュディの左手にはたくさんの袋がぶら下がっている。
「ジュディ、お前なぁ、せっかくのヨーヨーがすくえなかったやないか!」
先輩…いまなんて。
「ヨーヨーってなにデスカ?食べ物?」
「食べ物なわけないやろ?風船や、ちっこいな」
私をおきざりにして、先輩とジュディは、楽しく話している。
さっき、先輩がジュディのこと、“松田さん”じゃなくて“ジュディ”って呼び捨てにしたとき、なんだか胸がキュッってなった。
どうして?
なんでこんなに苦しくなるんだろう。
「陽依、もう一回やるから!見てて」
先輩は、またしゃがみこんでおじさんから釣り針をもらう。
「なんて可愛いヨーヨーね。それ取れたら私にくれるのネ!うれしい!」
「なに勝手に言ってんねん」
私は、しゃがむ2人のとなりに立って、ただその様子を見ていた。
“私が先輩といっしょにヨーヨーすくいするつもりだったのに…”
「ほら!取れたで!見てたか陽依!」
取れたてホヤホヤのヨーヨーを私に見せる先輩。
そのヨーヨーを私に渡そうと、先輩はヨーヨーを私に近づけた。
「ありがとう!うれしいデス!」
けれど、そのヨーヨーは、ジュディが先輩の手から無理矢理もぎとって中指に輪ゴムを通して、遊び始めた。
「おい!そのヨーヨーはなぁ!」
先輩はそのヨーヨーを取り返そうと、ジュディの手をつかんだ。
ジュディは楽しそうにその手を握り返して笑っている。
とても幸せそうに。
なんだか、私邪魔ものかな?
二人、お似合いだもんね。
美男美女だし、私なんか小さいし全然先輩のとなり釣り合わないし。
右手にもったままのヨーヨーの釣り針が、むなしく風に揺れていた。




