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サーッという清らかな噴水の水音。
風で揺れるブランコ。
砂場で遊ぶ小学生。
そして、この世のものとは思えない形相をした女と、それを見て怯える女が一人。
「え?…あの…え?」
意味が分からない。
なぜこの人が私のメアドを知ってるのですか。
一体誰が私の個人情報を流したの!?
お父さん?それともお母さん!?
もしかしてユカ!?中学の時の同級生!?
「あんた今、なんでこいつが呼びだしたんかぁ?ってパニくっとるやろ?」
はい、ご名答。
勝ち誇った顔でこちらを見据えているのは、正真正銘藤井先輩の妹であらせられます、藤井杏奈ちゃん。
「あんた、分かりやすいって人からよく言われるやろ」
「はい。若干」
というか、私の方が年上なのにどうして私が敬語で杏奈ちゃんがタメ口!?
「メアドは、悠太の携帯からパクッた。ここに呼び出したんは、他でもない悠太のことや」
どうして藤井先輩のことで私を呼び出す必要が?」
「はぁ!?…それはあんたが!!……もういい。用件だけ言う」
私が何ですか!?私藤井先輩になんかしたんですか!?
いや、ここは強気で行かなきゃ。
強気強気!相手は年下なんだし、お姉さんの威厳を見せつけてやらなきゃ。
「いいな?一回しか言わへんぞ。しっかり聞くんやで」
「はい。お母さん」
「誰がオカンじゃ!ボケ」
うぅ。強気になんて言えそうもない。
やっぱ関西人のツッコミはI't cool!
「コラ真剣に聞け」
「…はい」
ツインテールを風に揺らして睨む杏奈ちゃんは、楠木さんと同じぐらいに、いやそれ以上に怖い。
杏奈ちゃんは、私の両肩を掴んで私の目を見つめた。
そしてゆっくり口を開く。
「もう、私の悠太に近づかないで」
藤井先輩に近づくなと言われましても。
「ええな?」
どうしてそんなこと言われなきゃならないのか分からない。
「なんで、ですか?」
「理由なんてない。悠太はあたしのものやから、誰も触れて欲しくない」
杏奈ちゃんの瞳がかすかに揺れる。
杏奈ちゃんは何かを隠してるみたい。
ただのシスコンってだけじゃない気がする。それが何かは皆目見当もつかないけれど、なぜか私にはそう思えて仕方がなかった。
「杏奈ちゃん…なにか隠してる?本当はなにが言いたいの?」
「言う必要はない」
「どうして?教えてよ。……教えてくださいよ」
いちいち敬語に言い直してしまう自分が恥ずかしい。
杏奈ちゃんは、少ししてため息を吐くと、近くにある鉄棒に両腕をかけてもたれた。
「あの…杏奈ちゃん?」
「悠太を大阪に連れ戻しに来たんや。あたしは」
大阪に連れ戻すって…。
「悠太の家は、あんなマンションやない。大阪の家が本物や」
杏奈ちゃんは、悲しくて苦しい顔をした。
あっ、この表情知ってる。
藤井先輩もたまにこんな顔する。
そう、夢の話をしてるときとかに。
「あたしは、悠太と昔みたいに一緒に住みたい。笑いたい。帰ってきてほしいんよ」
杏奈ちゃんは、そう言うと目元をこすった。
泣いてるのかな。
そう思っていたら、「泣いてませ~ん」と、充血した目でこっちをにらんだ。
「藤井先輩は、大阪にどうして帰らないんですか?どうしてこっちに来たんですか?」
夢の他にも、藤井先輩がこっちに来た理由があるのかもしれない。
「オトンと喧嘩したんや…それ以上は、言わん。もう帰る!」
そう言うと、杏奈ちゃんはこちらをちらりとも見ずに走って帰って行った。
噴水公園にポツンと取り残された私。
パパさんと喧嘩して、こっちで一人暮らしをしてる藤井先輩。
なにが2人の間に起こったんだろう。
あんなに優しくて穏やかで明るくて楽しい先輩が、パパさんと喧嘩している様子なんて全く想像ができない。
「…あそこまで話してくれるんなら、最後まで話してくれったっていいのに」
でも、本人がいない所で私が勝手に話を聞いてしまうのは良いくない。
ふと、私は夕焼けに染まる夏空を見上げた。
赤く染まった雲が、ゆっくりと流れる。
耳をすますと、子供達のはしゃぐ声がひどく懐かしく聞こえる。
「そっか、明日から夏休みか…」
だからカバンがこんなに重いのか。
宿題のたくさんつまったカバンを右肩に掛け直すと、家へ続くみちを歩き始めた。
「明日は、のんびり寝て過ごそう」
夏休みは、ゴロゴロ寝るのが一番楽しい。
宿題はいつもぎりぎりで頑張る。
まぁ、それが夏休みの醍醐味ってもんでしょ。




