第七話 悩んでも
愉快な男と別れゴーシュははしゃぎ過ぎたのか少し疲れの表情が出ていた。ドロワはやれやれと言わんばかりに呆れた表情を浮かべ、そんな2人を見てよっぽど楽しかったんだなとシャンディは不貞腐れた。
「もう夜になるけど夕食どうしようか」
「あっ、それなら行きたいところある! ホテルのもいーけどさ、折角だし色々食いてーつーか」
「じゃあ、サンドラの奢りねぇ」
なんでブルーメのまで奢らなきゃいけないんだといつもの喧嘩が始まる。とても賑やかだった。
夕食はシャンディの案内で少しだけ治安の悪そうな暗い雰囲気の道に入った先だった。1人で行くにはこの見た目だと襲われたりして落ち着いて食べられないからとシャンディは笑ったが、このメンバーでも襲われるのではとレナは思った。シャンディより少し身長が高いだけのエルフの双子にふわふわとした雰囲気のブルーメ。グレンが一番腕っ節が強そうには見えるがそれでも見た目は若い……それはレナもだったが。
子どもを何人も引き連れてゴロツキに囲まれたら普通の人らであれば何も抵抗出来ずにこの国の闇に飲まれるだけだろう。もちろん見た目で判断すればとんでもない反撃が来るのはこのメンバーの誰もが知っている。が、それは身内だからで外部の者が知るわけもない。面倒くさい事にならなければいいと心配をした。
「ここだよ、前にここ通りがかってさー。美味しそうな匂いするし食べに来たかったんだよね。強面な奴が多いけどさ。あたしはいつ襲われても別にのしてしまえるからいいんだけどそれだと折角の料理味わえないし。今客は少ないみたいだし早く入ろ」
シャンディはテンション上がって意気揚々と店内へと入って行く。レナたちも後に続いて入って行くと、なるほど店主も顔つきが厳つく、いかにもな容貌だった。それに怯む双子。
「おっちゃん、どこでも座っていいか?」
浅く頷き店主は一旦店の奥に行った。シャンディは店の真ん中の大きなテーブル席に座り乱雑に置かれたメニュー表を手に取り眺めた。どれも美味しそうだと楽しそうなシャンディを見て幾らか双子は落ち着いた。シャンディを挟むようにして座りあーだこーだ言うようになった。
「ブルーメ?」
「んー、どうしたのー?」
「いや何でもない、気のせい」
にこにこといつもの如く緩んだ表情は変わらないが何かが引っかかっていた。レナはそれが何なのか分からないがブルーメがいつも通りにするので気のせいかと席についた。
「あっレナ様、メニューをご覧になりますか?」
「みんなが選んだら見るからゆっくり選んで」
その横でシャンディは色々と狙いを定めていた。育ち盛りの食欲はすごいのだ。やがてレナの元にメニュー表が回された。料理もだが飲み物の種類が豊富だった。レナはどれにするか迷って肉料理とアルコール飲料を選びグレンたちにメニュー表を回し全員選んだところでぬうっと店主が後ろにやってきた。レナは気配がない事に気味の悪さを感じた。選んだ料理と飲み物を伝えると店主がまた静かに奥に消えた。
「さっきの人、顔は怖いけど怖くない人なのかな?」
「さぁな。あー早く料理来ないかなー」
「もうお兄ちゃんさっき頼んだばっかりだからそんなすぐに来るわけないでしょ」
少しして飲み物だけが運ばれてきた。運んできたのは店主ではなくヘラヘラとした青年だった。
「こんなかわいー子がこの店にくるなんて珍しいね。まっここの料理美味いから楽しみにしててよ」
ことりと飲み物の入ったコップを全て置くとすぐ店の奥に戻って行った。何かを焼いているのかジューッと良い音がする。その音に食欲が刺激された気がした。
「わあ美味しそう!」
豪快な料理だった。大きな肉の塊がさらにドンと乗せられたそれはとても1人では食べきれない。この塊が来るまでにそれぞれ頼んだ物が出来た順に運ばれていた。頼んだ物をお互いに少しずつ交換しつつその味に舌鼓を打ち最後シャンディが頼んだものだけだった。
