第五話 大聖堂へ
「おはよう」
その言葉に3人分のおはようの挨拶が返ってくる。シャンディはブルーメが怖くレナたちと同じ部屋で就寝していた。そんな時チリリンとベルの音が響いた。
「おはよう、4人とも起きてるー? 起きてるよねー、ご飯食べに行こうよー」
「ひっ」
小さくシャンディが悲鳴を上げ、ドロワが宥める。ブルーメが朝からこうして来たのはわざとだろうなとレナは面倒だと思いながらも歯を磨いたら出ると扉の向こうに返して歯を磨きに洗面台に向かった。しゃこしゃことミントの香りの備え付けの歯磨き粉を使って磨いていけば幾分か頭がはっきりし始める。
「お待たせ」
4人は廊下で待っていたブルーメたちと合流し、上の階へ上がって行った。朝食はバイキング形式で沢山の料理がレナたちを迎え入れた。
「これ美味しいぞ」
「ほんと? ……あっ本当だ、後で取りに行こうっと」
非常に多くの種類があるため双子はそれぞれ違うものを取り、少しずつ交換して好みの味をどんどん見つけていた。またシャンディはその小さな体の何処に入っているのかというほどに食べ進めている。
「あっ、みーちゃった」
レナが少しずつ料理を周りにバレないように空間にしまっているのをブルーメは目撃してニヤニヤとしている。だがレナは気にせず手元に次々と料理を確保していった。
バイキングで多くの料理が余る。余ったものは従業員の賄いとして消費されるがそれでもなお余るのだという。たまたまホテル内を探索している時に、廃棄する現場を見たレナは美味しいし作るのが面倒な時にでもと確保してみようと思っての行動だった。褒められない行動ではあるが食料の消費が上がって常に多くを確保しておかなければ万が一の時に困るとレナは思っていた。
レナの行為はブルーメ以外に気がつかれる事なく、その日従業員は今日はいつもより廃棄するのが少ないなと喜んでいた。
「今日は何処に行きますか?」
「あっ俺ギフト何を持ってるか見てほしい!」
ゴーシュの意見で今日は聖女のいる大聖堂に向かうことに決まった。ゴーシュは何かしらの戦闘に使えるようなギフトがあればなと希望を持っていた。魔法の行使に長けているエルフのはずなのに魔力を持たず、また筋力も一般的な人間にも劣り、この世の中で生きていくにはあまりにも非力な存在がコンプレックスだった。ドロワはそんな兄を見て、自分にもどんなギフトがあるのか興味が湧き始めていた。
「んーと、それならぁ僕たち辞めておこうかな」
「おいブルーメ、勝手に決めんな」
朝までの怯えっぷりが嘘のようにシャンディは噛み付いた。
「えぇ、だって聖女様って一応、この国のトップでもあるんだよー? そして他人のギフトを見る事が出来る……それにー、もしかしたら他にも見れるものがあるのかもしれない。僕たちは王様の魔力がこの身に流れてる。聖女様に疑われたりとかされたらそれこそ面倒だよー」
「うっ。だけどそれならトップの奴がリスクをいつもとってるのっておかしくないか? 誰でも金を払えば見てもらえるってあぶねーじゃないか、どんだけお人好しだよ」
「ふふっ。そう、だから聖女と呼ばれているんだ。代々聖女様はギフトを見る事が出来るらしーよ? 誰でも等しく平等にを掲げてひとりひとりを見て……まぁ僕からしたら信者を増やして肉壁を作っているように見えちゃうんだけどねぇ。国全体で聖女さまを守ろうとしてるし監視の目は何処までも行き届いている。
聖女をどうにかしようって悪意持ってたら接触する前に国民に狙われるよー。だけど、僕たちはそんなもの持ってないからパスを作れた。でもさ、聖女様が本当はどんな力を持っているのか分かんないでしょう?
迂闊なことは避けるが吉だと思うんだけどねぇ」
シャンディはむっと頬を膨らませるが下手な冒険をして狙われでもしたらもうケーキを買いに行くことも出来なくなるなと思い至り納得し、そうしてレナとゴーシュとドロワの3人で聖女様の元へ行くことにした。
聖女のいる大聖堂まではかなりの距離があった。馬車を借りて3人は移動した。大聖堂までは馬車で行く者の方が殆どらしく同じ馬車に見知らぬ他人も乗っていた。その事に少しの居心地悪さを感じながらゴーシュはレナに最近思った事を聞いてみた。
「この国に来てからなんか顔を見られる事が多いんだよな。2度見される事多いんだけど俺そんな変かな?」
エストリアに行った時もジロジロ見られることも少なくはなかったがそれにしてもとゴーシュは気味悪がっていた。それにはドロワも、そしてレナも気がついていた。だがレナも理由には心当たりがない。そんな時、一緒に乗っていた乗客がレナたちの会話を聞いて話に混ざってきた。
「ちょいとごめんな、話が聞こえてきたんだけどさ多分聖女様に姿が似ているんじゃないか? 同じように銀髪の人らしいし」
「でもおっちゃん、それならドロワの……妹の方が注目浴びると思うんだよ。俺男だし」
「まあそうだなぁ、だがお前さんこーいっちゃ気分よくはないかも知れんが中性的な顔をしてると思うぞ。顔立ちが似てるのかもしれんしな。まぁこれから会いに行くんだ、そん時見比べようじゃないか」
カラカラと笑い中年の男は大聖堂に着くまでレナたちの会話に度々参加していた。その頃にはゴーシュはすっかり中年の男と打ち解け笑い合うほどになっていた。
「それじゃあ俺は友人がこれから来るしここでお別れだな。坊主ありがとうな、お陰で楽しい移動になったよ」
「俺も色んな話聞けて楽しかった! 飴もありがとう」
手を振り男と別れ3人は大聖堂の入り口に立つ。大きく美しい建物だった。巨大な扉の脇には甲冑を着た人間が立っていたがそれすらも建物の一部かのように馴染んでいる。
「お兄ちゃん、帽子から髪の毛落ちてきてる」
「あっ本当だありがと」
変な注目を浴びないよう双子はお揃いの帽子を被っていた。そしてようやく3人は大聖堂の中へと足を踏み入れるのだった。




