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「まだ、時間あるなぁジュースでも飲むか?」
腕時計を見ながら藤井先輩は尋ねた。
「のどは渇いてないので大丈夫です」
「そーか」
夏の日差しを浴びて温かくなった風が吹く。
先輩と私は、2人静かに青く澄み渡った空を見上げた。
「空、青いなぁ」
「そうですね」
長く沈黙が続くけれど、苦痛ではなかった。
のほほんと時が過ぎる。
「陽依は進学するんか?」
「たぶん…進学しますね。入学したてで夢とかなにもないので、とりあえず今のところは進学です」
スイーツに囲まれて過ごしたいって気持ちはあるけど、パティシエになりたいかって聞かれたらそうでもない。
といあえずは今は勉強しなくちゃだけど、苦手な教科が多すぎて…。
そうだ、先輩は何になりたいんだろう。
あっ!そういえば、この前ホームセンターで雨宿りしたとき、インテリアデザイナーになりたいって言ってたっけ。
「先輩は、インテリアデザイナーになるんでしたよね?」
「そおや、誰が何と言おうとなったる!絶対」
「先輩なら大丈夫ですよ。なれます!」
私がそう言うと、先輩は眉毛をハの字に曲げて嬉しそうに笑った。
でもホームセンターで見たときと同じどこか悲しそうな笑顔。
どうして先輩はそんな顔をするの?
「先輩…?」
勇気を出して聞いてみようとしたとき、
「ひ~よ~り~」
ユカの声が耳に届いた。
「ユカ!」
手を振って掛けてくるユカの後ろには、ポケットに手を入れて堂々と歩く梶瀬君の姿があった。
「橋宮、待った?」
梶瀬君は、私の目の前に来てそう言う。
「なんやコラ。その少女漫画でよくあるセリフ聞き捨てならへんなぁ…彼氏づらしないでくれますかー」
「ハッ。相変わらずおっさんは朝から暑苦しいな」
藤井先輩と梶瀬君は相変わらず犬猿の仲。
「陽依!ちょっとこっち」
ユカに手を引っ張られる。
「何ユカ?」
「今日のこと忘れてないわよね?」
今日のこと………ん?なんだっけ?
「その顔は忘れてるわね」
「あ!お断りするんだった!」
「私がちゃんと段取ってあげるから、ちゃんと言うのよ。なんて言うのか分かってる?」
「うん。『梶瀬君。ごめんなさい。お付き合いできません』」
「よく言えました。しくじったら…」
すごい顔ですごまれて私の顔から血の気が引いた。
「分かってる!ちゃんと言いますユカ様!!」
その言葉を聞いたユカは安心して、2人の元へ戻った。
「ほら、橋宮の分のチケット」
梶瀬君からチケットを受け取る。
「やっぱ、デスティニーランドで渡すよ。橋宮失くしそうだし」
とチケットをしまわれた。
「えぇー梶瀬君のいじわる!!」
ギンッ!!!!
ひどい殺気がして振り返ると、ユカが鬼の形相でにらんでいた。
口をパクパクしている。
「そ・れ・い・じょ・う・く・ち・き・く・な」
それ以上口きくな。
ユカはそう言っていた。
そうだよね。
いまからお付き合いをお断りしようとしている人に、そんな馴れ馴れしくしたらいけないよね。
駅までの道のりは、みんな無言で歩いた。
あれれ今から遊園地行くんだよね?私たち。
駅に着いて、各々切符を買うと、ホームで一列に並び電車を待った。
≪デスティニーランド行き≫
手に持った切符が震える。緊張してるんだ私。
「陽依!楽しもうな!」
「はい!」
先輩の満天の笑顔を見ていたら、自然と震えが止まっていた。
それから、電車が来て乗り込むと、数分でデスティニーランドに着いた。
電車のホームはすでに家族連れやカップルであふれていて、デスティニーランドオリジナルキャラクターのデスティンくんが出迎えてくれた。
「わぁ!可愛い」
デスティンくんと握手する。
「デスティンくんて実は34歳なんやって」
藤井先輩がデスティンくんの頭をなでながら言った。
「パンフレッドに載ってたで。デスティンくんの設定」
「意外とおっさんだな。お前みたいに」
「なんやとオラー!」
いつでもどこでもけんかになっちゃうんですね。
「ほら、ボケッとしてないで行くわよ。アホザル2匹と陽依!」
ユカのその声でやっと、デスティニーランドへつづく階段をおり始めた私たちなのでした。




