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20 総理大臣、降臨す


「民間企業の参戦拡大となると、今秘密にされているようなことも公になっていくんですか?」


 俺は海苔せんべいの包装を破りながらそんな疑問を口にした。

 総理の前で茶菓子をつつくとか失礼千万だ、と一瞬手が止まるが、俺のリラックスは無敵化の必須条件なので遠慮なくくつろがせてもらうことにした。


「俺、守秘義務で何もしゃべれないんですよね」


「うむ。私も他人様にしゃべれないことを山ほど抱えているゆえな。息苦しさはよくわかるぞ」


 岩石みたいな頭で頷き、星総理も菓子受けをあさった。

 いちごミルク味のキャンディーを見つけて嬉しそうにしている。


「迷宮を巡っては秘事も多い。だが、すでにその大半は都市伝説の域を越え、周知の事実となりつつある。もっぱら、スキルと呼ばれる異能に関しては国民の一大関心事であろう」


 SNSでは空飛ぶ主婦や目からビームを出して馬鹿笑いする糞ガキの動画が連日注目を集めている。

 その多くはAIで生成した粗悪な創作物だ。

 しかし、中には本物としか思えないものもまじっている。


「そういえば先日、小学生くらいの男の子が『スキル発動!』『ぐあっ!?』って遊びをしていましたね」


「であろう。今後、私はそういった秘め事のいくつかをオープンにしていく所存だ」


「開かれたダンジョンってことですか」


「少し違う。開かれているように見えるダンジョンというのが正解だ」


 その差は俺にはよくわからない。

 でも、あえて言語化するなら「納得感」だろうか。

 国民ってやつはいつだって不安なのだ。


「この目論見がうまくいけば、我が国のダンジョン開発は飛躍的に進む。世界を牽引していくことすら可能だろう。冒険者は子らの憧れとなるやもしれん。君のコタツにも名だたる猛者たちが連日押しかけるだろう」


 足が臭くなければ歓迎しますよっと。


「さて、そういうわけだよ、木立君。私を無敵にしてくれたまえ」


 コタツの向こうで丸太のような腕を組む星総理はすでに無敵そうに見えた。

 俺は苦笑する。


「もう無敵ですよ、総理は。リラックスして話せましたからね」


「む、そうか。なるほど、妙な力が肌身を覆っているのを感じる」


 無敵化しても俺は何も感じないが、フィジカルを極めた人には微細な変化が感じられるのかもしれない。


「野木君、あれを」


「はい。総理」


 秘書風のモデル体型美女が星総理に拳銃を手渡した。

 もう一度言おう。

 拳 銃 を 手 渡 し た 。

 野木氏の脚線美が完全に霞むほど、それは異様な光景だった。


 ばん、とすごい音がする。

 なぜってそりゃ引き金を引いたからだ。

 誰がってそりゃ星総理がだ。

 右手に拳銃を持ち、左手で銃口を握りしめ、いきなりぶっ放しやがった。

 撃ったのさ。

 自分の手を。

 なぜかって?

 俺が知るかよ。


「見たまえ、木立君!」


 思考がついてこない俺の前で星総理は童子のごとく笑っている。

 左手が重機のような迫力で開いた。

 そこには潰れたガムみたいな金属片があった。

 そう、銃弾である。


 混乱が収まらないうちにバタバタと床が鳴る。

 居間に雪崩れ込んできたのは外で待機していたSPたちだ。


「総理! ご無事ですか!?」


「なんですか、今の音は!」


 まさか発砲したのが総理自身で撃たれたのも総理だなんてエリートSPたちも思うまい。


「ああ、私は大丈夫だ。すまんな。今の音は私のくしゃみだ。昔から馬鹿でかいくしゃみが出る体質でな」


 星総理はカスみたいな嘘をついた。


「火薬の臭いがしますが!?」


「知らないのかね、君。私のくしゃみは火薬式なのだ。所信表明演説でもそう話しただろう。それより君たち、他人様の家に土足で上がるものではないよ。さあ、出たまえ。私のくしゃみで吹っ飛ばされないうちに」


「あ、はあ……」


「…………承知しました」


 SPたちは30回くらい首をかしげながら出ていった。

 このとんでもない人を日夜守らなければいけないのだから大変だ。


「それで、総理。何がしたかったんです?」


「いやね。私は、元は武人でね。金メダルやらトロフィーやら山ほどいただいた。全勝無敗でね、拳で岩を割ったことさえある。だが、弾丸キャッチはまだでね。いや、できてよかった。礼を言うぞ、木立君」


 要するに、無敵であることを試したってことだろう。

 考えうる限り最もアホな方法で。


「俺も礼を。珍しいものを見せてもらいました。ほんと守秘義務があるのが残念ですよ」


「であろう! わっはっは!」


 俺はこんなに機嫌よさげな大人を見たことがない。

 そのくらい星総理はご満悦だった。


「ご満足いただけたようで」


「うむ。これならば、ダンジョンでもヘソを出して眠られよう。君とは20分ほど話したか。20回程度は無敵だな」


「正確には18回です、総理」


 恐る恐るといった具合に見崎が言う。

 目が光っている。

 星総理が無敵になったかどうか「見る」ことが見崎の役目だったのだろう。


 出番がすんだのなら出ていけ。

 と目で伝えると、僕だってそうしたいよ、と見崎は泣きべそ顔で訴えてきた。

 SPにしてもそうだが、星総理と関わると苦労させられるらしい。


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