第二話 お菓子屋へ
「エストリアで使ったギルドカードはここじゃ使えないんですね」
ドロワが新しく発行してもらった半透明のカードをしげしげと眺めながらレナに聞いた。半透明のカードには白い文字が刻まれている。
「全く使えないこともないよ。ただエストリアのギルドカードを元に持ち主は問題を起こしていないのかとかそういうのを国同士の間で確認作業があってそれで待ち時間が長くなるし、行ける範囲も制限される。
最初は面倒だけどきちんと審査を受けてこうやって発行してもらえれば次からエストリアと同じような感じで入国出来るから」
まぁ簡単に発行してはもらえないみたいらしいけどねとレナが言えば流石とブルーメが茶化す。そういうブルーメもパスを所持していた。ブルーメ曰く、
「伊達に長く存在してた訳じゃないからねぇ」
と意味深ににやけ、それにむかついたのかシャンディはブルーメの膝裏を狙うも軽くあしらわれ地面に転がっていた。
「それじゃあこのカードは何ですか? あまり詳しく検査もされていない気もしますしこれが正規のパスカードという訳でもないですよね」
「うん、それは期間限定のパスね。私が保証人として登録してるから。あなたたちが何かやらかしたら私のパスも使えなくなるから大人しくね」
レナはゴーシュとドロワの持つものより幾分か凝ったデザインのカードを出し、これが中々出してもらえないパスカードよと見せてすぐにしまった。無くしたら減点と罰金が待っている。ちなみにシャンディたちは自分のパスカードは持っていた。それも当然だろう、ここには誰もが絶賛するケーキを作る偏屈爺さんがいるのだから。以前シャンディは何度通っても買わせてくれないと嘆いていた事をレナは覚えていた。
「レナ、ケーキ買いに行くのか? ついて行ってもいいか?」
シャンディがウズウズとしているようだ。レナに紹介してもらえれば自分も買えるようになるかもしれないと期待の目を向けている。レナはそれにいいよと答えてレナたち御一行はお菓子屋へまず向かう事にした。
「うわー、何これ列が出来てる!?」
着いた先でお菓子屋には行列が出来ていた。確かに人気店なのだがこの光景はレナたちも初めてだった。それでもわざわざ買いにやってきた為その列の最後尾へ並んだ。
「いい匂いがする……」
ゴーシュがくんくんと辺りの匂いを嗅いでいる。今もクッキーなどの菓子を焼いているのだろうかバターの香りが漂っていた。本当だとドロワも匂いを嗅ぎ頬が緩んでいる。ケーキを買うのは難しくてもせめてクッキーなど買えればなとレナは考えた。
「やっぱ美味しそうな匂いがするなぁ。なぁレナあたしも買わせてもらえるよう紹介だけでも頼むぜ」
「会えたらね」
そうして暫く並んでいると店の中から何やら怒鳴り声が聞こえて来る。どうやらケーキを買いに来たものの売ってはもらえなかったようだ。客は悔しそうに店を後にする。それを見た並んでいた他の客がこそこそと話を始める。
「あの人見た目は良かったわね」
「えぇ。もしケーキを買ってたなら目をつけてもいいかもね」
「そうね。まぁ、こうして見ると他にも同じ事考える人は多いみたいだけど」
誰だって玉の輿は狙いたいものねとレナたちにはよく理解が出来ない会話をする客が複数人いるようだった。一体どういう事なのかとレナが不思議に思っているとブルーメが前に並んでいた女性客に絡み出した。
「ねーねー、おねえーさんたちちょっといいかなぁ? さっき聞こえたんだけど玉の輿ってなんのことー? 僕たち最近観光に来てて、ここ有名らしいからおいしいのかなぁって並んでたんだけどそういうお店じゃないのー?」
「えっ、ああここのケーキはとっても美味しい事で有名よ。それとは別にここのケーキ、店主に認められた人しか買えないのよ。それで認められてケーキを買う事が出来た人はのちのち大成するって言われててね。実際私の知り合いもそうだったからきっとここの店主は人を見る目があるのね、だからこうして買えた人は誰かなとか見てるの。
あっ、私たちはもちろんケーキ買えないんだけどクッキーとか他のスイーツは普通に買えるし美味しいから並ぶ人が殆どかな。ケーキ買えるか試す人も後をたたないんだけどね」
気の良い人のようで突然話しかけてきたブルーメにも笑顔で対応してくれた。ブルーメは、そっかありがとうと会話を終わらせてレナの隣に戻った。
「というわけだってさ」
にまにまと笑うブルーメの横腹を肘で小突き、レナが余計な事は言うなと釘を刺せば何がおかしいのかくふくふと笑う。
「あの、ブルーメさんはここのケーキ買った事あるんですか?」
ドロワがレナの機嫌を損ねない様ブルーメの意識をずらそうと質問をする。ブルーメはそれに笑いながらないよと答えた。
「大体そういうのって、誰かに買ってきてもらうものだと思ってるからねぇ」
レナは無言でブルーメの頬を抓った。なぜブルーメのようなふわふわとした生き物が誰かをこき使う事が出来るのかレナには謎だった。いひゃいよと頬を抓られながらブルーメが逃げ出そうとするためレナは居ても居なくてもいいかとパッと手を離し解放してやる。
「グレン、ブルーメを見張っててくれる?」
分かったとグレンは列から離れたブルーメの側に行き、動向を見守った。それを見てレナは静かになったなと改めて前に向き直り店に入る順番を待った。
「ケーキ、どんなのがあるんだろう」
「俺は美味ければなんでもいいけどな、でもまだ食べた事ないやつあるならそれがいいや」
双子が窓からお菓子屋の中を覗く。中が混雑しないよう店員が客の出入りを調整して対応しているようだ。シャンディも窓から中を覗き目を輝かせている。
「1人2種類までね。あまり買いすぎるのも遺恨を残す原因になるかもしれないから」
「あたしは自分で買うから知らん顔しとくわ。久しぶりに来たんだしストックは欲しいもん」
シャンディが鼻息荒く宣言するとゴーシュとドロワがいいなぁと羨ましがる。それをみてレナは仕方がないなと3種類までを許し店内に入れるのを今か今かと待った。
「次のお客様どーぞー」
女性の店員が笑顔で迎え入れる。窓からはうまく見えなかった場所にも様々な菓子が置いてある。ケーキや焼き菓子の他にもゼリーやサンドイッチなども販売されていた。子どもたちは目を輝かせあれがいいこれがいいと吟味を始める。レナはその間に追加で菓子を持ってきた店員に話しかけた。
「ビリーさんにレナが会いたがっていると伝えてもらえる?」




