2
集合時間は10時。
うーん、只今。9時。
そしてここは駅。
やっぱりだいぶ早く着いちゃったなぁ。
ものすごくスローペースで歩いても30分しか時間が経たなかった。
それにしても日曜の駅前は人が多い。
ほとんどがカップル。
「みんなすごいなぁ…」
同年代の友達とか、ほとんど彼氏いるし、ホントすごい。
恋とかしてるんだぁ、みんな。
噴水の近くの椅子に腰かけた。
こんな暇なときは、人間観察に限る。
身長の高い女の子と私と同じぐらいの身長の男の子のカップル。
ロリータファッションの子とV系のファッションのカップル。
いろんなカップルを見てほんと恋愛ってすごいと思う。
すごい。 恋ってすごい。
いいなぁ、いつか私もあんな風に幸せな恋をしてみたいな。
じーっと、人間観察していると、
突然前が見えなくなった。
「あれ?」
よく見ると、目の前に人が立っているみたい。
誰かなぁ?
ユカ?藤井先輩?梶瀬君?
見上げると、
「君かわいいね!誰か待ってんの?」
見たこともない男の人がいた。
口にはピアス。鼻にもピアス。金髪に近い茶髪で、赤いメッシュがところどころに入っていて、にやにやしててなんか怖い。
「ねぇ?暇なら俺とあそぼーよ」
これは逃げなきゃ。なんか危ないかもしれない。
逃げようと立ち上がると、腕を掴まれた。
「痛いっ」
「ごめーん。お詫びにさなにかおごるし」
強くつかまれた腕が、じんじんと痛む。
怖い、離してよ。
誰か。
まだ集合時間まで長いし、みんな来ないしどうしよう。
「お願いですから離して下さい!」
掴まれている手を振りほどこうとしても、力が強くてはらえない。
「離してあげてもいいよ。でも俺のお願い聞いてくれたらね」
「お願い?」
「これから一緒に遊びに行こうよ。俺楽しいとこ知ってるし、暇だしさ」
怖い。
この人がいくら楽しい場所知ってるからって、私にとってはあなたと一緒にいること自体恐怖なんですよ!
だれか助けて!!
誰か誰か誰か!せ、先輩!藤井先輩!!
先輩早く来て!
「なにしてんねん」
声とともに、つかまれていた腕が解放される。
「あぁん?てめぇ誰だ!」
金髪にやにやピアス男は、いつのまにか地面に尻もちをついていて、こちらを見上げてどなってる。
私の前には、オレンジ色の髪の藤井先輩が私を守るようにして立っていた。
「俺は、えっえと…その、陽依のかか…彼氏や!俺のおっ女に手だすなっ!どっかいけ」
聞きなれない関西弁が怖いのか、金髪にやにやピアス男は「覚えてろよ!」とこけそうになりながら、走り去って行った。
「大丈夫か?陽依!」
先輩、来てくれた。
偶然だったとしても、呼んだら来てくれた。
先輩の顔を見ると、なんだがとても安心して、こらえていた涙があふれてきた。
「せ、せんぱぁい…怖かったです…ひっく…ふえぇ…」
一人で立っているのが辛くて、先輩の胸に飛び込む。
少しだけ、少しだけですからこうさせてください。
「陽依…大丈夫や。俺がいるからな」
先輩はそっと、私の頭を撫でてくれた。
「ずび、ありがとうございます。先輩」
鼻水と涙をしゃくりあげながら、何度もお礼を言った。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「………」
「先輩?」
反応がないので、見上げると、先輩はまたあさっての方向を向いて固まっていた。
そっと離れて、固まった先輩をつつく。
すると、バターンと倒れてしまった。
「せっ!先輩!藤井先輩!!」
ただいま、橋宮陽依は倒れた先輩を一生懸命、近くの柔らかい芝生の方に引っ張って、ハンカチで仰いでます。
真っ赤になって目を回している先輩。熱中症?
これは救急車を呼ぶべきかな。
頭を触ってみると、熱はないみたい。熱いのはほっぺただけみたい。
熱中症ってわけじゃないんだ。
「先輩?大丈夫ですか?先輩」
「…ん…うぅ…」
「藤井先輩!」
もう一度名前を呼ぶと、
「……悠太て…呼んでや…」
目を閉じたまま苦しそうに先輩が呟く。
えっ?“悠太”って先輩の下の名前?
切なそうな顔でつぶやく先輩に少しだけ胸がドキッとした。
「…悠太て……」
これは呼ぶべきでしょうか?
私は後輩なわけでして、年下なわけでして、それに私に呼んでって言ってるわけじゃないし。
先輩の好きな人が夢に出てきてるのかも。
それで、意識が混乱してて私なんかに下の名前を呼ばせたんだ。きっと。
「ひ…より……」
うえぇええええええぇぇ!?
わたたた私!?
何ドキドキしてるのよ!
先輩はただ私の名前をつぶやいただけ。なんの意味もない。
そばにいる私の名前を呼んだだけ。
そんな深い意味なんてないんだから。
火照る顔を両手で冷ました。
落ち着いて。 落ち着いて。
とりあえず…名前を呼んだら起きてくれるかも。
「ゆ……」
ただ先輩の下の名前を呼ぶだけなんだから、先輩ごめんなさい、名前呼ばせていただきます。
「…悠太」
「はい!」
藤井先輩は、がばっと飛び起きて、右手をすっと伸ばし、勢いよく返事をしました。
先輩は私の方を不思議そうな顔をして見ている。
「今、俺の名前呼んだ?…いやあれは夢や…絶対」
「いえ、なかなか先輩が起きないので…呼びました。すいません」
ほんと、申し訳ないです。
先輩の名前を、それの下の名前を呼び捨てで呼んでしまうなんて失礼なことしちゃった。
「ほんまか!?俺の名前呼んだんか?」
先輩はそういうと、ガッツポーズをした。
「なにがそんなにうれしいんですか?」
「い、いや別に…なんとなくや、なんとなく」
時計を見ると、9時40分。
あと20分で集合時間。
でも先輩、私と同じぐらいの時間にここに来てたみたいだけど。
「先輩、集合時間10時ですよ?どうして…」
「あぁ、なんか楽しみすぎて早く来てしもた。陽依は?」
「早起きしちゃって暇だったので早く来たんです」
「そぉか。ていうか…大丈夫か?」
先輩は心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「もう大丈夫です!先輩助けて下さってありがとうございました」
いくら怖かったからって、先輩に抱きつくなんて私どうかしてた。
先輩、迷惑だったかもしれない。先輩、優しいから。
「ほんならよかった。しかし、あのピアス野郎。次陽依の前に現れたら、しばく!親はどういうしつけしてんねん!あんなにいっぱい体に穴開けて。親からもろた体に傷つけるようなことしたらアカンわ」
熱く語る先輩を見ていたら、なんだかとても心が温かくなって、なんだかとてもほっとした。




