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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第二章  竜の瞳と聖女の涙
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第十九話  匿われた理由

 新しい部屋でレナはお風呂に入り直し、真新しい服に着替えてさっぱりとしていた。まだ月明かりが眩しい夜中である。広いベッドの上で腰をかけ足をぷらぷらとさせていた。


(そういえばあれまだ持ってたっけ)


 空間から植物の種を取り出す。無視されるかもしれないが何もしないよりはいいだろうと声をかけようとしたその時、種から勢いよく芽が吹き出し見覚えのある姿が現れた。


「ここどこさ」


 開口一番、酷く無機質な声が響く。いつもの如く厚い前髪で目は見えず表情がきちんと見えるわけではないが怒っているようだった。


「ドルニグル」


「ぼくたちに黙ってずーっとほっつき歩く程の用事がここにあったわけ?」


 それに対し聖女と追放されていたと言うとブルーメは頭を抱えた。トラブルメーカーめと呟かれた言葉にぴくりと片眉を動かした。


「それで今更連絡寄越した理由は?」


「今それをまだ持っていた事思い出した」


「馬鹿なの? というか君なら勝手にいつでもすぐに戻ってこられたんじゃないの? 今まで遊んでたんだ?」


「そうね、返す言葉もない。私は逃げていた。でも忘れる事が出来なかった。今更だけど様子が気になって」


 前触れもなくいきなりずいと目の前に紙を差し出される。


「これに見覚えは?」


「ない」


 そんな事だろうと思ったと深いため息を溢される。それは一体と聞けば君からの手紙だとブルーメは言う。見覚えはないがと思いながらも読んでいけば中身はゴーシュを助けるために暫く連絡取れないと書いてあった。それを読んだ上でこれは私の字ではないとレナはブルーメに伝える。


「分かっているさ。怪しいと思って調べたんだからー。……はぁ、それで? こっちに戻るわけ?」


「ええ。色々とごめんなさい」


「別に。まぁ戻るなら早くした方がいいよ。長男は信じて待ってるってさ」


「長男? ドロワじゃなくって?」


「長男」


「ゴーシュは戻ってきたの? 無事だったのね、良かった」


 レナがホッとしているとブルーメは冷たく言葉を吐き捨てた。


「もたもたしていると死んじゃうかもね」


 どういう事だと問い詰めるがブルーメは知らんぷり。全てを投げ出して遊んでいた罰だと何一つとして情報を渡さなかった。間に合えばいいねとブルーメは種の中に戻り逃げてしまった。

 1人残されたレナは落ち着かない。ブルーメはゴーシュと言葉を交わした。だがレナがもたもたすれば死ぬかもしれないと言う。間に合えば。一体なんのことだろうと考えながら夜が明けた。



「ドヴェルグ、ドヴェルグにとって普通って何?」


 それは朝食の席でのことだった。まだドルニグルを出る事は伝えてはいない。そのため比較的穏やか中でレナは話しかける。


「なんじゃ突然。普通とはとおかしな事を言う。一体何に対しての普通なんじゃ? それともなにか? 以前より変な顔してるのはそんな訳のわからん事で悩んでたんか?」


 悩む事のものではないだろうとドヴェルグは呆れる。


「普通の人間って何だろうって分からなくて」


「人間のことなんぞわしゃ知らん。なんだ、周りが普通はこうしているからこうしろって言われてほいほい従うんか?」


「そう言うわけではないけれどたまに人間じゃないとか普通じゃないとか……」


「歯切れが悪いのぅ。お前さんが何を気にしとるかわしには分からんがな、ただ言えるのはお前さんはちーっと大多数のもんより色々出来ることがある。それだけじゃないんか? 出来ないふりをして周りに合わせて何か意味あるんか? 周りに合わせることがそいつにとっての普通なら問題ないと思うがな、お前さんにとって出来てて、知ってて当たり前のことを周りから言われてやらなくなるなんぞそれこそ普通じゃないと思う。どんな種族だって、同じ種族でも出来る事出来ない事の差がある。皆が違うから多様なものが生まれてくる。だからこそ面白いんじゃないか。わしが作るものだってそうだ。わしが思うように叩き錬成したりしとる。これは普通こうして作るなんぞ枠に囚われたら終わりじゃと思うとるわ。よーけつまらん世の中になるぞ?」


