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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第二章  竜の瞳と聖女の涙
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第十六話  リヨン

「坊主ら、勝手に触るんじゃねぇぞ」


「わかってるよ!」


 そう元気に返事をしたものの、悪ガキ大将は足の震える思いをしていた。レナとまた勝負だといつものように突っかかっていけば、今日は連れて行きたい所があると城の中へ招かれキョロキョロしていれば暑い場所に辿り着き仁王立ちをしたドヴェルグに睨まれ招き入れられた所だった。彼らもドヴェルグの事は知っていた。見た事はなかったが本能で悟る。只者ではないと。そしてレナがドヴェルグと言っているのを聞いて伝説の男と知り、ここから逃げ出したい思いが湧き上がってきた。


「どうしたの?」


 いつもの違う様子にレナが気にかけてくるがそれを聞いてドヴェルグが子どもを睨む。


「な、なんでもねぇよ」


「具合が悪くなったら言ってね」


「おう……」



 その時甲高い音が響いた。ドヴェルグが金属を叩き始めていた。カンカンと高い音を立てながら真っ赤に焼けたそれを叩く。鍛接している途中だからかまだまだぶ厚く巨大なそれを軽々と裏返して叩き、また裏返して叩き。冷めればまた熱してとそれを繰り返す。額に巻いたタオルがみるみるうちに色を変えていく。少し離れた所で見学している者も汗をかき始めていた。


「……チッ、レナ」


 それだけ伝わるやりとり。鞴で風を送り、炉の温度を上げる。じっとりと全身から汗が吹き出し汗を拭うが見事な職人技から目を離す事はなかった。無言の世界だがいつまでも見ていられる。むしろ見続けていたい、そしてあの場に立ちハンマーを振るいたいと男も女も関係なく思わせられ、今見ている場はある種の芸術とも言えた。


「使う?」


 レナの出すそれをドヴェルグはチラリと一瞥、どうやら肯定の意らしくレナは持っていた粉を今も叩いているそれに振りかけた。すると真っ赤なそれが青白い光を放つ。暑いのに冷気を感じた。


「ッ、レナッ!」


 炉の温度を上げていく。焼いては叩き、焼いては叩きそれを一体どれほど続けたのだろうか。ハッと我に変えれば焼きなましの段階に入っていた。ゆっくりとそれが冷めるのを待つようになりようやく一息をついた。


「流石だね」


「いや流石じゃないぞ全く。レナの事だからまた変なもんだろうと思ってたが焦ったわい」


「褒めてる?」


「あー褒めてる褒めてる。所で何を入れたんじゃ?」


「レイギアの卵の殻だよ」


 グビグビと水を飲んでいたドヴェルグはブフーッと勢いよく水を吐き出す。


「なんじゃ恐ろしいっ。何考えておるんじゃ!?」


「面白そうと思って」


「どうやってそこからそんな発想が湧くんじゃ……」



 呆れた目を向けるがそこには凄いやつだと尊敬の念も篭っていた。



「なぁお前らレイギアって知っているか?」


「知らなーい」



 2人の後ろでこそこそと子どもらが話す。それを耳聡いドヴェルグが拾いあげる。


「もし外に出るつもりがあるなら勉強ぐらいしておけ。探究心を追求するにはまずは知らなければ無駄な時間を過ごすだけじゃ」


「ドヴェルグ、それじゃ伝わりにくい。あなたたちの中にドヴェルグの弟子になりたい子がいるなら今からちょっとやってみる? 志望する人がいるなら教えるよってドヴェルグが」


「なっ、勝手に……はぁ。まぁ見込みがない奴はすぐ切り捨てるからな」


 ガシガシと頭を掻きながらドヴェルグは床にどかっと座る。それを見て子どもたちは互いに顔を見合わせる。先程まで見ていた事を自分たちがと想像して頷く。


「やってやる!」



 カンカンとまばらに叩く音があちらこちらから聞こえて来る。不思議と誰もが投げ出すことはしない。嫌々だったドヴェルグも次第に指導に熱が入り始める。それでも泣き言も無く、それぞれが小さなナイフの刃を作り上げる。初めてで歪みもあるし厚さもまばらなとても使いにくそうな代物だがそれでも作れたことが嬉しかったのだろう、幼い子らは喜んだ。だが、



