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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第二章  竜の瞳と聖女の涙
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第一話  ようこそ!

「やっと着いたのか?」


「うん、お疲れ様」


 抱えていたゴーシュを下ろせばふらりと揺れ、地面に膝をついた。レナが再び抱え上げようとすれば片手で制し自分で歩くと手を借りようとはしない。それならばとレナは黙って見守った。


「お兄ちゃんかっこわる…」


「うっせ」


 ドロワがかわいそうなものを見る目で双子の兄であるゴーシュを見下ろす。ゴーシュはぷるぷると生まれたての子鹿のように震えながらなんとか立ち一歩足を踏み出した。そして聞こえる拍手の音。もちろんそれはレナたち……ではなく門番で、それに気がついたゴーシュは顔を真っ赤に染め上げた。


「ようこそ、ピシアンティア帝国へ!」





 それは2週間ほど前のことだった。



「レナ、もう大変だったんだからぁ」


 荷造りをするレナの側でブルーメはブー垂れていた。あの日レナは王国に戻る事はしなかった。戻れなかった。戻る事を考えるだけであの赤い目が思い出され苦しくなった。


(私はきっと……)


 夢なのか過去の記憶なのか確かではないが過去に王と関わりがあるのは間違い無いのだろうとレナは思っていた。ブルーメは違うのではと言っていたが同じように生み出された存在ではないと強く否定出来なくなってしまった。


 ちなみに大量に生えていたネモラの花は回収済みである。ネモラの花にレナの魔力が濃く入っていた。少しでも自身の痕跡は残すべきではないと判断しての事だ。生えた原因はまだ分かってはいないが……。


「ゴーシュ、ドロワ、体の調子はどう?」


 ずっと寝たきりだった双子は体力が落ち、特にゴーシュはただでさえ貧弱だったのが輪をかけて弱っていた。シャンディもそれは同じだったがすぐに調子を取り戻そうと走り回っているので問題はなさそうだった。


「私は大丈夫なんですけどお兄ちゃんが……」


「お、俺は別にいつも通りだし」


 そう言いながらもベッドに腰かけたままゴーシュは立ち上がらない。またドロワはきちんと着替えてすぐにでも外に出かけられるような状態にしているというのにゴーシュは寝巻き姿だ。


 祭りから既に数週間は経っている。レナやブルーメらが戻らない中起きた3人は最初訳が分からなかった。普段通りに目が覚めたはずなのに体が重たい。そんな時ハナが世話をしに来てずっと眠っていた事など説明を受け、それから暫くして戻ってきたブルーメとグレンに主にシャンディが問い詰め暴れる所を何とか宥めてここに戻ってきたのはつい最近の事。


「それじゃもう歩いて出られるね」


「いやっ、それはーもう少しここの辺の景色を目に焼き付けたいっていうか……」


「お兄ちゃん、苦しいよ」


 ピシャリと妹のドロワが指摘するとゴーシュはそうだよなぁと素直に認めた。ゴーシュは重い体を動かす事が億劫でリハビリをサボっていた。元はと言えばブルーメのせいなのであまり責めるのも酷ではあるのだが……。


「だってすぐ疲れるんだよ。抱えられたままも疲れるしさ、そんなすぐにここでないと本当にだめ?」


「もうお兄ちゃん、レナ様がそんな無計画に行動しようとしてるっていうの?」


「別にそこまでは言ってねーし」


「ドロワありがとう、でも確かに2人にとっては意味のない行動なのは確かだから」


 まだ何かゴーシュに言いたそうなドロワを止めてレナは準備を進めていく。ブルーメたちに2人を任せて出ても良いとも頭にあった。


「ちょっとー、きみ聞いてるのー?」


「ブルーメごめん、これ食べてて」


 こんなので納得しないと言いつつ口に突っ込まれたクッキーをむしゃむしゃと食べて些か機嫌が良くなったようだ。この部屋に荷物は少ない、小物などは簡単に纏めて空間に突っ込みあっという間に家を出る準備が終わった。


「お兄ちゃんもう着替えないと置いていかれるよ?」


「はぁ、分かってるよ」


 のろのろとゴーシュは着替え始めた。それを見てレナはブルーメに頼んでここで過ごせるようにすると伝えるとそれは嫌だとゴーシュは急ぎ始めた。何かブルーメにあるのだろうかと不思議に思うがそれならとレナは着替えを待ち家を出た。



