第十五話 騒がしいドワーフ
「……凄くなじんだね……」
「何が?」
笑顔のドワーフの子どもたちに囲まれながらレナは首を傾げた。心なしか遠い目を聖女から送られる。
最初の1週間はずっと部屋に閉じこもりっぱなしだった。それから少しずつ部屋の外に出るようになり、冷たい視線に晒されながらもどこ吹く風と城の外に出る許可をなんとか得て。食べ歩きをしながら過ごしていればいつの間にやら子どもたちに好かれていた。レナ自身、何故かは分かっていない。だがたまに同行していた聖女は知っている。レナが美味しいものをパクつくのを見て物欲しげな顔をする子どもに分け与えたり。迷子で泣いている子を見かければ側に行き声をかけたり。とにかくレナこそ聖人君子かなと言えるほどに親切を振り撒いていた。
「おいレナ、次俺と勝負だろ」
「ん、いいよかかっておいで」
ついには悪ガキ大将とまで仲良くなり城周辺に生息する子どもたちはみんなすっかりレナと仲良くなってしまった。もちろん周りの大人は不審の目を向けたり子どもたちに近くなと言い聞かせもしていたのだが……。
「くっそーこんな細っこいやつに」
腕相撲であっさりと転がされ少年は悔しそうにするも笑っていた。この少年も最初はとにかく当たりがきつく、この辺りでも手がつけられない問題児で有名だったそうだ。だがそんな悪ガキ大将も以前ほど暴れなくなり、大人たちの視線も少し、ほんの少しではあるが揺れ優しくなってきているように聖女は感じていた。
(周りを取り込むのが上手い……人と関わるのめんどくさいって思うタイプだと思ってたけど意外と積極的なんだよね)
「おねーちゃん、これ! あげゆ!」
舌足らずな小さな女の子がそこらから拾ってきたであろう石をプレゼントする。それにレナは嫌な顔一つせず綺麗だねありがとうと受け取る。微笑ましい光景ばかりがそこにはあった。
そこまでレナが人気者になると流石に噂話として城の中にも広がっていく。一体どんな手を使ったのかと陰口もあるが——
「久しぶりに少しあの者と話をしたい。夕餉に呼んでくれるか」
「分かりました、レナにも今日はここへ来るよう伝えておきます」
ついにエヴェレットの耳にも話が入ったか、面倒なことにならなきゃいいとため息を吐きそうにながらも聖女は笑顔で答えた。
その夜、気が進まない中レナも久方ぶりに夕食の席に着いた。
「久しいな」
「お久しぶりです。……エヴェレット様自ら私をお呼びになったと聞きました。何か失礼をしてしまったのでしょうか」
「そう縮こまるな、そういう訳ではない。噂を聞いてな。ぬしが子どもらを何を使ってか懐柔して回っていると」
ピクリと聖女の瞼が震える。だがレナは表情を一つも変えず、
「私にそのつもりはなかったのですが結果、現状はそうなってしまっていると申し上げておきます」
「ほう? まぁよい。元気の良い子らも落ち着いた行動をしてくれると喜んでいる者もいるそうでな、今回責めるつもりで呼んだのではない。だが、もしあの子らを傷つけた時はわしが出るとも限らんなぁ?」
「肝に銘じておきます」
今は目を瞑るが害をなせばただでは済まさないと釘を差しに呼んだだけのようだった。そして美味しくて美味しくない食事は進みそろそろ終わるという所で外が騒がしくなる。お待ち下さいだの止まってくださいだのと悲鳴が聞こえる。
「おおエヴェレット! ここにおったか!!」
バンッと勢い良く扉を開きやってきたのはドワーフの男だった。白髪まじりの髭を蓄えた男とエヴェレットは知り合いのようだった。
「小父上、いらっしゃる時は前もって……」
「ああ!? レナ! レナじゃないか!! 変な人間がおると聞いてな、まさかと思っておったがやはりお前さんか!! ガハハ、久しいのう。全然会いに来ないから会いにきてやったぞ!」
豪快に笑い豪快にレナの座っている椅子の背もたれの部分をバシバシと叩きながら男はレナを見る。その顔を見てレナはああと思い出す。
「ドヴェルグ、久しぶり」
それを聞いて驚く2人。1人は聖女、もう1人はエヴェレットだった。
「小父上、まさか知り合いですか?」
その声に震えがあったのは何故か。エヴェレットには目の前の光景がとても信じられなかった。同じドワーフ相手にすら気難しい所があるはずの小父がとても親しげにしているのだ。何故か裏切られたような気持ちにすらなっている。
「なんじゃあ、エヴェレット。レナも知らんでここに置いとったんか。ほれ、前に話さんかったか? わしの恩人でその上珍しいもん触らせてくれたやつの事を。あれがこのレナじゃ」
「えっまさかそんな。ドラゴンを蹴散らしたのがこの人何ですか? とてもそうは……」
「まぁな見えんじゃろう。対して筋肉も見えん、魔力だってあるように感じられん。どう見たって平均的な人間より劣っているようにしか見えんからな。わしだって目の前で見なければ信じられんわい。しかも今よりもっと幼いからな」
「ドヴェルグ、それ褒めてる?」
褒めてる褒めてると笑うドヴェルグと、レナを交互に見比べてエヴェレットは頭が痛くなる。信頼している小父の恩人になんて対応してしまったのか。ましてや話を聞いただけではあるが、ドラゴンを片手で軽くいなせる人間が怒り暴れればこの国に大きな損害が出ていただろう。ただで済まないのは自分の方だった事を思い今そんな事になっていない事に心底ホッとしていた。
「エヴェレット様、あちらにいらっしゃるドヴェルグ様はまさか鍛冶師として有名なドヴェルグ様ご本人なのですか?」
すすすっと聖女がエヴェレットに近寄りこそこそと話しかける。それにエヴェレットは頷き肯定すれば聖女は目を丸くして、小さく
「コミュ力お化けだ……」
と呟いた。それにエヴェレットも激しく同意をしたかった。
さてそんな2人を置いて、レナとドヴェルグの会話は弾む。昔話に花を咲かせ、ドヴェルグはレナを工房に誘う。
「行きたい気持ちはあるけど暫く子どもたちと遊ぶ予定が」
「なんじゃわしの誘いを断るのはおんしだけだぞ。そしたらいつ来てくれるんじゃ? おおっそうだ、この城にも小さいがわし専用の工房を作ってもらっておる、そこはどうじゃ? 駄目か?」
ドルニグルの外が駄目ならすぐそこのと誘うもレナの返事は浮かない。しかし必死にレナを誘う様子に反応する者がいた。
「小父上、まさか後継者候補ですか?」
「それが出来たら一番じゃ! なんせ見たらすーぐわしの真似が出来るからな。しかも真似ばかりは駄目だと言えばアレンジも加えてくる。センスの塊じゃぞ?」
くらりと目眩がしてくるようだった。かつてエヴェレットも慕うドヴェルグと同じ道に進もうと考えていた時期があった。だが才能はなくすぐに工房からドヴェルグに追い出されていた過去がある。通りでドヴェルグが今まで見てきた以上に他人に親しくしていると思った。
「ドヴェルグ、後継者候補まだ見つかっていなかったの?」
「当たり前じゃ、そんなホイホイこれだってのが見つかるわけがない」
「……それならさ」
レナの持ちかけた提案に渋々ながらドヴェルグは了承するのだった。




