10 迷自所属の冒険者たち
八光照代は、痩せているのにシルエットが丸っぽく見える人だった。
小柄で丸顔、そのうえ出るところがずいぶんと出ていらっしゃる。
迷彩服と巨乳のマリアージュなんて初めてだ。
歓迎しよう。
階級は三等迷佐とのこと。
陸佐や海佐の迷宮自衛隊バージョンだそうだ。
そもそも佐官がどのくらいの位置付けなのかわからないが、ここにいる2、30名の迷自隊員の中ではトップに君臨するらしかった。
「ハッコー、テルテル、ハコテル。ニックネームはご随意にであります! よろしくお願いしますであります、コタロー殿!」
「よろしくお願いします、であります……」
「むほほであります!」
「むほほ……」
八光は誰がどの角度から見ても美人の部類だ。
しかし、一挙手一投足が芋臭いというか、ヲタ特有の臭いがする。
なんとなくだが、この人は腐女子なんじゃないだろうか、と思う。
男所帯の自衛隊に嬉々として飛び込んだクチだ。
なんの根拠もないのに、この所見が当たっている気がしてならない。
「じ~~っ、であります」
「……」
「じ~~っ」
「あの、真正面から見つめないでもらえます? 俺のスキルの発動条件、リラックスなんですよ」
「しかし小生、こう見えて活動的なほうでありますれば、コタツでじっとしているのは性に合わないのであります。カップ麺もそうであります。柔らかいほうが好みでありますが、3分も待てないので硬いまま食べるであります」
「つまり?」
「コタロー殿、小生、退屈であります。なんか話せであります」
八光は今にも貧乏ゆすりを始めそうだ。
コタツをガタガタされてはかなわん。
さりとて、俺という人間に他人様に話すほどの話題は詰まっていない。
ここは質問に徹するのが吉と見た。
「この中で生粋の自衛官は八光三佐と、それから向こうの2人だけですよね?」
「むほ? なぜそう思ったでありますか?」
「物腰ですよ。相応の訓練を受けた者に現れるべき鋭さが、ここにいる大多数からは見受けられません」
一同がコタツ入りして、数分が経過していた。
温かさで頭の中までほぐれたのか、迷自隊員たちは休み時間の高校生みたいに無秩序なおしゃべりに没頭している。
岩石のようにだんまりを決め込んでいるのは数人だけだ。
「加えて言うと、自衛隊の男女比はたしか9:1。でも、ここにいるのは4割近くが女性です。あんまり自衛隊っぽくないなと思った感じですね」
俺は税金で買った茶菓子を口の中に放り込んだ。
自分で買ったものより段違いにうまい。
古今東西の政治家たちが処断されるリスクを負ってでも裏金を作る理由がわかった気がする。
「見崎殿からうかがった通り、目端の利く若人でありますな、コタロー殿は」
八光は落語家みたいに天板を叩いて、むほっ、と奇声を上げた。
「コタロー殿は、迷宮体質者が日本にどのくらいいるかご存じでありますか?」
「500人くらいですかね」
「その数字の出どころはどこでありましょう?」
「テキトーです。コタツの中で数学をする気はありませんよ。コタツに失礼だ」
コタツとは半熟たまごのように、ぐでぇ……、とだらしなく振る舞う場所であり、裁判所の証言台でもなければ学会発表の場でもない。
引用元とか問わないでくれ。
「いや、小生、少しドキッとしたであります。現時点でデータバンクに登録されている迷宮体質者の数がそのくらいでありますので。また情報を抜かれたのかと焦りましたぞ。むほほ!」
また抜かれた、ってなんだ?
我が国のデータバンクはマンションの集合ポスト並みのセキュリティなのか?
「おおむね1万人に1人と言われているであります」
八光は俺の鼻先で人差し指を立てた。
コタツの乗り上げる格好になり、結果として胸からぶら下げた水風船が天板の上で弾む形となった。
横の男性隊員が「おっ」と悦びの声を漏らす。
気持ちはわかる。
だが、黙れ。
俺のコタツの中で卑猥な妄想を膨らませるな。
「たしか自衛隊は20万からなる組織でしたね。万に一つとなると、迷宮体質の自衛官はたった20名しかいない計算になる」
「まさにその通りであります。それも事務方や艦勤めのコックも物の数に含まれるでありますから、それこそ戦える者は数えるほどなのでありますよ」
「数が足りないなら継ぎ足せばいいですね」
俺は空になった菓子皿に和菓子のアソートセットをぶち込んだ。
見崎みたいな魔眼持ちが街角にでも立って迷宮体質者をスカウトしているのだろう。
声を殺して訊いてみる。
「見崎さんは、我が国が誇る精鋭たちだ、とおっしゃっていましたが、要するに、パンピーの寄せ集めってことじゃないですか?」
「その寄せ集めのパンピーを厳しい訓練によって一端の自衛官に育て上げるのが、自衛隊ってトコなんであります」
ド正論が返ってきた。
それもそうか。
最初からライフルを背負って生まれてくる人間などどこにもいない。
「それに、こう見えてケッコーやるんでありますよ、小生たち」
むほんっ、と胸部及び鼻腔を膨らませる八光がその瞬間だけ勇猛な戦士のように見えた。
実際、何度も迷宮に挑み、魔物の屍をうずたかく積み上げてきたのだろう。
「ウチのコタツの下に屍の山を築かれるのはちょっと困ります……」
「では! 平らにならして屍の平原を築いて参りましょうであります!」
クソ迷惑な一休さんである。




