13 迷自所属の冒険者たち
結局、八光たちはコタツに1時間どっぷり浸かって上限MAXまで無敵回数を伸ばした。
当初ご機嫌斜めだった籠目も、ヘソから下をコタツで温めつつ、おでこを天板で冷やすという上級者向けのくつろぎ方で20回分の無敵を獲得。
最後までコタツの中に居座り続けた。
「ささ、ヒノン殿、そろそろ刻限でありますぞ。いい加減、着替えたらいかがでありますか?」
八光三佐がママみたいに肩を揺すっている。
セーラー服は発動条件ではなく私物だったか。
俺は棒チョコを八光に差し入れた。
「こーら、ヒノン殿! 早く起きねばこいつを鼻にぶっ刺すでありますよ!」
「聞こえてる……。うるさい」
パチン、と籠目が指を鳴らした。
その瞬間、着ていたセーラー服が迷彩服に変わる。
どういう手品だ、それは?
尋ねようと息を吸ったところで籠目が消えた。
ごん、と後頭部で音がする。
コンクリの塊同士をぶつけ合わせたような音だった。
のけぞって振り返ると、長い脚を持ち上げた姿で顔をしかめる籠目が見えた。
「蹴った気がしない……」
「俺も蹴られた気がしないな」
「スッキリしないんだけど」
「そうあるべきだ。人を蹴って満足する妖怪にはなるな」
それはそうと、早着替えマジックのからくりは瞬間移動か。
着ている服を消去し、新しい衣装を取り寄せする。
その2つを瞬時にこなしたのだ。
しかし、そうなると、ほんの一瞬だけ下着姿になる瞬間があるはずだ。
どうして俺は真剣に見ていなかったのだろうか。
女子がコタツで生着替えという全男子垂涎のビッグイベントをボーっと見過ごしてしまった。
何罪に当たるんだ、これは。
「見るな」
顔を踏まれた。
無敵につき痛くはないが、これをご褒美だと感じるほどに俺は男子高校生を極めていない。
生足ではなく、軍用スパイクブーツなのも減点対象だった。
「いや、お前だけ毛色が違うなと思っただけだ」
籠目は柿色とカーキ色の迷彩服で、なんとホットパンツ仕様だ。
秋の森に馴染みそうな色をしている。
一方、ほかの迷自隊員は蛍光オレンジとオフ・ホワイトのゼブラカラー。
目が痛くなる配色だった。
「そういうの、幻惑迷彩というんでしたっけ」
周囲の景色に溶け込むのではなく、見ている相手を混乱させる、錯視のような迷彩だ。
「正確には、迷宮迷彩2型であります! これは優れモノでして――」
八光いわく、白い生地はアルミ繊維製で、ドラゴンの火炎ブレスに耐えうる耐火性を備えているとのこと。
自分の体から出る赤外線もカットするので、体温を視認するヘビ系の魔物には透明マントのように機能するそうだ。
「蛍光オレンジのほうは猟師が目立つ服を着るのと同じ理屈であります。遭難時の発見しやすさと、同士討ちを避けるためでありますな」
「警告色的な意味合いもあるんじゃないですか? あまりにも悪目立ちしてますし」
「むほっ! さすがコタロー殿。その通りであります。魔物はおしなべて高知能。一発殴れば素直になって、以後二度と舐めた態度は取らない賢い生き物なのであります!」
合理的であるとともにチンピラ的だった。
籠目だけ意匠が異なるのは、単に所属が違うからだろう。
「むほっしょ」
と八光は小型の杭打機のようなものを担ぎ上げた。
腰には近代的ビジュアルの日本刀を帯びている。
「銃がメイン武器じゃないんですね」
「銃声が魔物を山ほど呼び寄せるのであります。亜音速弾を消音器で運用すれば、ほぼ無音を実現できるでありますが、洞窟内での跳弾だけは防ぎえないのであります。――ちらり」
パンチラ風に抜いた刀は赤黒い刃をしていた。
「迷宮金属で作られた特別仕様なのであります。岩をも斬るこの刀を異能と組み合わせれば、たいていのものは両断可能なのでありますよ」
「剣と魔法でダンジョン攻略ですか」
「さすがに魔法は使えぬのでありますよ。使えちゃう者もいるでありますが」
駄弁っているうちに、全員の準備が完了した。
出兵だ。
俺は最低限の礼としてコタツの中で正座した。
八光も武士っぽく挙措を正した。
「コタロー殿のコタツのおかげで芯までぽっかぽかであります。今ならば絶対零度の猛吹雪もマグマの荒波も怖くはありませんぞ。一同を代表して感謝申し上げるであります」
「いえいえ。お粗末様でした」
下げた頭を上げると、精悍な顔がたくさん見えた。
もう二度とその顔を拝むことはないかもしれない。
なんて思ってしまうのは、俺が悲観主義者である証だ。
辛気臭い顔で見送られては彼らも気持ちが悪かろう。
俺はカピバラに形容されるいつもの顔を作った。
「それでは野郎ども、不死の軍団プレイを楽しむでありますよ! むほおおおお!」
「「おおおおおお――!」」
コタツ部屋に似合わぬ鬨の声が上がり、そして、それは突然掻き消えた。
急に聴覚を失ったような、痛いほどの静寂がたたみの上に落ちていた。
……誰もいない。
夢から覚めたようだった。
飲み残しのお茶から立ち昇る湯気と、大人数の荷重から解放された床の軋む音だけが、そこにさっきまで迷自隊員たちがいたことを物語っている。
「……これも籠目の瞬間移動か」
あれほどのペイロードを一瞬で飛ばせるのだから、さすがSランカーといったところか。
ダンジョン資源の運び出しも籠目が担うのだろう。
「……」
毛布をめくってみたが、そこには誰もいなかった。
奥に橋頭堡でもあるのかもしれない。
「ところで誰が片付けるんだ、これ……」
宴会後みたいな散らかりようの居間を見渡して俺はため息も出ない。
サッカー日本代表の爪の垢でも煎じて飲めばいいんだ。
馬鹿野郎どもめ。




