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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第二章  竜の瞳と聖女の涙
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第十話  ナイルキアの正体

「レナ様、もしまた遅くなるようでしたら私も黙っていませんからね」


「うん、気をつける。でもちょっと心当たりも思い出したから聞き取りに行くしもしかしたら時間かかるかも。それじゃ行ってくる」


「……いってらっしゃいませ」



 小さくなる背中が見えなくなるまでドロワはじっと見送った。不安で押し潰されそうな中なんとか今も笑顔を浮かべられるのは偏にレナがいるからだった。


「また何かレナ様の身におきませんように」




 さてドロワに見送られながらレナはナイルキアのいるであろう部屋の前に来ていた。手土産片手に扉をノックする。


「えっ来たの」


 少しして上から声が降ってくる。見上げると上の階からフードを被ったナイルキアが覗いていた。


「開いてるから入っておいで」


(不用心だな……)


 そうは思うがレナは分かったと遠慮なく部屋に入っていく。あれから多少掃除の手が入ったのか以前よりも埃っぽさがなくなっているようだった。


「子どもは見つかったようだね、良かった」



 先程レナが入ってきた扉からナイルキアがやってくる。扉の前で棒立ちのままだったレナを押して中に押し込み粗末な椅子に座らせる。


「で今日はそれを私に?」


「ええ、どうぞ」


 ビリーのところで買った菓子の詰め合わせを渡すとナイルキアはどうもと嬉しそうに受け取った。


「それからあなたに聞きたいことがあって来たの」


「なになに」


 ナイルキアは受け取ったばかりの菓子の中からクッキーをつまみボリボリと噛み砕きながら耳を傾ける。仄かにバターと甘い香りが広がった。


「あなたの顔、聖女様に似ているように見える。親戚かなにか?」


「いーや。親戚ではないな」


「そう……実はね、姿を消している子まだ見つかっていないの。あなたと同じように聖女様と顔が似ている。ねえ、あなたは何も知らない?」


 そういうとナイルキアの菓子を摘む手が止まった。何やら思案している様子にやはり何か知っているのかとレナは更に言葉を続ける事にした。


「噂で聞いた、聖女様が襲撃を受けたと。顔の似ているあの子が姿を消してそして今また顔の似ているあなたに出会って。あまり偶然には思えないの。聖女の立場を奪ってこの帝国を乗っ取るとかそんな陰謀に巻き込まれたのではというのが今私が思いついていること。バカみたいな話だとは分かってるけども」


 そこまで言い進めた時ナイルキアが顔を上げる。ガラスのような美しいアメジスト色の瞳がレナを見つめる。戸惑いと憤りと不安とがないまぜになったその視線にレナは違和感を覚える。


「私が襲撃と人攫いの犯人だと? あなたはそう言いたいのね」


 ふーっと深く息を吐き空気がピリつく。


「……いいわ、あなたが本気を出せば白も黒に変えられる。疑われたままこっそり監視とかされたりするのは嫌だしもううんざり」


 乱暴にフードを剥ぎ取ると見事なまでに美しい銀糸が零れ落ちる。やはり顔立ちはゴーシュに、聖女に似ていた。そして徐にナイルキアは指で目玉を触り始める。


「いった……せっかくつけたのにつけるんじゃなかった。慣れてないのに」


 ぶつくさと小言を言いながら目を見開き人差し指と親指で目の表面を撫で続けやがて。


「まさか……」


「今あなたが考えている事を当ててあげよーか。まさか聖女様だったのか、でしょ」



 目から紫色のガラスが取れ、群青色の——本来の瞳の色が現れる。


「どうして」


「さあね。でも本物の私がここにいるんだからとりあえずあなたの言った聖女の立場を奪うためって路線は無くなったよね」


 親戚どころか本人だったという事にレナは驚いた。同時になぜこんな所に隠れるように住んでいるのか分からなかった。


「私の顔に似ているっていう子ども、見つかってないんだよね? 残念だけど心当たりはないわ」


 前髪をかき上げ気怠そうな雰囲気を出す聖女に、本当にあの時会った聖女と同一人物なのかすら疑わしくなってくる。


「なに、私が本物か疑ってる? ……私はあの時、あなたのギフトは見れないって確か言ったわ。これで信じてもらえる?」


「分かった、とりあえず信じる。でも信用したわけじゃない。あなたが聖女ならあの子を自分の分身として置くために攫った可能性が出てくる。見張られるのはうんざりだと先程——」


「そんな事する訳無いじゃない。私がそんな命令をくだしたとでも? 馬鹿にしないで」



 目を怒らせゆらりと魔力の渦ができ髪がふわりと舞い上がる。今の調子で聖女と対峙するのは危険だろうとレナは判断しすぐに言い過ぎたと謝った。聖女も相当出来る人と言うのは嘘ではなかった。