 レナはドヴェルグの言葉がするりと入り込むような気がした。個々人で持つ普通は違う。周りに合わせる事も時には必要だがそれ以上に合わせるのはただの模倣。コピー。人形と変わりない。ハッとさせられる部分もあった。

 

「ありがとう、少し楽になった。……それからドヴェルグ、私今日ここを出るから」


「はっ!? いきなりなんじゃ! お前さんがいないのはつまらんぞ。わしもついていく!」


 朝食の席でレナがドルニグルを出ることを伝えると、案の定ドヴェルグが騒いだ。だがレナがピシアンティアに戻ると言った途端にピタリと静かになる。


「そりゃそこのに関係あるんか?」


 冷たく聖女を見るドヴェルグ。最初の頃こそエヴェレットの妻かと言っていたがそうではなくピシアンティア帝国の聖女だと誤解を解くとそれ以降居ないもののように扱っていた。その態度の急変さにエヴェレットは少し心当たりがあるようではあったが……。


「聖女様は関係ないよ」


「ふん、どうだかな。自国民が傷つき苦しんでいる中のうのうと安全地帯に来て呆けておるのに代わって鎮圧しに行くんじゃろ。行くな行くな。行くならそこのすまし顔のやつに1人で行かせろ」


「すみませんドヴェルグ様。それは一体どういう意味ですか、聞き捨てなりませんね」


 にこやかな笑みを浮かべながら聖女はドヴェルグに顔を向ける。だが内心穏やかではないだろう。


「そのまんまの意味じゃ! 国のトップが知らぬとは言わせん。今あの国は——」


「小父上!」


 エヴェレットが声を張り上げ止めようとするが、その声も虚しく、


「内戦をおっぱじめているではないか」


 しんと静まり返る場に最初に声を発したのは聖女だった。


「……失礼を承知で言いますがそれは何かの間違いでは? 私が出る前までもそのような気配はなかった」


「はっ。だが事実、今あの国に行くものは武器商ぐらいじゃ。わしの叩き上げたものを買い取りたいなどとほざく馬鹿者が跡を立たん。エヴェレットもなぜこやつを庇う?」


「小父上、私は約束をしたのです。とても大切な……約束は破れません」


「ほう? まぁお前もいつまでもわしのいうことを聞くべきではないからいいがな。だがな、普段平和を謳っておきながら自国が大変な時にのうのうと1人で遊んどるのは気に食わん。わしもこやつがいるうちは出ていく」


 荒々しく扉を開けドヴェルグは出てしまった。聖女はエヴェレットに話しかける。一体誰と何の約束をして私を置いているのかと。だがエヴェレットは口を開かない。そうしているうちに時間は過ぎていく。レナは焦れてもう出ると声をかけて部屋を出ようとした時、ようやくエヴェレットが口を開く。


「内戦を起こしているのは本当だ。急ぎではないなら行かぬ方が良い」


「親切ありがとう。だけど——」


「王様、私もレナと戻ります!」


 レナの言葉を遮るように聖女が声を張る。エヴェレットはダメだと言うが聖女は聞かず行きましょうとレナの手を取る。


「ダメだ、あやつが……」


 ばっと聖女は振り返る。


「あやつがどうしたのですか。お願いです王様、どうか教えて下さい。一体誰と何の約束をしたのですか」


「理由が分かれば聖女様も止まってくれるかもしれませんよ」


 エヴェレットは観念したのか語る。曰く、同じく政権を握っていたピシアンティア帝国の王が聖女を煩わしく思い消そうと考えていた。人は強欲な生き物、すべての権利を手中に収めようとしている事を知りあやつ、つまりビルフランは聖女を守るために裏で手を回し続けていたそうだ。そこまで語った所で聖女は駆け出した。誰も彼女を止められない。


「聖女様は強いから、また生きて会える。ありがとう」


 そう言ってレナも後を追うように走り出した。


「……あの目には、やはり逆らえぬなぁ……」



 エヴェレットの愛したかつての聖女の、アデールの眼差しとそっくりだった。片思いのまま燻り続けた心に再び燃料が投下されていくのを感じていた。


「好いた者を守るのなら言うべきではないのは分かっていた。ああ。分かっていた」


 男の約束より好いた女の面影を優先したエヴェレットは不思議と胸の支えが取れていた。彼女なら無事にやってくれる。先代の聖女、アデールと同じ眼差しを向けたペルトゥアと全てが重なって見えていたエヴェレットはそう思い、1人玉座へと向かうのだった。


 また一つ歴史が生まれる。その瞬間を感じて。

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