「くそっ……」


 ガキ大将のリヨンだけは悔しがっていた。一番上手く綺麗に作れていたのだが全く嬉しそうにしない。


「ふん、一丁前に悔しがりおって」


「うるせ。俺はもっと出来る、出来たはずなんだ。次はもっと完璧に出来る」


「……ドヴェルグ、決まったね」



 フンと鼻を鳴らし背を向けたドヴェルグにハテナを浮かべる子どもたち。この状況を分かっているのはレナとドヴェルグだけだった。



「明日も来い」


「……は? いいのかよ来ても……すぐあんたより上手いやつ作ってやるから覚悟しろ」


「寝言は寝て言え」



 ドヴェルグはついぞ背を向けたままだった。


「今日はいきなり連れてきてごめん」


「何言ってんだよ、別に楽しかったし気にすんな。つか嫌だったらさっさと帰ってるし」


 日も暮れて空をチカチカと星が瞬く中、レナは皆を住処に送り届けた。今日連れてきたのは親もなくその日その日を自由に、そして不自由に過ごす子どもたちだけだった。乱雑ではあるが話せば分かる子ばかり。だがこのまま大人になっても字も読めず、まともに就職すらしないだろうことはなんとなく想像はついていた。今回レナがドヴェルグに紹介したのは色々考えてのことだった。


 中々弟子を取ろうとしない上にもう弟子探しもろくにしていないというドヴェルグの目に止まるものがいるかもしれないという期待と、子どもたちが学ぶ事を知り意欲的に取り組む何かきっかけになればと思っていた。


(思わぬ収穫だった。リヨンのやる気さえ続けばいい鍛冶師になりそうだったな。ドヴェルグを超えるぐらいになればいい)


 1人また城に戻りながら、不思議とその日は心が軽くなっていた。



 夜、もう遅い時間になり夕食を運んでもらうのもどうかと思ったレナは食べずに寝てしまおうと考えていた。だがレナは部屋に戻る前にドヴェルグに捕まり、夕食を共に取ることとなる。その場には何故かエヴェレットと聖女もいた。まだテーブルに料理は置かれていない。レナとドヴェルグが席に着くとすぐに温かな料理が運ばれてきた。


(王様が待つのって周りの人はどう思うんだろう。まぁ私が気にする事でもないか)



「小父上、いつまでこの城に滞在する予定ですか?」


「さぁな。数日かもしれんし、長ければ……おいレナ、あの坊主は幾つだ」


「詳しい事は分からないけど10はあったはず」


「んじゃあ長けりゃ15ぐれーか? 都合悪いんなら別んとこに行くまでだがよ」


「いえ、小父上であればいつまでもゆっくりしていって欲しいのですが……あの、坊主、とは」


 恐る恐ると言った様子でエヴェレットはドヴェルグに伺う。小父には滅法弱い様子である。


「あー、レナが連れてきたガキの事だよ。目は悪くねぇからちと遊んでやろうと思ってな」


 エヴェレットはギョッと目を剥くも一瞬で表情を戻す。だがしかし、もちろんそれをドヴェルグは見ており豪快に笑った。


「お前には才能が欠片も無かったもんなぁ! まああいつも最後まで見にゃ確実な事は言えねーけどな」


 髭にたっぷりと泡をつけながらドヴェルグはエールを飲み干した。すぐさまエールのおかわりが運ばれてくる。相変わらず出たら出る分だけ飲み続ける人だなとレナは思った。


「そうですか……分かりました。もし必要なものが有れば伝えてください、すぐに用意させますので」


 ごほんと少し気まずそうにエヴェレットは咳払いをする。

 やがて、たらふく腹に酒を流し込みドヴェルグが眠くなったと席を立ちようやく夕食の時間は終わりを告げる。やっと解放されるとレナと聖女も部屋から出ようとする時エヴェレットが呼び止める。


「少し良いだろうか」


 その言葉に自分ではないなと判断しレナはそのまま出ようとする。が、


「これ、何処へ行く? ぬしに話があるのだ」


 どうやら用事があるのはレナにだけだったらしく、聖女はそのまま下がらせた。別れ際少し不安そうな表情を浮かべていた。心配してくれているのだろう、優しい人だなとレナはエヴェレットに顔を向ける。


「なんでしょうか」


「小父のドヴェルグとは非常に親しく、また命の恩人と聞き昨日から考えておった。そのような者を聖女ペルトゥアと同室で済ますなど恩知らずもいい所だと。わしの面子にも関わる。今晩から新しい部屋を手配する。今日からその部屋で過ごすと良い。付き人も付ける」


「分かりました。ありがとうございます」


「それから……いや気のせいだった。外にもう案内の者がいるはずだ、もう下がって良い」


「では失礼します」


 ようやく部屋から出ると扉の側にドワーフの女が1人、女中が声をかける。


「お部屋へ案内します」


 案内されるがままについて行くと聖女と過ごしていた部屋とは反対に歩いた。やがてこちらですと言われた部屋を見るとあの部屋と同じくらいの広さだった。



「聖女様には私から話を通しておきます。今夜はこのままこちらでゆっくりお休みください」


「分かった、案内ありがとう」



 女中の目は冷たかった。また明日相談して女中は要らないと相談しようかと思いながらレナはベッドに身を投げた。

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