「それじゃあ本当に知らないのね。襲撃を受けたからここに身を隠しているの?」


「そう言う訳じゃないわ……。ただ私の身代わりを探そうとしてない事は確実よ。でもそうよね、あなただってその子どもが心配なだけ。私も気になってきたから一度戻って確認する。今日まだ時間ある?」



 レナは時間は大丈夫だと答え、2人は部屋を出る。聖女はまたフードを深く被り髪もきっちりしまいぱっと見は聖女と全く分からないようにした。フードの頭を見下ろしながらレナはまた手掛かりから探さなくてはと落ち込んでいた。


「ちゃんとついてきてよ、でも自然に流れに身を任せて。それから出来れば道を覚えないで欲しいかな」


「それなら私待ってるけど」


「……万が一、万が一だけどあなたの探している子が私の代わりに置かれていたら連れて帰らなきゃでしょ? あなたがいなきゃその子どもの容姿とか分からないし、連れ出すにもあなたがいる方がスムーズでしょ」


 音もなくスタスタと歩く聖女の後をついていく。暫く歩いていくとこじんまりとした小さな家に辿り着く。聖女は小さな鍵を取り出すと鍵穴に差し込み、カチリと扉を開ける。埃の凄い家だった。鼻がムズムズとしてレナはくしゅんとくしゃみをする。


「換気とか出来てないし、服の袖とかで鼻覆った方がいいかもね」


 襟の部分の布を引っ張り鼻を覆った聖女が少しくぐもった声を上げる。レナはタオルを出して鼻と口を覆った。

 埃まみれの家の中、最近誰か通ったのか足跡が残っていた。それは大方聖女のものだろうなと当たりをつけて後に続く。


「ここから大聖堂の中へ行けるから。それなりに歩くけどね」


 更に奥の部屋に入りカーペットをまくり上げて地下へと続く扉をギギーッと軋んだ音をさせながら開けた聖女はさっさと明かりもない暗闇の中へ飛び込んでいく。


「来ないのー?」


「今行く」


 梯子を降りていく途中で聖女は魔法で光の玉を作り通路を照らす。地下は空気はひんやりと少しカビ臭い。


「ここも普段まず使う事ないって言うか知る人が殆どいない通路だからね、手入れがされてないの。空気ここも悪いから直に吸う事はおすすめしないよ」


 コクリとレナは頷く。


 コツコツと足音が反響する中2人は会話もなく歩き続ける。途中途中で罠などありそれらを避けていく。そうして時間の感覚もない中、殆ど変わらない景色にようやく変化が訪れる。


「お疲れ様、もう少しで着くわ」


 小さな扉の前に辿り着いた。ここでも鍵を使い開けばスッと音もなく開く。石の階段を上がり更に扉の前に立った時、聖女は違和感を感じる。


「鍵が入らない……」


「壊れたとか?」


「そんなはずは」


 外に誰がいるとも分からない為下手に扉を破壊するのも危ない。が、このままではらちがあかないと判断した聖女が扉を強行突破させる事にした。


「ふんっ」


 ドアノブの辺りを一点集中で破壊するとようやく扉が開く。吹き飛んだ金属部分がカランと派手な音を立てた。


「怪我人は出なかったか、良かった。人が来るか少し待ちましょう。ここに誰もいないままこの惨状みたら賊が入ったかと勘違いされるし」


「私たちが疑われたりは?」


「大丈夫よ、それに私が聖女だから。その証のブローチもちゃんと持っている」


 出されたブローチは銀の台座に宝石が散りばめられ、キラキラと美しいものだった。ピシアンティアの紋章がデザインされているようだ。


「おやおやこれは可愛らしいお客人ですな」


「ビルフラン! 突然ごめんなさい、えっとね扉が……」


「皆さん、その方々を丁重にもてなしなさい」



 どこからかわらわらと兵士が集まる。そしてナイルキアとレナを囲み腕を捻り上げる。


「えっちょっとビルフラン、これはどう言う事よ!? 離しなさいよ、いったっ……痛いからやめっ……」


 口元に白い布を当てられた聖女はぐったりと動かなくなる。レナも同じく白い布を当てられるが何かの薬の匂いがするのみだった。


「おや、薬の耐性があるのですね。まぁいいでしょう、抵抗する様子もありませんしね。あなたには一度牢に入ってもらいますよ」


 後ろ手に手首を縛られレナは歩かされる。聖女は横抱きに抱えられている。一先ず危害は加えられる様子はないようだった。レナは口を開く。



「この子、一応聖女様だけど」


「おやそうですか」


 先導するビルフランと呼ばれる男は振り返りもせず答える。情報を与えるつもりはないようだ。レナはそれっきり口を噤む。


(一度牢に入ってもらいますって事はもしかしてすぐに出すつもりがあるのかもしれない。それにしてもこれは一体なにが起きているのか……ドロワごめんね)



 移動にもそれなりに時間はかかっているはずだ。もう昼過ぎになっているだろう、そろそろそわそわし始めているであろうドロワに謝りながらレナは牢屋へと足を踏み入れるのだった。

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