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藤井先輩と私。  作者: 寿音
Ⅸ:妹とパパさん。
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サーッという清らかな噴水の水音。

風で揺れるブランコ。

砂場で遊ぶ小学生。

そして、この世のものとは思えない形相をした女と、それを見て怯える女が一人。


「え?…あの…え?」

意味が分からない。

なぜこの人が私のメアドを知ってるのですか。

一体誰が私の個人情報を流したの!?

お父さん?それともお母さん!?

もしかしてユカ!?中学の時の同級生!?

「あんた今、なんでこいつが呼びだしたんかぁ?ってパニくっとるやろ?」

はい、ご名答。

勝ち誇った顔でこちらを見据えているのは、正真正銘藤井先輩の妹であらせられます、藤井杏奈ちゃん。

「あんた、分かりやすいって人からよく言われるやろ」

「はい。若干」

というか、私の方が年上なのにどうして私が敬語で杏奈ちゃんがタメ口!?

「メアドは、悠太の携帯からパクッた。ここに呼び出したんは、他でもない悠太のことや」

どうして藤井先輩のことで私を呼び出す必要が?」

「はぁ!?…それはあんたが!!……もういい。用件だけ言う」

私が何ですか!?私藤井先輩になんかしたんですか!?

いや、ここは強気で行かなきゃ。

強気強気!相手は年下なんだし、お姉さんの威厳を見せつけてやらなきゃ。

「いいな?一回しか言わへんぞ。しっかり聞くんやで」

「はい。お母さん」

「誰がオカンじゃ!ボケ」

うぅ。強気になんて言えそうもない。

やっぱ関西人のツッコミはI't cool!

「コラ真剣に聞け」

「…はい」

ツインテールを風に揺らして睨む杏奈ちゃんは、楠木さんと同じぐらいに、いやそれ以上に怖い。

杏奈ちゃんは、私の両肩を掴んで私の目を見つめた。

そしてゆっくり口を開く。

「もう、私の悠太に近づかないで」

藤井先輩に近づくなと言われましても。

「ええな?」

どうしてそんなこと言われなきゃならないのか分からない。

「なんで、ですか?」

「理由なんてない。悠太はあたしのものやから、誰も触れて欲しくない」

杏奈ちゃんの瞳がかすかに揺れる。

杏奈ちゃんは何かを隠してるみたい。

ただのシスコンってだけじゃない気がする。それが何かは皆目見当もつかないけれど、なぜか私にはそう思えて仕方がなかった。


「杏奈ちゃん…なにか隠してる?本当はなにが言いたいの?」

「言う必要はない」

「どうして?教えてよ。……教えてくださいよ」

いちいち敬語に言い直してしまう自分が恥ずかしい。

杏奈ちゃんは、少ししてため息を吐くと、近くにある鉄棒に両腕をかけてもたれた。

「あの…杏奈ちゃん?」

「悠太を大阪に連れ戻しに来たんや。あたしは」

大阪に連れ戻すって…。

「悠太の家は、あんなマンションやない。大阪の家が本物や」

杏奈ちゃんは、悲しくて苦しい顔をした。

あっ、この表情知ってる。

藤井先輩もたまにこんな顔する。

そう、夢の話をしてるときとかに。

「あたしは、悠太と昔みたいに一緒に住みたい。笑いたい。帰ってきてほしいんよ」

杏奈ちゃんは、そう言うと目元をこすった。

泣いてるのかな。

そう思っていたら、「泣いてませ~ん」と、充血した目でこっちをにらんだ。

「藤井先輩は、大阪にどうして帰らないんですか?どうしてこっちに来たんですか?」

夢の他にも、藤井先輩がこっちに来た理由があるのかもしれない。

「オトンと喧嘩したんや…それ以上は、言わん。もう帰る!」

そう言うと、杏奈ちゃんはこちらをちらりとも見ずに走って帰って行った。

噴水公園にポツンと取り残された私。


パパさんと喧嘩して、こっちで一人暮らしをしてる藤井先輩。

なにが2人の間に起こったんだろう。

あんなに優しくて穏やかで明るくて楽しい先輩が、パパさんと喧嘩している様子なんて全く想像ができない。

「…あそこまで話してくれるんなら、最後まで話してくれったっていいのに」

でも、本人がいない所で私が勝手に話を聞いてしまうのは良いくない。


ふと、私は夕焼けに染まる夏空を見上げた。

赤く染まった雲が、ゆっくりと流れる。

耳をすますと、子供達のはしゃぐ声がひどく懐かしく聞こえる。

「そっか、明日から夏休みか…」

だからカバンがこんなに重いのか。

宿題のたくさんつまったカバンを右肩に掛け直すと、家へ続くみちを歩き始めた。

「明日は、のんびり寝て過ごそう」

夏休みは、ゴロゴロ寝るのが一番楽しい。

宿題はいつもぎりぎりで頑張る。

まぁ、それが夏休みの醍醐味ってもんでしょ。


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