第三章:過保護な支配と夜明けの熱
肩に置かれた周の手から、じわじわと確かな熱が伝わってくる。
咲の肩を抱いたまま、周は空いた手で咲の手から缶コーヒーをそっと取り上げ、デスクの隅に置いた。逃げ場を無くすように二人分の距離がさらに縮まり、咲の鼻先を周のつける微かなシトラスの香りがかすめる。
「上北、さん……?」
戸惑い混じりの声を漏らす咲に、周は小さく苦笑した。その表情には、昼間の冷徹な上司の面影など微塵もない。少し乱れた前髪の隙間から覗く瞳は、熱っぽく、そして切なさすら含んで咲を見つめている。
「……お前は本当に自分の評価が低いな。俺がどれだけお前の仕事ぶりを認めてるか、まるで分かってない」
周の大きな手のひらが、咲の肩から腕を滑り落ち、冷え切っていた咲の小さな手全体を包み込んだ。ギュッと指を絡められる。恋人のような触れ方に、咲の胸が大きく跳ね上がった。
「厳しくしたのは、お前を早く一人前にしたかったからだ。……いや、本当はそれだけじゃない」
「え……?」
「お前が他の奴に頼ったり、弱音を吐いたりするのが嫌だった。俺だけに背中を見せて、俺だけを頼ってほしかったんだよ」
低く静かな告白。普段なら考えられない周の素直で独占欲に満ちた本音に、咲は息を呑んだ。
「……ずるいです、上北さん」
咲は潤んだ瞳で周を見上げた。恐怖だと思っていたものの正体が、本当は「この人に認められたい」「この人の一番でありたい」という強い憧れだったのだと、咲自身の心の中でも答えが繋がっていく。
「私……上北さんに叱られるたび、すごく胸が苦しかったんです。嫌われてるんじゃないかって……本当は、上北さんに一番褒めてほしかったのに」
震える声で零した咲の本音に、周の瞳に宿る熱が一気に深まった。
「咲……」
名前を呼ばれた瞬間、咲の腰の後ろに周の腕が回された。ぐっと強く引き寄せられ、咲の華奢な身体が周の胸の中に完全に収まる。
「もう二度とお前を不安にさせない。……だから、俺の前にいる時くらい、肩の力を抜け」
すっと顔が近づき、周の温かい吐息が咲の唇をかすめる。触れ合うか触れ合わないかの距離で立ち止まり、周は咲の反応を確かめるように愛おしげに頬を撫でた。
深夜の静まり返ったオフィス。誰もいない空間で、二人の境界線が甘く、確実に溶けていく




