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教室――――
「わわわわ…」
「陽依はみたらアカン」
私の目の前は真っ暗になった。
いや違う、赤くなった。
私の視界は藤井先輩の手のひらで隠されて、その掌を夕陽の眩しい光が照らして、私の眼には赤く映る。
「先輩!見えません」
私は教室の2人に聞こえないように小さな声で訴える。
藤井先輩は手のひらをどけようとしない。
「陽依には早い!こういうのは大人になってからや」
「先輩も十分子供です!」
私の目がふさがれる前までの光景は、影法師がふたつ重なり合っていたから、そのあとどうなったかは分かる。
言葉は聞こえなかったけど、2人が抱きしめあったことでどういうことが起こったのかはだいたい予想できた。な、なんとなくだけど。
「俺達邪魔やろうから、帰るか?」
そう言って藤井先輩は私の視界を解放する。
教室は夕陽の中で笑いあう2人の姿があった。
「そうですね」
私と藤井先輩はそっと廊下を低い姿勢で進んでいき、靴箱へ走った。
「靴箱で待ってて、一緒に帰ろう」
藤井先輩はそう言って自分の靴箱へ走る。
「待ったか?」
「いえ、先輩足早いですね」
先輩は自分の靴を持って私の靴箱にやってきた。
二人で玄関で靴をはき、外に出る。
「あっついなー」
「はい」
「もうすぐ夏休みやもんな」
「はい」
「ほな、行くか」
先輩の隣を歩く私。
いいのかな。藤井ファンクラブ。
楠木さんが望遠鏡で私達を観察してそうで怖い。
も、もしかして前を歩く人たちも、密偵的な何か?
そう思うと背中がぞくっとした。
でも、私と先輩はの関係は、恋愛関係じゃない。
「私」と「先輩」の関係。友達でもなく、ましてや恋人でもない。ただの先輩と後輩。それ以外に何か名前があるのかな。
あったら誰か教えてほしい。だってなんだか「先輩」と「後輩」って名前じゃ寂しいから。
「陽依、夏休み予定あるか?」
「いえ、まだないですね。ユカと遊びに行ったり、お祭行くぐらいしか予定ないです。宿題もやんなきゃ」
「そうか。祭3日間あるけど3日ともユカと一緒に行くんか?」
「いえ、1日だけですけど」
それからしばらくたって、先輩は恥ずかしそうに頭をかきながら
「じゃあ、俺と行かへん?」
と言った。
「いいですよ」
先輩といると楽しいし、お祭は何回行ってもわくわく感は減ることはない。
「ほんまか?」
「はい!毎年1回しか行かなかったから、回れないところもあって、先輩こそいいんですか?私で」
「陽依がええんや!よっしゃ!」
先輩はガッツポーズすると、校門へスキップしていきました。
「待ってくださいよ~先輩」
置いて行かれないように慌てて追いかける私。
校門へ走って行った先輩に追いつくと、先輩は校門の入り口で立ち止まっていた。
「先輩?」
私は先輩の隣に立ち、顔を覗き込んだ。
先輩の目は一点を見つめたまま、瞬き一つしない。
どうしたんですか?先輩!
私は心配になって先輩の肩に触れてみた。
「私の悠太に触れるなーーー!」
ダダダダダダダダダダダッというイノシシがこちらへ駆けてくるような音が聞こえたかと思うと、次の瞬間ほっぺたに衝撃が走った。
バシーーーーン。私の左頬が燃えるように熱くなって、ジンジンと痛む。
「いったい誰の許可を得て私の悠太に触れとるねん!」
頬の痛みとともに、目の前のかわいらしい少女に似つかわしくない言葉が聞こえてくる。
「なにしとんねん!杏奈」
さっきの私の頬を叩いた音で我に返った先輩は、私と“アンナ”って子の間に入った。
「先輩…この子」
一体誰ですか?と聞こうとしたら、先輩に代わって少女が答えた。
「あたしは、大阪の悠太の彼女や!べーっ」
思いっきり、舌をだしてアカンベーする“アンナちゃん”。
頬を殴られて、ほんとは怒ってもいいはずなのに、なんだかそんなアンナちゃんが可愛くおもえた。
この女の子が、先輩の彼女。
先輩彼女いたんじゃないですか。
しかも、とってもかわいい。
私なんかといるより絶対、先輩には“アンナちゃん”が似合ってる。
「お邪魔しちゃ悪いですね。私先に帰ります。じゃ」
私は先輩に頭を下げると、校門を出た。
後ろから「陽依待ってくれ」って先輩の声がしたけど、私は早足で振り返らずに家に帰った。
どうしてだろう。もやもやする。




