第10話 四姉妹の緊急会議は、僕の足の痺れも問わず、夕方までみっちりと続いた
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狭いテントの室内にて、水晶玉をかざした占い師の言葉は、明らかに僕らの的を外していた。
「あーあー。二人の相性は最低だって」
「付き合って一ヶ月はいいんだけど、意見の食い違いから段々と冷めていくか」
卑劣な占いの結果に、僕は落ち込んでる女の子にかける言葉もなかった。
「私たち、てっきり運命の赤い糸で結ばれてると思ったのに」
「まあ、人生なんてそんなもんさ。だったら運命に抗えばいいんだよ」
僕は女の子の手を優しく握る。
ほんのりと温かく柔らかい手触り。
この子を占いという作り話なんかで、悲しませたくない。
僕は純粋に、彼女を好きという気持ちで一杯だった。
「えっ?」
「僕たちの運命なんか、占い如きに決められてたまるかよ」
繋いだ手を離すまいと握った力を込め、厚手のコートの中に繋いだ手を入れる。
「神様に見せてやろうよ。僕たちの愛の絆を」
「うっ、うん」
女の子は照れながらも微笑みかけ、僕と一緒に次の遊園地のアトラクションへと向かった──。
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──真昼過ぎの僕の自宅、いつにもなく緊迫した空気のリビング内にて⋯⋯。
横長の木のテーブルに姉妹が座る中、僕だけがフローリングの床にいるという切ない形をとっていた。
「それでどうして僕は、床に正座してるのかな?」
「被告人は静粛に。では始めますね。第二千三十六回目、三重咲姉妹緊急特別会議!」
何だよ、その膨大な回数の集まりは?
その回数だと、随分、大昔の紀元前からやってたのかな?
「まずはこの男、志貴野容疑者の経緯だけど、被害者の秋星、置かれた状況を説明して」
「はい。突如、私の前に現れたと思っていたら、ガッチリとした目つきで下着姿を見られてですね……」
「入浴中のプレートをかけていたのにも関わらず、お兄ちゃんってば最低」
三人とも、ちょっと待ってくれ。
あれは秋星が突然、大声を上げたから風呂場に駆けつけたんであって、事故というよりか、大きな誤解だよ。
「本来なら極刑にしたいんだけど、みんなも異議はないよね」
美冬が決めた刑罰に、他の姉妹が無言でコクコクと頷く。
すると美冬が怒った顔でこっちを見て、立てた親指を床の方向に向ける。
その合図は灰になって、永遠に消えろの意味だろうか。
様子からして、こちらからは文句も言えず、島へと永久追放なのかな。
嫌だよ、住む場所を追い出され、自給自足なんて柄じゃないし。
テレビでは気軽にやってるけど、あれは予め、道具などが用意されてからの演出だからね。
素人が何もなしに、無人島漂流生活なんて、どう考えても無謀だよ。
「ならば問答無用。美冬閣下、悪の親玉に夏希の二段回し蹴りを、食らわせてもいいでしょうか?」
「ええ、手加減抜きでやって。ただし部屋を汚すような流血沙汰にはしないように」
おい、格闘家夏希、僕は血の通った人間だし、生身に蹴りとかヤベエって!!
それに二段だよ。
二連打のコンボとかゲームじゃないし、当たりどころによっては骨が折れて、あの世行き列車確定だし。
「オケ。半殺しの連続コンボでいいんだね」
「そうね、この見境なく、色んな女とデートする女たらしキモオタには、精々生きて、罪を償ってもらうから」
「わーい、人間の実験台なんて久々だよ!」
ああ、今から鳥の加工みたく、体中の毛をむしられてから、人体改造されるんだね。
それで、僕を蒸し焼きにするつもりかな?
僕は痩せてるし、ほとんど肉はついてないけど……ハラミや骨付きカルビじゃあるまいし、どこに食べれるような肉の部位があるのかな?
「ではこのことに関して、何か弁論したいなら聞いてあげるけど? むっつり暴漢魔変人オタク」
「いや、僕は秋星を助けようとしたんだ。決して、覗きをしたわけでは」
僕は起きてしまった事故に誤魔化しもせずに、遭った出来事だけを明確に伝える。
「あれは、お風呂場でネズミが出たからであって……覗く気は少しもなく……」
「ふーん。少しはあったんだ」
不機嫌そうに腕を組んだまま、上目遣いで睨んでくる美冬。
彼女は僕という存在が、そんなに嫌なのかな。
「はい。そんな感情も、ちょっとはありました」
「だってさ。最早、弁解の余地もないわ。まさにケダモノの固まりよね」
くっ、人助けのためとはいえ、こんな形で犯罪者扱いされるなんて。
悪いのは急に飛び出してきたネズミだよね。
もうシェアハウスなんてやめたいよ。
親父、女性恐怖症の僕には女の子と一緒に住むなんて、やっぱり出来なかったんだ。
でも純白の薄衣の秋星は、天女様みたいで綺麗な体だったよね。
出るとこは出て、引っ込む所は引っ込んでいて……。
ううっ、しっかりと脳裏に浮かんでいて、思い出してしまうと体が火照ってしまい……、ああっ? 静かに収まれ、僕の煩悩。
「うわっ。コイツ、今度はにやけ顔で天女がどうとか呟いて、鼻血を垂らし出したわ。変態丸出しだわ」
「むっつりスケベさんは正直ですね」
警戒心を解かない美冬と何がおかしいのか、ニマニマと笑っている春子。
とても同じ姉妹の反応には思えない。
「ぼっ、僕は断然でんでん虫のカタツムリーノからのむっつりではなーい!!」
今回の経験上、多少、動揺しながらも言ってることは、三流役者だということはよく分かった。
「ねえ、秋星お姉、片栗粉がなに?」
「まあ、男の子にも色々あるのよ……」
秋星が遠い目をしながら、夏希の質問に答える。
野郎から下着を見られ、恥ずかしすぎて自我を無くしたか。
「本当に資源を無駄にして。全然エコロジーじゃないねえ」
だったら僕じゃなく、製紙工場に直接口論してよ。
再生紙をフル活用して、全国の悩める野郎たちに光を与えたまえ。
「と言う事だよ。僕は無実だよ」
「言いわけはいいわよ。アタシは真実を述べてるだけであって」
「だけど美冬お姉ちゃん、この人は冗談でも、こんな犯罪者の真似事はしないよ」
春子が僕を庇って、発言を返す。
この娘は初めて出会った頃から、僕に対しては友好的だった。
どうしてかは謎だけど、僕の味方であることは確かだね。
「だからハルの話も聞いて」
「まあ、あのカスに惚れてるハルが、そう言うんならしょうがないか」
「べっ、別にお兄ちゃんがどうとか、そんなんじゃないよ!?」
ハルがあたふたとしながら、美冬の告白にテンパってる模様である。
「マジで分かりやすい妹だね」
「だから違うってば!!」
さっきから姉妹揃って、何の話をしてるんだろう。
ハルなんて僕と目が合ったら、視線を逸らすし、どことなく顔も赤い。
それよりもさ、いつまで正座しないといけないの?
そろそろ足が限界なんですけどー!?
「……まあ、志貴野は修行中の身だからな」
「あのね、賢司。人んちに勝手に上がりこまないでよ」
「ノックならしたぜ(自慢げ)」
「ちゃんと呼び鈴を鳴らしてよ!!」
そう、賢司の来客に僕の家にプライバシーはないのかよと、ツッコミそうになるよ……。
四姉妹の緊急会議は、僕の足の痺れも問わず、夕方までみっちりと続いた──。




