4 ウチのコタツは大迷宮
「ダンジョンに関することはその多くが国家機密級の扱いを受けている。そのうえで訊くんだけど、迷宮体質者って言葉は聞いたことあるかな?」
高そうなソファーに背を預け、見崎は値踏みするような目を俺に投げてよこす。
こっち見んな、と言いたい。
ホテルの一室で男二人。
あんまり気持ちのいいシチュエーションではない。
「言葉だけなら聞いたことがありますね。ダンジョンってのは、入れる奴と入れない奴がいるとか」
と俺は気だるげに答える。
迷宮に入れる体質の奴は巷では冒険者とか言われている。
「おおむねその通りだね。でも、厳密に言えば、誰でも入れるんだ。入れるけど、空間に満ちた『魔力』なる未知の元素に負けてあっという間に酩酊状態になってしまう。いわゆる迷宮酔いだ」
「いわゆると言われても、当方、寡聞にして初めて聞く単語ですよ」
「国家機密だからね。よく聞く単語だと困る困る」
何が面白いのか見崎は大笑いしている。
ほんと何が面白いんだ?
「さっさと本丸を攻めませんか? 俺のスキル、どんな能力なんです?」
俺はハアアアッて感じで右手を突き出す。
別に波動がほとばしったり、ビームが出たりはしないし、カーテンすら揺れやしない。
全身全霊で踏ん張ってみても瞬間移動はおろかバク転すらできんだろう。
「一言で説明するのは難しいんだけど」
と見崎は前置きし、眼鏡をちゃきりと鳴らした。
「分類で言うなら支援系。中でも付与系と呼ばれるスキルだね」
「バフですか?」
「そんな感じ」
「俺は何を付与できるんです?」
「ずばり、――『無敵』だ」
無敵か。
敵無しと書いて無敵である。
「スキルには発動条件があるんだよ。僕の場合、伊達眼鏡をかけること。それも一度の能力行使につき、眼鏡をかけ替えないといけない」
若干の面倒臭さをにじませつつ、見崎は眼鏡ケースを取り出した。
悪趣味なボストン眼鏡から悪趣味なリムレス眼鏡にチェンジ。
そういえば、会うたびに眼鏡が変わっていたな、といまさらながら思う。
眼鏡マニアかと思っていたが、伊達眼鏡マニアだったか。
「君の場合はコタツに入ることだ。それが発動条件」
「俺がコタツに入ると誰かが無敵になるってことですか?」
「なるなる。一緒に入った人がね。コタツでくつろいだ時間に比して、モンスターからの攻撃を無効化できるようになる」
「厳密には?」
「1分につき1回、被ダメージをゼロにできる。上限は60回。つまり、満充電には1時間かかる。付与した効果の持続時間は72時間。3日だ」
そこまで仔細にわかるのなら、俺のスリーサイズもミリ単位で筒抜けだろう。
俺は内股気味に見崎を睨む。
ははは、と苦笑された。
「より正確に発動条件を言うなら、君自身がコタツにいてリラックスしていること、だね。温泉に入ったカピバラみたいな感じで」
「なら、普段通りですね。ここんところ、コタツのコの字も見てませんが」
「もうじき見られるよ」
「なるほど。帰宅を許すのは俺にスキルを役立ててほしいからってことですか。防衛省としては」
「そこもより正確にしよう。国としては、だ。我らが日本国は君の活躍を熱望している」
「大袈裟なことで」
俺はゴブリンと格闘戦を行った。
結果は無傷の完勝。
すり傷ひとつ追わなかった。
えびせんも砕けなかったし、はんてんも裂けていない。
つまり、あれが、俺自身が無敵化していたことの証左だろう。
「まったく! 破格のスキルだよ。まず間違いなくSランクスキルだろう。君は日本で7例目のSランカーってわけさ!」
あっ、これも国家機密だよ、と俺の耳のそばでささやきながら見崎はフフフと不気味な笑みをこぼしている。
離れろ、気色悪い。
「なんにせよ、家に帰れるなら文句はありませんよ。こちとら、もう1週間近くコタツに入れていないんです。このままではコタチウム欠乏症で突発性伊達眼鏡野郎飛び蹴り症候群を発症、あなたの顔に足跡をつけたくなるかもしれない」
「そりゃ困ったね。眼鏡が割れないうちに帰りの車を手配するとしよう」
そういうわけで、俺の帰宅が決まった。




