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デスティニーランドから数日経ったある日。
あれから梶瀬君は私のもとに現れなくなった。
文房具屋へも行く機会があったけど、会うことはなかった。
会いたいわけじゃないけど、あの出来事で、梶瀬君ともう友達にも戻れないのかなと思うと寂しい。
ユカが「今はそっとしておきな。心の整理がついたら会いに来るわよ」って励ましてくれたけど、梶瀬君は友達としてとても大切だから、また普通に話が出来る日が来ればいいなって思う。
「き…き…起立」
「みっみなさん…起立してください…」
ん?あ、今、朝のHR中だった。
机の木目を見て悩んでる場合じゃない。
もうすぐ夏休みなんだし、だからこそしゃきっとしなきゃ。
そう思って、起立するけれど、私とユカと委員長以外誰も立っていなくて、他の子たちはずっとおしゃべりしている。
「みみ…みなさん、朝のHR始めますから起立してください」
委員長は必死に言ってみんなを起立させる。
うちのクラスの担任は放任主義のため、すべてを委員長に任せているらしく、教卓のところでにこやかにクラス中を眺めていた。
それでいいんですか先生!とか思ったりするんだけど、先生に意見が出来るほど成績もよくないので、私は何も言えずにいる。
やっと一人、また一人と起立していきHR終了2分前になってやっとみんな立った。
うちのクラスの朝のHRはいつもこんな感じ。
委員長は、結構長身でスタイルは良いのだけれど、どでかいメガネとボサボサの髪型とおどおどした性格がたたってクラスでは影が薄い。
委員長なのに。
たしか、名前は小西貴光。
優しい性格だからか、一度も怒ったところを見たことがないし、なかなか決まらなかった委員長選出のクラス会議のときに、自分から委員長に立候補してくれた。そういう積極性はあるんだけど、クラスではいまいち光らない。
どうしてかな。
「起立、れっ礼、着席」
その声と同時にチャイムがなった。
HR終了。
担任は、「特に連絡はない。今日も一日頑張れ」と言い残し、去って行った。
みんなのために立候補してくれた委員長なのに、なんだか少し可哀そうな気がする。
そんなふうに思って小西君を見ていたら、ユカが小西に近づいていくのが見えた。
バシッ!
背中を思いっきりユカが叩いている。
うわぁ…痛そう。
「しっかり声出さなきゃ、聞こえないわよあんなの!」
小西君がなにを言っているのかはわからないけど、ユカの声だけははっきり聞こえた。
様子からして、小西君は必死で謝っているみたい。
ユカが小西君としゃべってるの初めて見たかも。
なんとなくだけれど、怒った顔のユカは少し幸せそうだった。
そっかユカ様、ドSだもんね。
「ユカっていつのまに、小西くんと仲良くなったの?」
休み時間。
次の数学の小テストをユカと勉強していたときに、朝のことを思い出しきいてみることにした。
「………」
あれ?聞こえなかったのかな。
もう少し大きな声で言おうか。
「ユカって!小西くんとどうして仲良い」
「バカっ!!」
ユカに思い切り口を抑えられた。
「むごっむごご…ぷはっ」
数秒して、窒息死しそうになったところでユカは解放してくれた。
「っはぁ…もう!いったい何……なの」
そう言ってユカを見ると、ユカの顔に言葉を失った。
別に不細工な顔ってわけじゃない。ちゃんとユカの顔。
すごく可愛かった。
頬を赤く染めて、目を潤ませて斜め下を向いて、恥ずかしそうにしているユカがとても新鮮で。
とても可愛かったの。
もしかして…。
「もしかして!ユカ、こに」
小西君のことが好きなの?って聞こうとしたら途中でまた口をふさがれてしまった。
「だから黙れ…それ以上言ったらその口もぎ取るよ!」
うわ。口もぎ取られた自分想像しちゃったよ。って、でもやっぱり、ユカって小西くんが好きなの?
それからすぐにチャイムが鳴って、それ以上はユカに聞くことができなかった。




