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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第二章  竜の瞳と聖女の涙
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第九話  ナイルキア

(ここは……)



「あっ、気がついた?」



 少し埃っぽい部屋でレナは目覚めた。離れた所にぼんやりと影が映る。声からして女性だろうか、シルエットは丸く何かを被っているようだった。


「あれ……」


 ()えた匂いに辺りを見渡し、レナはいつの間にか服が変わっている事に気がついた。


「あー覚えてない? あなたゲロって倒れてたよ。臭いから軽く拭き取って上だけは変えといたけどさ。ほらこれ」


 袋を放り投げられ中を見れば確かにレナの着ていた服だった。じっとりと濡れて重みがあった。どうやら洗ってくれていたらしくレナはお礼を言った。


「いーよいーよ。で、もう大丈夫なわけ?」


「ええ、お陰で……っ」


(ゴーシュ!)


 ゆっくりしている場合ではなかったとレナが立ち上がると突然どうしたんだと女は驚いた。レナは驚かせた事を即座に謝り、逸れた子どもを探さなくてはいけないと伝える。


「へぇ。でももう少し休んだら? 自分じゃ分からないだろうけど酷い顔だよ」


 レナの顔は血の気が引き真っ青だった。今にも倒れそうだと誰でも思えるほどに。心配で血の気が引いているのかはたまた体調が悪くてそうなっているのか、それは分からないがどちらの影響もあるのだろうと想像はつく。


「私は何でもない……でもあの子は無言で消えるような子でもないから。ましてや双子の妹を置いてどこかに行くとは考えられないし心配だから」


「そうだねぇ、最近この辺り空気が重たいし人攫いだとかいてもおかしくないかもね。それならその子の無事を祈っておくよ」


「ありがとう、お礼は後で必ずする。ところで後であなたに会うにはどうすればいい?」


「ははっ、急いでる癖に律儀な人だね。私は大体この部屋にいるさ。もし会いたければまたくればいい」


——戻ってこられるのなら。

 なにやら変な事を言うと思いながらレナは外へ出る扉に手をかけ、まだ相手の名前も聞いていなかったなと振り返る。


「まだ自己紹介していなかったわね。私はレナ、あなたの名前は?」


「私? 私の名前は……ナイル。ナイルキアのナイルだよ」


 フードからチラリとアメジスト色の美しい瞳がこちらを真っ直ぐに見ていた。そして今まで薄暗くその上フードを被っていてよく見えなかったが、扉を開けた事で外の光が差し込み、ようやくフードの女の顔が見えた。レナは思わず息を飲む。——その顔立ちはゴーシュに似ているように見えた。



「ゴーシュ……」


「ん? 変な顔してどうした」


「いえ、なんでも……ない。ごめんなさい、ろくにお礼も出来ずに出るけれどそれじゃあまた」



 レナは引っかかりを覚えながらも外に出る。扉を閉めてしっかりと場所を目に焼きつけその場を後にした。



 もしかしたらもうホテルに戻っているのかもしれないとまずは一旦戻る事にした。朝も早く人通りも殆どない中レナは急いだ。急いでるホテルに戻り部屋にノックを入れるとすぐに開かれドロワがレナだと確認するや否やその身に縋り付くように抱きついた。


「レナ様まで居なくなったかと思いましたっ」


「……ごめんね。それからまだゴーシュ見つけられなくてごめん」


 

 震える背中をぽんぽんと叩きあやしながらそうしているとシャンディがやって来る。


「レナ、ゴーシュは!?」


「ごめん……まだ」


「そっか。いやまぁレナが無事みたいで良かったよ。いつものあんたならサクッと見つけてなんでもない顔してるからさ」



(いつもの……いつもの私なら)


 何故かその言葉が刺さる。その後もシャンディはしゃべっていたがその殆どはレナの頭の中には入らなかった。


「そう言えば変な匂いするな……ってレナからなんか変な匂いするぞ!? 何処に探しに行ってたんだよ。体洗ってきなよ全く、だから元気なさそうだったんだな。ドロワ、お風呂連れてこ」


「う、うん。レナ様、行きましょう」



 シャンディとドロワに浴室に連れて行かれ、しっかり体を清めるまでは外に出る事を許されなかった。早くゴーシュを探しにと烏の行水よろしくさっさと出ようとしていたのを見抜かれていた。


「レナ様、確かにお兄ちゃんの事すっごく心配です。私も探しに出ようとして夜は無理やりブルーメさんに寝かせられてしまいましたし。

 でもブルーメさんに、レナ様は私たちの事を凄く大切にしてくださっている。強くて優しいレナ様を信じて待つべきだって。焦る気持ちはみんなある。だからこそ誰かが元気に迎えてくれる人がいなきゃ悪い空気が流れて行かないよって。それでもやっぱり不安がいっぱいになってレナ様を笑顔で迎えられなかったんですけどもね」


 レナはドロワの言葉に驚いた。ブルーメはまだレナの事を信じているようにも取れる言い回しをしている。その事に戸惑いと不思議な感覚を覚えた。


「今日は一緒に探そう。もしかしたら遊びに夢中で誰かの家に泊まった可能性だってあるし」


「はいっ」


 さっぱりとしたレナはドロワとシャンディを連れてホテルの朝食をとり、しっかりとエネルギーをチャージしてゴーシュの捜索に当たった。悲壮な顔は誰一人としてしなかった。内心は心配で心配で仕方がなくても絶対に無事だと信じて。ドロワは一体何処をほっつき歩いているんだと怒り笑った。

 ゴーシュを捜索して3日ほど経った頃、レナはとある噂を聞く。



「なぁ聖女様が襲撃を受けたそうだ、怪我もなく無事らしいが安全が確保出来るまではギフトを見る事を辞めるそうだ」


「ああ聞いた聞いた。全く、聖女様のお心遣いを無にしやがって。犯人はどうなったか聞いたか?」


「きちんと捕まえて取り調べをしているらしい。……何処かの国の手先ならいよいよ戦争もあるよな」



 そこまで聞いてレナは何故か、フードの女——ナイルキアの姿が脳裏に浮かんだ。聖女もゴーシュも顔立ちは似ていた。そしてまたそのナイルキアの容姿もゴーシュに似ていた。例えばもしナイルキアが聖女と血が繋がっていたら? 聖女の立場を乗っ取ろうと計画でもしていたら? ゴーシュを見かけて何かに利用しようと連れ去った可能性は? 悪い方へ悪い方へと思考が進む。

 馬鹿馬鹿しいとは思いながらも今は少しの情報も欲しかったレナは手土産を持ってナイルキアの元に訪れる事にした。



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