ナイフで肉を切ればとても柔らかいのか簡単に切ることが出来る。外はしっかりこんがりと焼かれているが中は余熱で火を通したのか綺麗なピンク色だ。透明な肉汁が器に広がって行く。黒焦げ茶色のソースは肉汁と混じり合いそこで初めてこの料理は完成される。
シャンディはまず一口、切り分けた肉を口に入れた。噛めば噛むほどしとどに溢れる肉汁にそれはまるで肉は飲み物だと主張しているかのようだった。少し甘めでどこかフルーティなソースと非常に相性がいい。気がつけば無言で食べ進めるシャンディを見て双子は顔を見合わせた。いつも美味しい美味しいと食べるシャンディが無言で次々と食べ進めているからだ。やがてハッと我に返ったシャンディがそこで初めて美味い美味いと騒ぎ出す。
「ほら2人も食べてみてよ、これヤバイ! 何の肉かわからないけどすっごい美味しいからさ」
そろそろ満腹だったがそんなに言うならと2人もまず一口食べ美味しいと言葉を溢した。
「おっ、それボスの自信作なんだよ! ほんと美味しそうに食べてくれるね、あっこれは俺からのサービスね。よかったらまたここに来てよ! 客はむさ苦しいおっさんばっかりだからこんな可愛い子たちが来るのは大歓迎さ」
ばちんとウィンクを飛ばしさっぱりとしたグレープジュースを配り男は給仕に勤しんだ。レナたちが料理を頼んでから客は増えて今では満席だった。柄の悪い男が多かったが不思議とレナたちに絡まれることはなかった。
「はぁ美味しかった」
シャンディは幸せそうな顔でお腹をさすった。流石にあれだけ食べればぽっこりとお腹は膨れていた。値段は少々高めだがそれに見合うだけの価値はあったように思えていた。
「僕もう眠いから先に戻ってるねぇ」
そう言ってブルーメは先に帰っている。会計は全てブルーメが払っていた。
すっかり更けたその帰り道、酔っ払いもいて絡もうとする連中もいたが美味しい料理を堪能して機嫌のいいシャンディはそれらを軽く張り手で飛ばすのみで済ませていた。
「それじゃシャンディ今日は1人で眠れるね」
「おうよ、ありがとうな。ドロワもゴーシュもおやすみっ」
ホテルに着いてもご機嫌なままシャンディは自分の部屋へと戻る。レナは先に双子にシャワーに行かせて1人また置き手紙を残しホテルの外に出た。
腹は満たされもう今日は眠ってもいいかとも思っていたがやはりレナは考え事がしたかった。
自分が何者か。聖女は一体何を考えてそう言ったのか。この国とエストリア王国は仲がいいとは言えないが悪くもない。お互いに貿易をし協力すべき所はしている所だった。
「私はきっと作られた存在。それを知っていたのか? でも、あの王様のしている事を聖女様が知っているとは思えない……なら見る力はギフトだけではない。一体何が見えたのか……」
堂々巡りをする思考は食欲が満たされ少しお酒の入ったふわついた頭では意味がなかった。それでもレナは同じ事を考え続けて、考えて考えてホテルの自分の部屋に戻ったのは明け方に近い時間だった。
部屋に戻れば双子は最後までレナの帰りを待っていたのかベッドに腰掛けたまま眠っていた。壁際にもたれるゴーシュにドロワがもたれかかっている。
「メモ、読んだろうに……」
まだ眠る双子をそっと抱き抱えベッドに横に並べて布団をかける。レナも寝ようとしてまだシャワーを浴びていなかった事を思い出しシャワーを浴びに行く。体を清めた後浴室から出れば気配で目覚めたのか目を擦りドロワが起き上がった。
「おこしてごめんね」
「……いえ。レナ様、何かあったのですか?」
「なにも、なかったよ。あと少しだけ寝てようか」
まだ眠そうなドロワをベッドに戻しレナもベッドへ潜り込んだ。子ども体温を肌に感じるとすぐに眠気がやってくる。
(私が何者でも、今はこのままでも……いいのかな)
レナはあれだけ悩み続けていたことがおかしくなった。私は私であんなに悩むことはなかった、と。一体何が心をかき乱したのか、今はこの暖かさをこのままでと願った。




