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「あのね!私…」
言わなきゃ!
「わたし…」
「俺のこと振ろうとしてる?」
笑顔が少し切ない表情に変わって、うつむいたかと思うと、ちょっと遠くの空を見つめる梶瀬君。
私が何を言おうとしているのか、梶瀬君にはお見通しだったみたい。
「でも、聞かないよ。俺。聞いてなんかやんない」
そう言って、耳をふさぎ目を閉じる。
どうしよう。でも言わなくちゃ。
耳を塞がれたら私の言いたいこと絶対伝わらない。
どうしよう。
せっかく、ユカが作ってくれたチャンスなのに。
私がどうしようかずっと悩んでいると、突然体が梶瀬君の方へ引き寄せられた。
―――ハンバーガーショップ
「痛いって…そんな強く引っ張ったら俺の一張羅伸びてまうやろ」
園内の食品を扱ったフードコートでは、どこも客が列を作っていた。
「って…並ばんのか!?」
ユカは黙って、ハンバーガーショップの前の縁石に座る。
「…………」
何も言わないユカ。
痺れを切らした藤井は、ユカの隣に座ってユカの顔を覗き込む。
「気持ち悪いわね。こっちみないでよ」
「じゃあ、なんで並ばないの?質問に答えてくれ」
「突然標準語しゃべられるとキモイ」
「きっつー。俺はもともとこっち出身やの!大阪は第二の故郷や」
「へー」
今頃、梶瀬と陽依はどうしてるだろうか。
梶瀬手ぇ出してへんやろな~。と、藤井は思っていて、今更気がついた。
「わざと二人っきりにしたんか!?」
「そうよ。早く戻って話終わってなかったら気まずいでしょ。だから一時ここにいるの」
「俺やっぱ、行く」
「やめて、陽依の頑張りを無駄にしないでよ」
それって、梶瀬に陽依が告白するってことか?
好きだから?
俺らがいたら邪魔?。
藤井は、ネガティブな方に妄想を膨らませている。
「陽依、ちゃんと言えるかな?」
ユカは、となりでずーんと暗くなっている藤井を見て、少し笑って
「あんたにはこっちが似合ってるのかもしれないね」
と小さく呟くと、空を見た。
引き寄せられた体。
梶瀬君のシャツに顔をうずめる形になった。
ぎゅっと抱きしめられて、梶瀬君のあったかい体温が伝わる。
どうしていいかわからずに、そのまま抱きしめられた。
いったいどのくらいそうしていたのだろう、ふと抱きしめる腕の力が少しだけゆるんだ。
「橋宮」
名前を呼ばれて、見上げると、視界いっぱいに梶瀬君の顔があってびっくりした。
いっぱいいっぱいになって梶瀬君の瞳を見つめていたら、その顔がどんどん近づいてきたことに気が付いた。
徐々に近づく黒くて大きな瞳。
近づく唇。
梶瀬君の前髪がわたしのおでこに触れる。
いつもと違う梶瀬君がそこにいて、私の知らない表情の梶瀬君がいて。
真剣な眼差しが痛いほど怖い。
私、このまましちゃうの?
初めてのキス。
ファーストキスって好きな人とするって決めてた。
漫画とかで幸せなキスを見て、私もこんな風に好きな人とキスしてみたいなって思ったりもした。
でも、私今キスしたくない。したくないよ。
梶瀬君のこと嫌いってわけじゃない。
友達としてはすっごく好きだよ。
でも嫌、嫌なの。
梶瀬君は違うの。そういうんじゃないの。
私ののくちと梶瀬君のくちがくっつきそうになった瞬間。
「いやあぁっ!」
と、思いきり梶瀬君を突き飛ばしていた。
突き飛ばされた梶瀬君は、痛そうに胸を押さえていた。
私ひどいこと。
黙ったまま、顔を上げない梶瀬君。
「ご…ごめんなさい。私」
私はいつのまにか涙を流していて、突然揺れた視界に驚いて、それが涙のせいと分かるのに少し時間がかかった。
「言えるじゃん…、ちゃんとはっきり『嫌だ』って言えるじゃんか」
そう言って梶瀬君は私を見上げた。笑っている。
でもその笑顔はどこか偽物っぽくて、本当の笑顔じゃないってことは分かる。
「そう言えばいいんだよ。優しく断られても、俺隙を見つけて、自分の愛情押しつけるからさ」
「…痛いほど強く断ってくれてありがとな」
梶瀬君はそう言って立ち上がって私の方に近づく。
「橋宮、最後にお願いがあるんだ」
「な…に?」
涙で震える声。
「俺の名前呼んで?梶瀬じゃなくて、名前で呼んで?」
梶瀬君の名前?どうして…?
「呼んでもらったことないから記念だよ。フラれた記念」
私は涙を抑えて、涙でしゃくりあげる声を大きく息を吸って落ち着かせると、目を閉じてゆっくり目を開けた。そして、梶瀬君の下の名前を言う。
「広樹くん」
「ありがとう、橋宮」
なんか報われたよ。と小さく梶瀬君は呟いた。
「おまたせー陽依!」
それから数分経って、藤井先輩とユカが両手にハンバーガーを持ってやってきた。
「あれ?あいつは?」
藤井先輩は不思議そうに周りを見渡す。
「…なっなんか、用事思いだしたって帰りました。梶瀬君」
そう、あのあと梶瀬君は私に背を向けて
「俺、先帰るよ。あいつらには用事思い出したからって言ってくれ。ごめん」
そう言って、梶瀬君は一度も振り向かずに私の前からいなくなりました。
「なんやもーせっかくハンバーガー買ってきたのに。もったいなー俺が食うで」
藤井先輩は両手のハンバーガーをパクパクと頬張る。
さっきまで気分悪そうにしてたのに、顔色良くなってるしもういいのかな?
元気になるの早いな。
「ほら、陽依。食べな」
ユカの手のひらに乗ったハンバーガーがこちらにのびる。
「そうやで、めっちゃうまい!……って陽依、目赤いけどどうした?おなか痛いんか?」
「あっちがうんです…これは」
これは、梶瀬君を傷つけちゃったから。なんて、そんなこと言えるわけない。
私は、ユカからハンバーガーを受け取ると、包み紙を破って勢いよく頬張った。
喉につまりそうになりながらも一気にハンバーガーを食べる。
「藤井先輩、ハンバーガーおいしいですね」
私うまく笑えているかな?
先輩やユカに心配かけたくない。
「そうやろ?このハンバーガーは世界に誇れるうまさや!」
「なわけないでしょ。私はモスのほうが好きだけど」
「何言うてんねん!これやからハンバーガーのなんたるかを知らんガキは」
「はぁ?ガキですって!?」
「あははっ」
なんだか、先輩の明るさに救われた気がする。
私のとなりに座ったユカが藤井先輩に聞こえないように「頑張ったね」と言ったので、また少し涙が出そうになった。




