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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第二十二話  前日まで

「ハナさん、3人をよろしくね」


 そう言ってレナは宿屋を後にした。ハナの作った朝食をしっかり食べた為お腹は満たされている。レナは寄り道をする事なくエストリア王国を出てウカシとゼルーガのいる草原へ向かって走った。そうして1時間もしないうちにくるぶし辺りほどのまだ柔らかい若草の絨毯が広がる場所へ辿り着いた。所々に濃い緑の葉を生やした背丈ほどの木が群生している場所があるが基本的に若草色の草ばかりが視界に入る。


(1頭も姿が見えないな……)


 通常、これだけ遠くを見渡すと草を食むなんらかの生き物が見えるはずだった。だが姿はなく気がつけば血の匂いが風に乗って鼻をくすぐった。少し面倒な予感がすると気配を探ればそう遠くない所に誰かがいるようだった。依頼で捕まえるよう合ったのだ?、他の冒険者が乱獲し暴れているのかもしれないなとレナは念のため様子を伺う事にした。


(これは……依頼達成出来るのかな?)


 気配を頼りに近づいていくと声が微かに聞こえてきた。レナは気配を出来るだけ押し殺し、点在する緑の群生地に紛れながら声のする方へ行けば若い男女が何か言い争いをしているようだった。そして男女のいる辺りを中心にして見るも無惨な光景が広がっていた。


 赤い雨でも降ったかのように緑を赤く染め上げてたまに白いものや茶色いものが見え、よく見れば数え切れないほどの動物の切り刻まれた死骸がそこにはあった。恐らく先程から言い争いをしている男女が生み出した光景なのだろう、レナはどうしたものかと考え言い争いをしている内容を聞いてみようと風向きを弄って声がよりレナの元へ届くようにしてみれば濃い鉄の匂いもやってきた。

 まだ涼しい気候とはいえ今日は天気が良く、このまま放置していればとてつもない悪臭を放つようになるのは想像に容易い。だがまだこの光景が出来上がってからそう時間は経っていないようで、レナは血の匂いも気にせず耳を澄ませた。


「もうほんっと最悪! 血塗れだし洗っても落ちないしこんなんじゃ依頼達成出来ないじゃん、エミリオのバカ!!」


「あ? 俺何もしてねーじゃん、お前が勝手に操作ミスってこんな事になったんだろーがこのデコ助が!」


「さいってー!! いま一番気にしてる事をわざわざ言う? ほんとデリカシーがないよね!?」


 どうやら水色の髪の少女がこの惨状を生み出したようだ。凄惨な景色の中心で尚も言い争いは続く。レナはそれから少し会話を聞いたが大した情報もなく、分かったのは生け捕りにしようとゼルーガとウカシを集めて風魔法で巻き上げ生け捕りにしたのはいいが途中で何をしたのか、魔力操作でも誤ったのか動物を巻き上げる風が全てを切り刻む刃の風になり巻き上げていた動物は全て切断され物言わぬ肉塊へと姿を変えてしまったらしい。この有り様では肉としての価値も低く肉を売って稼ぐことも難しそうである。


 レナは改めて周辺の気配を探るが近くに生き残りがいる気配も感じない。仕方がない、もう少し離れた場所まで探しに行くかとその場を離れようとしたその時、水色の髪の少女の怒りが爆発したのかエミリオと呼ばれる男に風魔法で切り刻まんと攻撃をしかけた。


「エミリオのバカッアホッ! エミリオなんて禿げればいいんだ!! 愚かな男の頭を禿げ散らかせ、クシャス! クシャス、クシャスーッ!!」


「うおっ止めろっ! 俺の頭まで切り落とす気か!?」


(死人がでるのかもしれないな)


 

 水色の髪の少女の風魔法を赤髪の男は高い身体能力を以て避けていく。なるほど少女の魔法のコントロールは悪く、豊富な魔力を持て余しているかのような力任せの力の使い方をしているようだった。あちらこちらに風の斬撃を飛ばしているため、下手をするとこちらまで被害が出そうだとレナは少女の怒りが治るようにとこっそり少女の魔法に手を貸して赤髪の男の髪を半分だけ剃り上げてしまった。


「エミリオッ!?」


 何故か赤髪の男だけでなく少女までも酷く驚き、先程までの怒りでの暴れようは何だったのか男の心配を始めた。レナは不思議に思い観察をもう暫く続ける事にした。


「エ、エミリオどこか怪我してないよね? まさか当たるなんて思ってなくてそれで」


「はぁ……怪我はないから安心しろ。ミミ、ちったー落ち着いたか?」


「うん。エミリオごめんね。私、エミリオの足を引っ張ってばかりだ……無理言ってついてきてたけどもうチーム抜けるから……いったーっ!? 何すんのよ!!」


 ずいぶんと大人しくなった少女に男は頭に拳骨を落とした。男は少し怒った顔で少女に言葉を紡ぐ。


「足を引っ張るとか今更だろーが! 大体お前は俺が嫌がっても無理やりついて来ただろ、そん時の勢いどうした? ってこんな言い方はよくねぇな。あー、俺は、あん時は本気でお前にムカついてたけどさ、でも今はついて来てくれて感謝だってしてんだ。そりゃムカつく時は沢山あるけども。でも今はお前とチーム組んで色々出来てんのが楽しいんだ、だから今更抜けるとか言うな」


