第三話 ビリーさん
店員が不思議に思いながらも奥へ引っ込み暫くすると奥から店主であるビリーがやってきた。そしてレナの姿を一目みて、
「何が欲しい?」
とレナがケーキを求めてやってきた事を察した。それならばとレナは遠慮なく全種類と答えてビリー以外の者を驚かせた。ドロワとゴーシュに至っては先程レナが目立ちたくないからとお菓子は3種類までと言ったばかりなのにと尚更だった。
「お前さんはそうだろうな、いいぞ。……3日後、昼には作って待ってる」
最後の方は声を潜めレナだけに伝えた。この場にはレナたちの他にも何人か客がいる。彼らは店主の様子を見てレナは一体何者なのかと興味津々に眺め、また店の外から覗く客もいつもとは違う光景に聞こえはしないが会話をなんとか聞き取ろうと耳を欹てる。それに気がついた店主のビリーは店内の客に向かって、
「こいつは親戚なんだ。もしこの後何かあればこいつに報告してもらうしそいつらは二度とうちの敷居は跨がせねぇからな。今後も食いたきゃ知らない顔をしておくんだな」
そしたらたまにゃサービスぐれぇはしてやるとビリーが言えば客はコクコクと頷き、レナを観察する事をやめた。レナは店主が庇ってくれるだろうと予想して全部と答えていたため、思った通りで良かったと内心思っていた。
「ほらゴーシュ、ドロワ。早く選んで出るよ」
声をかけられた2人はハッとしてすぐにまたお菓子に視線を戻して厳選した。レナはクッキーの詰め合わせを手に取り会計に向かう。それを見て慌てて駆け寄る3人。シャンディも思わずといった形でレナの元に集まっていた。それにレナは何も言わず纏めて会計を済まし足早に外に出た。レナたちが外に出ると代わりに並んでいた客が店内へと吸い込まれていく。外から覗いていた客も、もうレナたちにから興味が逸れ再び窓越しに並べられているお菓子を吟味し始めた。
「兄貴たちどこいったんだろ……」
キョロキョロとシャンディは辺りを見渡すがグレンもブルーメもどちらの姿も見つからない。大方ブルーメがふらふらと何処かへ向ったのだろうと見当をつけ、シャンディは全く困った奴だなと頰を膨らませた。
「闇雲に探し回るのもすれ違いが面倒だしこの周辺でぶらぶらしてようか」
行儀は悪いがレナたちは買ったばかりのお菓子を口の中へ放り込み咀嚼しながら辺りを散策した。そうして暫く歩き回り服を試着したり装飾を見て回ったりとそれなりに楽しい時間が過ぎたがブルーメもグレンも見つける事は出来なかった。日も傾き始め、いい加減泊まる場所を見つけておかなければどんどん見つかり辛くなる。レナたちは仕方がないと適当な宿泊施設を回っていこうとしたその時、ようやくブルーメとグレンの姿を見る事が出来た。にたにたと笑うブルーメとその背後には疲れたような表情のグレンにやっぱりとシャンディは呟いた。
「兄貴に迷惑かけんな」
「ふふふっ、別に迷惑はかけてないさ。ねー、グレン?」
それに歯切れ悪くグレンはああと一言答えシャンディは目を丸くした。一体何があったのかと執拗にグレンに迫るが口を割ろうとはしなかった。
「あっそうだー。ついでに、いいホテル借りてきたからそこ行くよー」
マイペースにブルーメはスタスタと背を向けて歩き出した。それについて行くレナたちに少し遅れてシャンディとグレンが走って追いかけて行く。ブルーメの動きが全く読めないなとレナはもう諦めている。
「宿泊代はいくらなの?」
「んーいいよいいよー。僕、こう見えてお金は沢山あるんだよー。貯まりに貯まってて使い道がないというか。こういう時じゃなきゃ使わないんだよねぇ」
たまには年上に甘えないとねと言われ確かにこの中では断トツに年上の存在だなと納得してレナは素直に甘えることにした。ドロワはやりましたねとレナの出費を抑えられたことを喜んでいる。そして双子の片割れのゴーシュの場合はホテルの食事が気になっていた。
