1
「藤井先輩のパパさん?」
「何でここにおんねん」
「…………」
このダンディなジェントルマン。
顔が誰かに似てるなぁって思ったら、藤井先輩のパパさんだからだったのか。
「黙ってへんで、答えろや」
藤井先輩は普段絶対しないような怖い顔をしてる。
初めてみる。こんな顔。
目の前にいるジェントルマン…じゃなかったパパさんは、渋い顔をしたあと、
「お前を迎えに来た」
切なそうに先輩を見つめている。
「…はははっ」
先輩の方から、乾いた笑い声が聞こえた。
「妹の次は、今度は親父かよ。いい加減にしろ」
長くて、重い沈黙が3人の間に流れる。
私、ここにいていいのかな。
邪魔者だよね。私は道を教えに来ただけだし、これ以上人様の事情に介入するのはよくない。
それに久しぶりの親子水入らずってところに、私なんか居たらダメな気がする。
少しずつ後退して、さらっと消えちゃおう。
そろーっと左足を一歩後退させるが、体はピクリとも動かなかった。
手元を見ると、パパさんが私の腕を掴んだまま藤井先輩と対峙していた。
パパさん。どうか手を離して下さい。あ!そうだ。
ここはちゃんと挨拶してから去っていけばいいんだ。
それにこんな道の真ん中で立ち話もあれだし。
「あの…私はこれで。道の真ん中で立ち話もなんですし、お二人お部屋で話された方がいいのでは?」
重苦しい沈黙の中そう私が言うと、藤井先輩は
「陽依も一緒にいてくれるなら、親父と話す」
と言いました。
あれ…。
これもしかして、私帰れない?
「そうだ。君がいてくれたほうが、僕も安心だよ」
ちょっとぉ!パパさんまで。
藤井先輩はマンションの方へ無言で入って行った。
それに続いて、私とパパさんに連れられマンションの中へ入る。
うーん、これはどうしたものか。どういう口実をつけて帰らせてもらおうか考えていると、いつのまにか藤井先輩の家の玄関まで来ていた。
手元をみると、まだパパさんが私の腕を掴んでいる。
ここまできた以上、も、もう逃げませんよ。
玄関が開いた瞬間。
「おうわぁっ」
という、先輩の悲鳴?が聞こえた。
手元から目の前に視線を戻すと、杏奈ちゃんが先輩に抱きついていた。
「どこいってたの!悠太私さがし……………オトン」
杏奈ちゃんは、先輩の背後にいるパパさんを発見して、すぐに先輩から降りた。
「あたしが連れ戻せなかったから…来たん?」
「ちがう」
「…違くない!オトンの嘘つき!あたしに任せてくれるって言うたやんか!」
杏奈ちゃんはパパさんを睨むと、自分の部屋へ走って行った。
さらに居づらいです!
何ですか?このドヨンドヨンに淀み切った空気。
今が梅雨かと思わせるぐらいに空気が重いよ。
空はこんなに晴れているのに、ここだけ雷雨!
台風注意報発令すべきだ気象庁。
「入って」
そっけなく藤井先輩がそう言うと、私の腕を握ったままのパパさんは、革靴を脱いで私と一緒に部屋へ上がった。
ソファーに私とパパさんが座って、向かいあうように椅子を置いた先輩は、その椅子に座る。
「で?何しに来たん?大阪に戻ってこいって話なら聞かんへんぞ」
パパさんは、私の腕を掴んだまま。
パパさんの手は、少し震えていた。
「…そろそろこっちに戻って来ないか?お前にはインテリアデザイナーは向いてない」
「は?」
「お前は大阪で、普通に就職して、結婚して、幸せに暮らせばいい」
「よく言うよ。親父。自分が家族壊しといて」
藤井先輩は、怒ってた。
でも、怒っていると言うより、泣いてるって感じ。
目の前の藤井先輩は凄く怒っているけれど、本当は悲しげな気持ちが伝わってくる。
「家族を壊した…?」
私は思わずつぶやいていた。
「あっ…違うんです!なんでもないんです!」
すぐに口を抑えて否定するけれど、後の祭り。
「……陽依」
先輩が私を見て切なげに呼んだ。
「はい?」
「俺ってさ、卑怯もんやで。全然…昔だれかに言われたように敬語使われるような存在やない」
どうしてそんなこと言うんですか!
「先輩は先輩です!卑怯なんかじゃないです」
「今から俺の昔話するけど、聞いてくれるか?聞いて、それで俺が卑怯者かどうか決めて」
先輩が標準語をしゃべってる。
大阪弁を話さない先輩は妙に新鮮だった。
隣のパパさんを盗み見ると、何か言いたげな顔をしていた。
「聞いていいんですか?私なんかが」
「陽依だから聞いてほしいんだ」
真剣な先輩の目と声。
まっすぐと私を見つめる瞳から目をそらせなくなった。
「聞きます。聞かせてください」
私がそう言うと、先輩は大きく息を吸って、深く息をはいた。
「陽依、さっきから気づいていると思うけど。俺は根っからの大阪人じゃない。元々はこっちの人間だった」