「で、どうしてこんなにぞろぞろと……」


「だって、暇だもの」


 レナたちの後をぞろぞろとブルーメを始めとしてグレン、シャンディが追いかけてくる。まぁいいかとレナはゴーシュを背中に背負いながら走った。ゴーシュの移動スピードに合わせていたら眠りの樹海を抜ける事すら一体どれほどの日数がかかるのか見当もつかない。


「だらしのない兄ですみません」


「別に、気にしなくていい。これぐらいなんの支障もないから」


 トンと何か抗議するようにレナの背中に小さな衝撃があったがゴーシュは何も言葉を発さない。舌を噛まないように大人しくしていた。


「それでー、君は今どこに向かってるのー?」


 ブルーメがレナと並ぶように追いついてきた。レナはチラリと見やり帝国とだけ答えた。


「帝国ー? ピシアンティア? どーしてー?」


「さて何故でしょう?」


「ふーん、まぁいいけどねぇ」


 笑みを崩さずブルーメは変わらず並走した。樹海を抜け、暫く何もない平原を走りまた別の森の中を突っ切る時に一旦休憩に入った。背負われているだけのゴーシュが一番疲れていた。水とサンドイッチを摘みながら軽く腹を満たしつつ、レナは周辺の生き物の気配を探った。


「ドロワはまだまだ元気そうね」


「はい、私の無理のない速度に合わせていただいているのでまだ行けます」


「そっか。でもあまり無理の無いようにね」


 ドロワの頭をレナは優しく撫でる。それから木の根本で休むゴーシュの元へ向かった。ゴーシュはぐたっと木に背中を預けぼーっとしていた。


「ゴーシュ、今日はここで一泊するって聞いたらなんて答える?」


「えっ? ……んー、もうちょっと楽な運び方ない?」



 そして1時間後。ゴーシュは無言だった。一言も発する事はない。その様子をドロワはチラチラと見ている。


「シャンディ達はまだ平気?」


「あったりまえだろ、これぐらいなんて事ないさ。それよりゴーシュは具合悪いのか?」


「いいのよシャンディ気にしなくて。お兄ちゃんが貧弱なだけだもん」


 近いうちにまた鍛えといておかないとなとのシャンディの言葉に震えたのは果たして誰だったのか、レナ達ご一行はその後も順調に歩みを進め、小川のほとりで一泊する事になった。小川の水は冷たく、走り続けた足をつけて休ませるシャンディ達をそのままにレナは夕食を作り始める。まだ若い山菜や小川の小魚を軽く集めていた為それらを使って揚げていくことに。

 揚げる前にじゃがバターを作るために湯を沸かし山菜には冷水と薄力粉、小魚には小麦粉や薄力粉そしてビールを入れ衣を作り、水気を拭いた小魚にフリット粉を纏わせ山菜から揚げていこうとした。


「グレン、少し火をくれない?」


「ああ」


 心配そうにレナを見るドロワ。それもそのはずレナはうまく魔法を使うことが出来なくなっていた。使えるには使えるのだが以前のように繊細に扱う事が出来ず周りに被害が出そうになる為こういった場では使わないようにしている。

 火を起こしてもらい調理を進め山菜はカリッと、小魚は衣はカリカリ、身はふわふわに仕上がった。それに軽く塩をかけ完成である。じゃがバターの方はもう少し時間がかかる。


「美味しそうだねぇ、うんうん美味しいね」


「あっずりーっ!?」


 出来たそばから摘んでいくブルーメを見たシャンディが慌てて小川から足を上げレナの元へ走ってくる。その間も無心でレナは皆のお腹が満たされるよう作り賑やかな夕食になった。


「レナ様、あとは私が」


 後片付けをドロワが買って出る。それにレナは甘えて1人夜の森の中を歩き始めた。

 ひんやりとした風が頬を撫でる。肌寒さにレナは自分の周りの温度を調整しようとして上手く出来ないことを思い出してやめた。決して自身の中に魔力がなくなったとか減ったとかそういう訳ではない。ただ、己の中の何かが反発して制御が出来なくなってしまっているという事に疑問だけが募る。


(私はどうしてしまったんだろう)


 まるで覚えたての魔法を使う子どものような拙い制御。息をするように魔法を使って生きてきたレナには考えられない事態で、魔法が使えないのは不便な事がとても多い事を知った。料理をする時の火加減、体を清め乾かす為の温風も今は加減が出来ない。


(ゴーシュたち、こんな中よく生きてきたなぁ)


 レナは2人がこんな世界で生きてきたのかと感心する。魔法が使えないのは不便で仕方がない。本格的に体が冷える前にレナは皆んなが騒いでいる場所へ戻った。


 それから6人はなんやかんや移動を続け賑やかに帝国へと辿り着いたのだった。

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