第四話 ケーキの為に
約束の3日後までレナたちは観光をして楽しんでいた。名物である教会に行き賛美歌の美しさに耳を傾け、最近ピシアンティアで流行っているというアスレチック広場に行き1日汗を流したり目的もなくその日その日で遊び回った。
「んー? えーっと、それで今日が3日目なわけだけど定休日みたいだよ?」
ブルーメが定休日の看板がぶら下げられた入り口の前で首を傾げ、双子は少し不安そうな表情でレナを見上げた。
「知ってる。みんなこっち」
レナは慣れた風に店の横にある細い路地に入り込んでいった。それに続きぞろぞろと並んで入り組んだ所へ入っていきとある扉の前でレナは3回素早くノックをし一拍置いて更に5回ノックをした。
「苺」
中から一言だけ男の声がし、それにレナはショートケーキと答えた。一体何をしているんだと後ろに並んでいる5人は不思議そうに見つめていると、
「入れ」
カチャッと鍵の開く音がして中へ入れるようになった。レナは扉を開けておはようございますと言いながら中へと入っていく。
「後ろのは連れか?」
「うん、入れてもいい?」
「好きにしろ」
ぶっきらぼうな男の返事を聞いてレナは後ろを振り返り5人を手招きした。失礼しますとドロワから中へと入っていった。
「ビリーさん、お久しぶりです」
「あぁ元気にしていたか?」
ここはビリーの住む家でこの中も甘い匂いがしていた。無意識のうちに鼻をヒクヒクさせるシャンディ。それを見てビリーはあのガキンチョも連れだったのかと驚いていた。
「この子、シャンディって言うの。ケーキ買えるようになりたいって」
「ああ? ふん、お前さんの紹介だろうが売ってはやれねぇな」
「そう。……だってシャンディ」
そう言うや否やなんで売ってくれないんだとシャンディはビリーを睨んだ。だがそんな睨みでビリーが怯むはずもなく。
「お前もだがその後ろの2人からも変な匂いがすんだよ。そんな悪臭を放つ奴らに俺の自慢のケーキが売れるかってんだ」
ふんと鼻を鳴らしながらビリーはシャンディの後ろに立っていたブルーメとグレンを見る。それなら双子はどうなのかとレナがなんとなく聞いてみればゴーシュになら売ってもいいと答え誰もが首を傾げる。
「ビリーさんの判断基準って何? 匂いって言っても何が違うのか分からないんだけど」
「さぁな。だが俺のこの感はずっと信じてきてんだ、今までもこれからもな」
「……私が買ったものを振る舞うのも良くなかったかしら?」
ビリーはそうだなと頷く。
「だが、売ったらもうそれは俺の所有するもんじゃねぇ。嫌なのは変わりないが俺が認めた奴が誰かに食べさせるぐれぇは目は瞑るさ。
んで嬢ちゃん、ケーキどうするよ」
「あっ全部もらう。支払いはどうする?」
「また珍しいもんでもあるならそれでもいいし金ならお前さんのこのケーキに払えると思う分でいいさ」
冷蔵庫から次々に取り出されテーブルに並べられたケーキを見、レナは少し考えてガラドンのミルクを無言で差し出した。ビリーは差し出されたミルクをひと口飲むなりガッと目を見開いた。
「お前、これどうしたんだ! まさかとは思うがこのミルク、ガラドンじゃないだろう? まず市場には出回らんし出ても貴族のヤローが値を吊り上げて一般人に買わせない。取りに行くにしてもガラドンはまず手に負えない魔獣だ、嬢ちゃんのようなひょろっこいのにどうにか出来ないだろう。それともなにか? コネでもあるのか?」
ビリーは非常に興奮して矢継ぎ早に捲し立てた。それを暫く聞き流し、興奮が落ち着くのを待ってレナはミルクがたっぷりと入った瓶を出してこれで取引き終了ねとテーブルの上のケーキを次々に仕舞い込んだ。
「……シャンディに」
「あ?」
「この子にケーキを買わせてあげてくれるなら今後もこのミルクを提供するわ」
そりゃないぜとビリーは眉間にシワを寄せて、シャンディとミルクを交互に見比べた。その様子を見てシャンディはあのミルクの正体は何なのか気になった。こそこそとレナに忍び寄り実際何なのかを尋ねる。
「ビリーさんの言う通り、ガラドンのミルクよ」
「あたしでも採れるやつかな?」
「……私はあなたじゃないから分からない。今度見に行く?」
「うん」
こそこそと話す2人の会話はビリーは途切れ途切れに聞こえていた。そしてガラドンのミルクだと分かりますます悩んでしまう。己の信念を曲げるか、至高の作品の為のミルクを取るか。そこに追い討ちをかけるようにシャンディが、自分もガラドンのミルクが取れる。ケーキを売ってくれるなら採って持ってくる。レナよりここへ来る事が多いからそれだけガラドンのミルクを納品出来ると言ったところでビリーは折れた。
「仕方ねえ、このミルクをきちんと俺に提供してくれるなら幾らでも作ってやる。だがな、俺がお前を認めたわけではない事を覚えておけ」
シャンディは飛び跳ねるように喜び顔を綻ばせた。レナはビリーにありがとうと更に貴重な卵もプレゼントしこの取引きはお互いにとってメリットしかない事を分からせ、その後も少し雑談をして別れた。
「レナ、ありがとうな! 嬉しいなぁ……ホールであれが食えるのかぁ。へへっ」
「シャンディ、良かったな」
「兄貴にもケーキ分けるからな!」
嬉しそうなシャンディの頭をグレンは撫で、口角を上げた。普段見せない表情にシャンディはますます幸せそうに笑った。そしてホテルに戻ってからもそれは変わらずシャンディは浮かれていた。
「本当に良かったですね」
「あぁ! これでドロワたちの分のケーキを取らなくて済む。あたしも食べるようになってケーキの消費が増えたってレナ零してたもんな」
「ねぇねぇ、僕にはー?」
「大体ブルーメは食べなくても平気じゃんか。欲しかったら自分で何とかしろよ」
「あー、そんなこと言っちゃうんだーへーそう?」
ニヤリとブルーメが笑いさっと顔を青ざめさせるシャンディは慌ててレナの後ろに隠れる。この中で唯一ブルーメを止められるのがレナだからだ。
「ブルーメ、面倒くさいから後にして」
「?!」
分かったよとブルーメはとりあえず大人しくなるがその日シャンディはレナから離れることはなかった。




