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藤井先輩と私。  作者: 寿音
Ⅵ:3人とユカ。
18/83

「まだ、時間あるなぁジュースでも飲むか?」

腕時計を見ながら藤井先輩は尋ねた。

「のどは渇いてないので大丈夫です」

「そーか」

夏の日差しを浴びて温かくなった風が吹く。

先輩と私は、2人静かに青く澄み渡った空を見上げた。

「空、青いなぁ」

「そうですね」

長く沈黙が続くけれど、苦痛ではなかった。

のほほんと時が過ぎる。

「陽依は進学するんか?」

「たぶん…進学しますね。入学したてで夢とかなにもないので、とりあえず今のところは進学です」

スイーツに囲まれて過ごしたいって気持ちはあるけど、パティシエになりたいかって聞かれたらそうでもない。

といあえずは今は勉強しなくちゃだけど、苦手な教科が多すぎて…。

そうだ、先輩は何になりたいんだろう。

あっ!そういえば、この前ホームセンターで雨宿りしたとき、インテリアデザイナーになりたいって言ってたっけ。

「先輩は、インテリアデザイナーになるんでしたよね?」

「そおや、誰が何と言おうとなったる!絶対」

「先輩なら大丈夫ですよ。なれます!」

私がそう言うと、先輩は眉毛をハの字に曲げて嬉しそうに笑った。

でもホームセンターで見たときと同じどこか悲しそうな笑顔。

どうして先輩はそんな顔をするの?


「先輩…?」

勇気を出して聞いてみようとしたとき、

「ひ~よ~り~」

ユカの声が耳に届いた。

「ユカ!」

手を振って掛けてくるユカの後ろには、ポケットに手を入れて堂々と歩く梶瀬君の姿があった。

「橋宮、待った?」

梶瀬君は、私の目の前に来てそう言う。

「なんやコラ。その少女漫画でよくあるセリフ聞き捨てならへんなぁ…彼氏づらしないでくれますかー」

「ハッ。相変わらずおっさんは朝から暑苦しいな」

藤井先輩と梶瀬君は相変わらず犬猿の仲。

「陽依!ちょっとこっち」

ユカに手を引っ張られる。

「何ユカ?」

「今日のこと忘れてないわよね?」

今日のこと………ん?なんだっけ?

「その顔は忘れてるわね」

「あ!お断りするんだった!」

「私がちゃんと段取ってあげるから、ちゃんと言うのよ。なんて言うのか分かってる?」

「うん。『梶瀬君。ごめんなさい。お付き合いできません』」

「よく言えました。しくじったら…」

すごい顔ですごまれて私の顔から血の気が引いた。

「分かってる!ちゃんと言いますユカ様!!」

その言葉を聞いたユカは安心して、2人の元へ戻った。

「ほら、橋宮の分のチケット」

梶瀬君からチケットを受け取る。

「やっぱ、デスティニーランドで渡すよ。橋宮失くしそうだし」

とチケットをしまわれた。

「えぇー梶瀬君のいじわる!!」

ギンッ!!!!

ひどい殺気がして振り返ると、ユカが鬼の形相でにらんでいた。

口をパクパクしている。

「そ・れ・い・じょ・う・く・ち・き・く・な」

それ以上口きくな。

ユカはそう言っていた。

そうだよね。

いまからお付き合いをお断りしようとしている人に、そんな馴れ馴れしくしたらいけないよね。

駅までの道のりは、みんな無言で歩いた。

あれれ今から遊園地行くんだよね?私たち。


駅に着いて、各々切符を買うと、ホームで一列に並び電車を待った。

≪デスティニーランド行き≫

手に持った切符が震える。緊張してるんだ私。

「陽依!楽しもうな!」

「はい!」

先輩の満天の笑顔を見ていたら、自然と震えが止まっていた。

それから、電車が来て乗り込むと、数分でデスティニーランドに着いた。

電車のホームはすでに家族連れやカップルであふれていて、デスティニーランドオリジナルキャラクターのデスティンくんが出迎えてくれた。

「わぁ!可愛い」

デスティンくんと握手する。

「デスティンくんて実は34歳なんやって」

藤井先輩がデスティンくんの頭をなでながら言った。

「パンフレッドに載ってたで。デスティンくんの設定」

「意外とおっさんだな。お前みたいに」

「なんやとオラー!」

いつでもどこでもけんかになっちゃうんですね。

「ほら、ボケッとしてないで行くわよ。アホザル2匹と陽依!」

ユカのその声でやっと、デスティニーランドへつづく階段をおり始めた私たちなのでした。


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