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藤井先輩と私。  作者: 寿音
Ⅹ:パパさんとあの日。
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「藤井先輩のパパさん?」

「何でここにおんねん」

「…………」

このダンディなジェントルマン。

顔が誰かに似てるなぁって思ったら、藤井先輩のパパさんだからだったのか。

「黙ってへんで、答えろや」

藤井先輩は普段絶対しないような怖い顔をしてる。

初めてみる。こんな顔。

目の前にいるジェントルマン…じゃなかったパパさんは、渋い顔をしたあと、

「お前を迎えに来た」

切なそうに先輩を見つめている。

「…はははっ」

先輩の方から、乾いた笑い声が聞こえた。

「妹の次は、今度は親父かよ。いい加減にしろ」

長くて、重い沈黙が3人の間に流れる。

私、ここにいていいのかな。

邪魔者だよね。私は道を教えに来ただけだし、これ以上人様の事情に介入するのはよくない。

それに久しぶりの親子水入らずってところに、私なんか居たらダメな気がする。

少しずつ後退して、さらっと消えちゃおう。

そろーっと左足を一歩後退させるが、体はピクリとも動かなかった。

手元を見ると、パパさんが私の腕を掴んだまま藤井先輩と対峙していた。

パパさん。どうか手を離して下さい。あ!そうだ。

ここはちゃんと挨拶してから去っていけばいいんだ。

それにこんな道の真ん中で立ち話もあれだし。

「あの…私はこれで。道の真ん中で立ち話もなんですし、お二人お部屋で話された方がいいのでは?」

重苦しい沈黙の中そう私が言うと、藤井先輩は

「陽依も一緒にいてくれるなら、親父と話す」

と言いました。

あれ…。

これもしかして、私帰れない?

「そうだ。君がいてくれたほうが、僕も安心だよ」

ちょっとぉ!パパさんまで。

藤井先輩はマンションの方へ無言で入って行った。

それに続いて、私とパパさんに連れられマンションの中へ入る。


うーん、これはどうしたものか。どういう口実をつけて帰らせてもらおうか考えていると、いつのまにか藤井先輩の家の玄関まで来ていた。

手元をみると、まだパパさんが私の腕を掴んでいる。

ここまできた以上、も、もう逃げませんよ。

玄関が開いた瞬間。

「おうわぁっ」

という、先輩の悲鳴?が聞こえた。

手元から目の前に視線を戻すと、杏奈ちゃんが先輩に抱きついていた。

「どこいってたの!悠太私さがし……………オトン」

杏奈ちゃんは、先輩の背後にいるパパさんを発見して、すぐに先輩から降りた。

「あたしが連れ戻せなかったから…来たん?」

「ちがう」

「…違くない!オトンの嘘つき!あたしに任せてくれるって言うたやんか!」

杏奈ちゃんはパパさんを睨むと、自分の部屋へ走って行った。

さらに居づらいです!

何ですか?このドヨンドヨンに淀み切った空気。

今が梅雨かと思わせるぐらいに空気が重いよ。

空はこんなに晴れているのに、ここだけ雷雨!

台風注意報発令すべきだ気象庁。


「入って」

そっけなく藤井先輩がそう言うと、私の腕を握ったままのパパさんは、革靴を脱いで私と一緒に部屋へ上がった。

ソファーに私とパパさんが座って、向かいあうように椅子を置いた先輩は、その椅子に座る。

「で?何しに来たん?大阪に戻ってこいって話なら聞かんへんぞ」

パパさんは、私の腕を掴んだまま。

パパさんの手は、少し震えていた。

「…そろそろこっちに戻って来ないか?お前にはインテリアデザイナーは向いてない」

「は?」

「お前は大阪で、普通に就職して、結婚して、幸せに暮らせばいい」

「よく言うよ。親父。自分が家族壊しといて」

藤井先輩は、怒ってた。

でも、怒っていると言うより、泣いてるって感じ。

目の前の藤井先輩は凄く怒っているけれど、本当は悲しげな気持ちが伝わってくる。


「家族を壊した…?」

私は思わずつぶやいていた。

「あっ…違うんです!なんでもないんです!」

すぐに口を抑えて否定するけれど、後の祭り。

「……陽依」

先輩が私を見て切なげに呼んだ。

「はい?」

「俺ってさ、卑怯もんやで。全然…昔だれかに言われたように敬語使われるような存在やない」

どうしてそんなこと言うんですか!

「先輩は先輩です!卑怯なんかじゃないです」

「今から俺の昔話するけど、聞いてくれるか?聞いて、それで俺が卑怯者かどうか決めて」

先輩が標準語をしゃべってる。

大阪弁を話さない先輩は妙に新鮮だった。

隣のパパさんを盗み見ると、何か言いたげな顔をしていた。

「聞いていいんですか?私なんかが」

「陽依だから聞いてほしいんだ」

真剣な先輩の目と声。

まっすぐと私を見つめる瞳から目をそらせなくなった。

「聞きます。聞かせてください」

私がそう言うと、先輩は大きく息を吸って、深く息をはいた。

「陽依、さっきから気づいていると思うけど。俺は根っからの大阪人じゃない。元々はこっちの人間だった」






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