「なぁ兄貴、確かにあたしは頼りないかもしれないけど相談ぐらいしてくれよな。この間の事だってまだ納得いってないし」
「……ごめんな」
こちらの2人の空気は重たい。どうしたものやらとレナは考えるが今はそっとしておくべきだろうと背後に向けていた視線を前に戻し、ブルーメに置いていかれないようにしっかりとついて行った。
「ねっいいホテルでしょう」
得意げにブルーメがホテルを背景に紹介をする。真っ白で大きな美しい建造物だった。ゴーシュとドロワは言葉もなく驚いている。シャンディはすげーとしか言わなかった。
「ここ、高かったでしょ」
「まぁねぇ。でもだからこそ、確実に部屋が取れるからお気に入りのばしょなんだー」
ブルーメは何度もここには泊まったことがあるらしく着いてきてと勝手知ったる動きで中を案内していく。ドアボーイにチップを渡し、中へ入ればここはお城かというほどキラキラとした世界が広がっていた。シャンデリアの光が眩しい。そして中はとても良い匂いがしていた。
「鍵を受け取ってくるから待っててねぇ」
フロントでブルーメがにこやかに会話をしながら鍵を複数個受け取りすぐにレナたちの元へ戻ってくる。お待たせとそれぞれに鍵を渡していく。
「3人は一緒の部屋で良かったよねぇ?」
「えぇ」
ブルーメから受け取った鍵の装飾も美しく、このホテルのこだわりが見える。この様子から部屋の中もかなり洗練されているのだろう、ドロワが目をキラキラさせながら気分を高揚させていた。
「ふふ、みんなは初めてみたいだし、階段を使ってゆっくり見て回ろうか」
上を見ても下を見てもキラキラしていない場所など1つもなく掃除も行き届いており、シャンデリアの上にもチリ一つついていない。そして、途中すれ違う宿泊客からは双子の様子に目尻を下げさせていた。
「ブルーメ、ここにはいつまで?」
「ここにいられるだけ」
「一泊どれくらいするの?」
にまにまとブルーメがこれぐらいと両手で合わせて指を6本立てた。それを見てまさか60かとシャンディが聞けばそんなわけないでしょうとケラケラと笑った。
「一泊600万……そんなもんか」
「そんなもんかで済ますレナがやべぇ」
ゴーシュがとんでもないものを見るような目でレナを見上げる。レナは失敬なとゴーシュを軽く睨むフリをするとこっわとゴーシュはドロワの背後に隠れた。
「素直に奢られるわね。でももし足りなくなったら私も出すから」
それは絶対無いけどもしもの時はお願いするとブルーメはまた笑った。
「さぁここが君たちの部屋だよ〜」
真っ白な扉にある鍵穴にブルーメから渡された鍵を差し込みカチリと解錠して扉を開け、双子を先に中へ入らせた。ドロワはわぁと言葉を漏らしたきりそれ以上何も言わず部屋の中を見渡した。レナも中に入り、快適そうだと思った。
「気に入った?」
「そうね。家みたいにリビングがあって、他にも部屋があって広々としてるしここで住むのも良さそうね」
「ふふっ、確かにここに部屋を借りたまま住み続けてる人もいるらしいからねぇ」
一泊600万もする部屋を借り続ける富豪は一体どんな人なのか、レナたちと同じようにギルドの依頼で荒稼ぎする冒険者なのかはたまたどこかの貴族か。いずれにせよ一般的な人物ではないので出会ったらコネを作るのも良いのかもしれないとレナは思った。人との繋がりは面倒だが時には役立つことをレナは知っている。
「レナ様、こちらの部屋が寝る部屋みたいです」
ドロワが楽しそうに扉の先は何の部屋なのか報告をする。それにレナは教えてくれてありがとうと伝えると満面の笑みを浮かべる。
「あっお兄ちゃん!」
「なんだよドロワ」
「レナ様より先にベッドに転がるなんてっ」
ゴーシュはベッドが気に入ったらしく、非常に深々で寝心地がサイコーだとの事。レナは夜寝るのが楽しみだねとドロワを宥めた。




