9 迷自所属の冒険者たち
「彼らが迷宮に挑む冒険者たちだよ。はい、拍手!」
まだ日も昇り切らぬ時間に叩き起こされた俺は、迷彩服の一団とご対面していた。
ウチの居間は広さに定評があり、たたみを12枚も敷くことができる。
庭に面した障子を開ければ、その開放感たるや「グランドキャニオンみたいですね」と世辞を言われるほどだ。
そんな広大な居間は目下、アーミー集団の体臭と体温で餃子弁当の中みたいな蒸し感になっていた。
「拍手!」
「わー、すごいですねー」
俺は頬杖を突いたまま、空いているほうの手でコタツの天板を叩いた。
見崎が満足げにニンマリ笑った。
「この方々が迷自ですか」
「そうさ。我が国が誇る精鋭たちだ。すごい迫力だろう」
「悪い意味で、ええ」
「さあ、時間が惜しい。君たち、コタツに入りたまえ」
居間には収まりきらずに廊下に列をなしている一団がコタツに収まるわけもなし。
このボケにツッコミでも入れてやるかとハリセンを探す俺だったが、さすがにそこは防衛省のエリート様だ。
何か考えがあるらしい。
見崎は引っ越し業者並みの手際でふすまを取っ払い、隣の客間と床の間に大型のコタツを運び込んだ。
「スキル範囲を拡張するスキルってのもあるのさ」
「そっちのコタツもこっちのコタツってことですか」
これで一度に20人はコタツ入りできる。
「効率的ですね。コタツに効率を求める奴は、俺は嫌いですよ。心底軽蔑します」
「まあま、そう言わず! ははは!」
さっ、僕は高校生の愚痴に付き合ってあげるほど暇人じゃないんだ、と見崎は早送りみたいな勢いで向かい側に潜り込んできて詐欺師スマイルを浮かべた。
「スキル名、考えてくれた? みんな集まっていることだし、お披露目といこうか!」
「考えはしましたが、披露するほどですかね……」
俺は苦手だぞ、作文をみんなの前で発表とか。
「それじゃ記念すべき我が国7例目のSランクスキルの披露宴といこう。半紙と筆と墨汁を用意したから書いてみてくれる?」
俺の前に手早く3点セットが並べられた。
なぜお習字形式なのか。
面倒なうえにハリセンもないので俺はあえてツッコまない。
「筆なんて持ったの、小学校の国語以来ですよ」
面倒事はさっさとすませるタチなので、俺は殴るように筆を走らせた。
漢字4字の横に、面相筆でフリガナを振る。
「どうぞ」
と差し出した半紙にはお世辞にもうまいとは言えない書体で、
――『攻断加護』
と書いてある。
「攻撃を断つ、略してコタツです」
「いいね。悪くない。無難だし、わかりやすい。悪くないね」
見崎以下、迷自一同も可もなく不可もないような顔で軽く頷いている。
拍手とかは別にない。
昨晩、俺が3時間くらいコタツで輾転反側してひねり出した案だったが、悪くない――つまり、これといってよくもないらしい。
俺的には巧みなネーミングだ。
考案者のユーモアと柔らかい発想力が半紙からにじみ出ている。
評価が芳しくないのは、ひとえに俺の字のせいだろう。
脱皮したヘビの皮みたいに覇気がない。
プロ書家に書き直してもらえば、こいつらはもろ手を打って絶賛するはずだ。
「このへんでいいかな。曲がってない? よさそう? ――よっと!」
見崎は俺の渾身の怪書を画鋲で柱に留めた。
飾るな、と俺は目で言う。
だが、胡散臭い笑顔が返ってきただけだった。
「それじゃ僕は別件があるから、これで!」
見崎が颯爽と出ていき、俺は武装した迷彩柄の集団の中に取り残された。
「……」
「………………」
「…………」
この見えない土嚢でも積まれているような空気感の中で俺はリラックスを強いられるのか。
ひどい職場だ。
「こんな気軽に軍隊押しつけていく人、初めて見ましたよ」
見崎が空けた席に潜り込んできた人物に、俺は忌憚なき心境を吐露した。
「こらこら、自衛隊は軍隊じゃないでありますよ!」
その人物はコタツに正座したまま三角定規みたいな敬礼をビシリと決めた。
「小生は八光照代三佐であります! 現場総指揮をおおせつかった者であります!」




