11 迷自所属の冒険者たち
迷自御一行がコタツに入り、早いもので40分が経っていた。
見崎流に言えば各員40発の核攻撃に無傷で耐えうる計算だ。
しかし、一行は一向にコタツを出ようとしない。
八光がたまに腕時計と玄関を交互に見ている。
どうも誰かを待っているらしかった。
「……」
しかし、改めて見ると、様子のおかしい連中だ。
ずっとラップ調で念仏を唱える赤アフロ。
ぬいぐるみを山ほど抱えた着ぐるみ野郎。
平成ギャル風ガングロ女子。
頭から東京タワーの模型を生やしたアホ。
極め付きは、全裸男だ。
あまりにも自然にそうしているので、ともすれば、全裸である事実を見逃しそうになる。
自然体という言葉があるが、あいつの体がそうなのか?
「個性的でありましょう?」
八光はどこか誇らしげに口角を上げた。
ですね、と俺は曖昧に応じる。
自衛隊というと、野球部の上位互換――坊主頭で頬骨の出た色黒金太郎アメがモアイ像みたいに並んでいるのを想像する。
こいつらにその要素は皆無。
あるのは一種の狂気だ。
寄せ集めるにせよ、もっとまともな奴を選りすぐれなかったのだろうか。
「やっぱり発動条件なんですか?」
俺は重いまぶたを持ち上げて問う。
八光の古典的な軍曹口調もおそらくはそうだろう。
「発動条件だったり趣味だったり、いろいろであります。ちなみに、小生のアリマス節はただの趣味であります」
「さいですか」
コタツにおいて、まぶたを持ち上げるという行為は大変な重労働だ。
わざわざ無償で働いてやったのに損した気分だ。
俺はキテレツな世界に蓋をした。
「むほぉ!」
「ンご……!?」
チョコの甘い香りが脳天を突く。
鼻に棒状チョコ菓子が2本、突っ込まれていた。
誰だ、俺の寝顔をセイウチの真似する酔っ払いオヤジみたいにしたのは。
「むほほほほっ!」
下手人はコタツの対岸で天板をバカバカ叩いて大爆笑していた。
無敵化につき痛みはゼロ。
しかし、俺の怒りは活火山だ。
「授業中は居眠り禁止であります!」
「コタツでは禁止されていないんですよ。むしろ推奨されています。居眠りに最適な場所トップ3はすべてコタツが独占しているんですよ。有史以来ずっと。それと、まだ授業は始まってません」
「小生、今殺す気で突き刺したわけでありますが、鼻血すら出てないでありますな。コタロー殿のスキルは頼もしいであります」
「なにも俺の鼻で試すことないでしょう。見崎さんは自分の手、ぶっ刺しましたよ!?」
「あの元・結婚詐欺師は信用を得るためならなんでもするのでありますよ」
「まるで見崎さんが元・結婚詐欺師みたいな口振りですね」
「むほ……」
八光はわざとらしく口を覆った。
口が滑ったって感じで。
それがネタなのか、ガチなのか、俺にはわからんし、ぶっちゃけどうでもいい。
お前ら、いつ出発するんだ?
「むほほ。ご安心くだされ。コタロー殿のガッコーが始まる時間までには小生らも出発するでありますゆえ」
八光は八光で居心地悪そうにしている。
「おかしいでありますな。そろそろ来てもよい頃合いでありますが……」
豊満な体をかしげて玄関のほうを見やり、俺も釣られて視線をそちらに向け、しかし、すりガラスの向こうには誰のシルエットも見えない。
俺は目線を元のポジションに戻した。
その一瞬のうちに、そいつはそこにいた。
ダン、と艶やかな茶色のローファーが天板を打つ。
ひらりと舞ったスカートから伸びる真っ白な脚。
その付け根に白と水色のボーダーがちらりと見えた。
どこからともなく突然現れたそいつはセーラー服を着てコタツの上に佇立していた。
その顔が目に入った瞬間、俺の重たいまぶたはハリケーンに見舞われた屋根瓦みたいにめくれ上がって飛んでいった。
ひるがえった長い黒髪がスローモーションに見えてしまうほどに俺の感覚は研ぎ澄まされていく。
そいつはつまり、そのくらいの美少女だった。
俺の学校のOGを過去30年さかのぼっても、こいつと肩を並べられる美貌の持ち主は見つかるまい。
そんな不意の来訪者に対して俺が言いたいのはひとつだけだ。
心して聴け。
「今すぐそこから下りろ。俺のコタツを踏むな」




