6 コタツでカピるバイト
久しぶりの我が家は様変わりしていた。
というほどでもなく、せいぜい無数の足跡やゴツめのタイヤ痕が庭に残されているだけだった。
廊下やたたみにブルーシートが敷かれているのは、土足で民家に立ち入ることへのせめてもの配慮らしい。
「表に停められている装甲車みたいな車、なんです? 近所迷惑な。景観上も好ましくないので蹴ってきていいですか?」
「みたいというか、装甲車だよ。あと、蹴らないほうがいいね。中には銃を持った怖いおじさんとお兄さんがすし詰めになっているから」
見崎がスリッパに履き替えながら言った。
「それと、ご近所さんへの迷惑も気にしなくていい。このへん一帯を軒並み国で買い上げたから。今やここは政府所有地さ。まだ残っている住民にも出ていってもらうつもりだ」
「さいですか」
それはまた荒れそうな話だ。
その渦の中心が我が家ってのは最悪の悪夢でしかない。
2階建て古民家の軋む廊下を抜け、愛しのコタツが待つ居間に直行する。
居間の前に短機関銃を持った二人組が風神雷神みたいに立っていたが、
「下がっていいよ。お疲れ様」
という伊達眼鏡の一言で撤収していった。
「彼らは迷宮自衛隊――通称、迷自だ。ダンジョンの魔物から国民の暮らしを守りつつ、諸外国の魔手からダンジョン資源を守るのが仕事ね」
「内と外から板挟みですか。大変ですね」
「しかも非公認のマル秘組織だ。日が高いうちは外を歩くこともままならない。世知辛いでしょ」
「頭が下がりますよ」
俺は二人組が去っていた廊下の向こうに精神的に脱帽した。
ふすまを開ける。
愛しのコタツは無事だった。
心当たりのない延長コードがそこら中に走り回っている以外はこれといった変化もない。
閑散としたように感じるのは、ここに先日まで大量の迷自関係者が出入りしていたからだろう。
「床ごと引っぺがされて大型トラックとかが横づけされているのを想像しましたよ」
「どうもね、このコタツが異界と現世を繋ぐゲートになっているみたいでね。コタツどころか、家具のひとつでも動かそうものなら門が閉じてしまうかもしれないんだ」
「黄金の卵を産むガチョウってわけですね。欲をかいて腹を裂くと、ガチョウは死に、金は失われる」
「そういうこと」
「となると、うちは年中コタツ出しっぱなしのだらしない家庭になりますね」
肩をすくめたところで、俺はジト目になる。
そもそもウチは万年コタツ主義で、ここ3年くらいは出しっぱなしだった。
俺はおっかなびっくり毛布をめくった。
そこには鍾乳洞に似た地下空間が広がっている。
はしごで降りられるようになっていたが、それ以外には取り立てて変わった点はない。
「魔物が這い出して来る危険はないんです?」
「そこは安心してくれていい。異能による結界を張ったからね。へそ出して寝てくれていいよ。僕が見ててあげるから」
「この世に俺の寝顔ほど見る価値のないものもありませんがね」
「さあさ。続きはコタツの中で話そうか。雪が降らないまでも寒いからね」
二人してコタツに足を突っ込む。
久々のおコタは以前と何も変わらず、ぽっかぽかだった。
温泉に浸かったときみたいな吐息が出る。
掘りゴタツってのも悪くないな。
いささか掘りすぎではあるが。
「熱がこもっているのも結界のおかげですか?」
「そうさ。君と同じSランクスキル持ちに妙ちくりんな結界を張る子がいてね。望むものと望まざるものを隔てる力があるんだ」
「鬼は外。福は内ですか」
「おっ、まさしく! スキル名は『鬼外内福』。温もりは内側に留め、こもった湿気や臭いは外側に排出って寸法さ。試しにコタツの中で放屁してみるといい。音だって君が望まなければ結界に封殺される」
「……しませんよ」
と言いつつも面白そうだ。
一人のときにやってみよう。
「監視カメラとかもないんですね」
俺は頬杖を突いて部屋を見渡した。
「まあ、個人宅だし。それに君のスキルの発動条件は、君がコタツでリラックスしていることだ。相応の配慮はさせてもらうよ」
「見崎さんの不気味な笑顔とご対面しているほうが落ち着かないですがね」
「口とは裏腹にさっそくスキルが発動したらしい」
見崎はおもむろにボールペンを取り出すと、そいつで自分の手の甲を刺した。
思いっきり。
高々と振りかぶって。
グサァアアッッ、と。
しかし、見崎の手には傷跡どころかインクの染みひとつない。
ボールペンは粉々になり、天板の上に散らばっていた。
「銃弾だろうが砲弾だろうがミサイルだろうが結果は同じさ。核だって防げるだろう。なんせ無敵だからね。木立小太郎君、君、相当やばいね」
「見崎さんもやばいですよ。普通もっと控えめに刺すでしょ」
「ははは……。実は僕もやりすぎたなって思って内心ちびりそうだよ」
「トイレは廊下の先です。そこでちびったら無敵属性が再付与されるより先に殴りますよ。そういえば、俺の拳も無敵でしたね。今なら反作用なしでボコれそうです」
「いやははは……。すごく痛そうだからやめてほしいね」




