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藤井先輩と私。  作者: 寿音
Ⅸ:妹とパパさん。
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「……はい?」

「ここは、どこだろう?」

「駅ですけど」

「ハッ!駅だったのか、ここは!」

なにをおっしゃってるのでしょう。

ダンディなジェントルマンさんをもう一度ゆっくりみてみると、おかしな部分を発見した。手に持っている物。

「……それって」

「あぁ、実は僕、方向音痴でね、地図がないとだめなんだよ」

えぇと、しかしですね、その地図は、

「それって、世界地図ですよ?」

「そうだけど?」

キラキラ紳士スマイル眩しすぎます。

「この地図を見て駅を目指していたんだが、まさかもう着いていたとは、驚いた。案外僕は方向音痴ではないのかもしれないな。だとすると、これから行く目的地もすぐ着けるかもしれん」

逆に凄いです。

世界地図でここまでくるなんて。

そもそも目的地ってどこなんだろう。

「どこに行きたいんですか?」

「星谷町なんだが…」

あ、先輩の住んでる町だ。

「でしたら、電車ですぐですよ?」

「そうかい?じゃあ僕は電車に乗るよ。乗り場はどこだろう。ふむ。こっちかな。あ、君ありがとう。では」

ダンディなジェントルマンは、私の両手を持って握手をすると、本屋の方へ歩いて行った。

「あの!」

まさかだけど。

「どこに行こうとしてます?」

一応聞いておこう。

「切符売場だよ」

この人、きっと一人じゃ星谷町に辿りつけないよ。

「あの…もし迷惑じゃなかったら、案内しましょうか星谷町まで」

そう言うと、ジェントルマンさんは、とびっきりの笑顔になった。


切符を買い、改札を通って駅のホームに並んで立つ。

「すまないね。ついてきてもらって」

「いえ、私も暇を持て余していましたから」

「そうか。…君は中学生?」

「いえ…高校一年生です」

「えっ!?」

そんなに驚いた顔しなくても。

私ってそんなに幼く見えるのかな。

身長は低いけど、大人っぽく見える人はいくらでもいるし、いいなぁ大人の女性ってうらやましい。

「僕にも同じぐらいの息子と娘がいるんだよ」

「お子さんがいらっしゃるんですか?」

「見えないかい?僕はこれでも40代なんだけどな」

絶対40代には見えない。

うちのお父さんより遥かに若い。

身長高いし、顔とか芸能人並みに綺麗だし、それに、姿勢とか動きとかが紳士的すぎて二児の父っぽくは見えない。

「昔はこっちに住んでいたんだけどね、引っ越してからもう何年も経っているから、土地勘とか忘れちゃってね。迷ってしまったよ」

土地勘とか、もうその域の問題ではないような。

「今はどちらにお住みなんですか?」

「大阪だよ」

その瞬間、なぜだか、頭の中に藤井先輩の顔が浮かんだ。

私の脳の中で「大阪」という単語で先輩の顔がヒットしたらしい。

「……ぼーっとして、どうしたんだい?電車が来たみたいだよ」

「あっ、はい!ってそっちの電車じゃないです」

逆方向へ向かう電車に乗ろうとするジェントルマンを止めて、星谷町を通る電車へ連れていく私。

「君がいなかったら、きっと僕はずっと彷徨ってただろうね。ありがとう」

走り出した電車の中で、ジェントルマンはまた満面の笑顔で私に言った。

優しい表情のジェントルマン。

そうだ、藤井先輩のお父さんはいったいどんな人なんだろう。

同じ大阪の人なのに流暢に標準語を話しているジェントルマンと、コテコテの関西弁を話す藤井先輩を比べて、ふと私はそう思った。


星谷町の駅ホームに降り立つと、

「ありがとう、もう大丈夫だよ。ここからは地図を見て行くから」

とジェントルマンは笑った。

地図って、その世界地図でですか?

一度乗りかかった船だ、最後までお供しようじゃないの!

「あの、目的地とか教えて下さったら、そこまで案内しますけど…」

「それは悪いよ。……でも、君がそこまで言うなら…連れてってもらっていいかな?」

申し訳なさそうに、ジェントルマンは笑う。

「ご案内します」

ジェントルマンは、右のポケットから白いメモ帳らしきものを取り出すと、2,3ページめくると、私に見せた。

「ここなんだが…」

その紙には、

≪星谷町、マンション:クローバーシティ、3001号≫

とかかれていた。なんて偶然なんだろう。

ここって藤井先輩の家と一緒。

「私ここ知ってます!」

「そうかい?」

「はい!ここからそう遠くないですよ。このまえ藤井先輩と徒歩であるいて駅まで来ましたし!」

「君!今なんと?」

突然、ジェントルマンは私の話を遮った。

「はい?」

「いや、なんでもない。きっと聞き間違いだな。似たような苗字はいっぱいある」

独りでぶつぶつと何やらつぶやいている。ま、いいか。

「さ、行きましょう」

「あぁ」

ジェントルマンと私は、クローバーシティマンションへ歩き始めた。

「暑いですね~」

「……あぁ」

「大阪も同じぐらい暑いですか?」

「……あぁ」

あれ?さきほどまでのキラキラ紳士スマイルはどこ吹く風。

笑顔の消えた表情のジェントルマンもなかなかかっこいいけれど、マンションに近づくにつれて、ジェントルマンのテンションも下がってきているような気がする。

「あっ、あそこですよ」

私は、他のマンションより数段高いマンションを指差した。

何階建てなんだろう。

先輩は30階に住んでたけれど、エレベーターのボタンからしてまだ上に階があるようだった。

「もう着いたのか…」

ジェントルマンは、深くため息を吐いた。目的地に着いたというのになんでこんなに元気がないのだろう。普通は「着いたーやったー!」って喜ぶはずでは?あ、でもジェントルマンが、手を広げてバンザイして飛び跳ねて喜んでいるのを想像したら、それもなんか違うなと思ってしまった。


「あの…どうしたんですか。そんなため息」

「すこし…少しだけ憂鬱なんだ…」

マンションの目の前まで来ると、ジェントルマンはそこでぴたりと立ち止まった。

「入らないんですか?」

「入るよ!入るさ。あと…30秒後…いや1分後ぐらいに」

「私、もう行きますね。入り口はそこですから、もう迷わないでくださいよ?」

度を過ぎた方向音痴のジェントルマンにそう告げると、一礼して、きた道を引き返し始めた。

「ちょっと!君!行かないでくれ」

引き返せなかった。引き返そうとした一歩目で腕を掴まれた。

振り返ると、泣きそうな捨て犬のような目でこちらを見つめてくる。

なんだか、ウチのお父さんと似ている気がする。

「なんで入らないんですか?」

「大阪から、意を決して会いに来たんだが、実際目の前にすると、決心が揺らいでしまって」

「その人って?」

私がそう聞いた瞬間。

ジェントルマンの後ろ、マンションの玄関あたりから、知った声が聞こえてきた。

「陽依?」

その声は藤井先輩。

ジェントルマンと私は、藤井先輩がいるであろう後ろにゆっくりと向き直る。


「なんでここにいる…親父」


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