 男はぽんぽんと少女の頭を撫でる。少女は照れているのか男の胸に拳をトンとぶつけた。


「バカエミリオ。そんな事言うなら、地の底までついてってあげる。ありがとう。……次は何とか依頼達成しよう、それでお金稼いで美味しいもの食べたい」


「そうだな、他にも同じ依頼受ける奴いるだろうし急ごう。行くぞ」


 男女は走り去った。レナに気がつく事なく。レナは一体何を見せられていたのだろうと首を傾げ、同じく走り出した。また群れごと討伐されないうちに先回りをしなければならないため、気配を探り探り走り1日かけてウカシを数頭狩り、ゼルーガも2頭ほど足を縛って生け捕りしてしまった。


 納品期限まではまだ数日あるなとレナはゼルーガを抱えながら暫く散策する事にした。獲物はきちんと確保してあるのでもう焦る心配もない。また他の者が納品をしていても期限までは随時引き受けていると説明もされていたためレナは薬草や素材になるものを探し集めることにした。

 ハナに残して来た3人を任せているのもあって完全に1人きりなのは久しぶりだった。何か物足りない、そんな気持ちもしたがレナは数日1人で辺りを散策し納品の期限まであと残り4日という所でエストリア王国へ戻る事にした。


 日の高いお昼にレナはゼルーガを抱えて王国まで走った。ゼルーガもまだまだ元気である。手から餌を食べることはついぞなかったが無理やりポーションなどを飲ませていた。


「ハナさん大丈夫かな」


 双子やシャンディの目がまだ覚めていなければと思いながら関所に辿り着いた。とそこで何やら見覚えのある頭の男女がいた。門番と何か言い合っているようだ。レナは面倒だなと思いながらも列に並び王国内に入れるのを待った。


「なによ、依頼を達成する為にこうやってウカシとか持って来たんでしょ! 中に入れて納品させなさいよ」


「貴方方の入国の許可は降りていませんので、こちらで納品の手続きをしますから待っていただけませんか」


「あなたさっきからそればっかり。私は中に自分の手で届けてきちんと仕事をやり遂げたいの! べっつに中で久しぶりに美味しいご飯食べに行きたいとか考えてないし、そんな寄り道しないですぐに出るようにするつもりだし」


「とは言われましても私も仕事ですから。あっ後ろの方どうぞー」


 水色の髪の少女はキーッと怒り出すが門番は知らん顔で後ろに並んでいた者たちを呼び手続きをして中に入れていき、やがてレナの番が回って来たときレナと水色の髪の少女の目が合った。少女はレナの抱えるゼルーガ2頭を見て目を大きく開いた。


「あなたも同じ依頼のハンター? 私たちが先だからね、報酬を横から取るのは許さないんだから!」


「同じ依頼なら、納品期限までは幾らでも買い取ってもらえるので横取りにはなりませんし安心して下さい。それではお先に」


 レナは門番とさっと会話して中に入った。後ろで扉が閉まったがまだギャンギャン少女は騒いでるようだ。相方の男の方は静かにしていたというのにちぐはぐなチームだなとレナは思った。

 さっさとギルドへ赴き、ゼルーガ2頭と絶命した傷の見えないウカシ数頭を納品してレナは一部報酬を受け取ったあとハナと子ども3人の待つ宿屋へ戻った。ハナは少し疲れた様子でレナを迎え入れた。レナは任せっきりにして悪かったなとハナを休ませかわりにその日は夜までレナ1人で動き回った。


「レナちゃんありがとうね」


 部屋で休むハナにひとさじ蜂蜜を加えたホットミルクを持っていって出したときハナは嬉しそうに礼を言った。レナは礼を言われる事はしていないと言って側にあった椅子を引き寄せて座った。


「あの子たち、まだ眠っていたでしょう? ちゃんとお風呂とか入れてたんだけど若いっていいわね、お肌が本当に綺麗で羨ましいわ」


「ハナさんも綺麗で若いよ?」


「ふふっ、ありがとう。所でレナちゃんはこれからどうするの? お祭りまでもう少しあるしまたどこか出かける?」


 こくこくとホットミルクを飲みハナはレナに尋ねた。レナはそれに対して出る予定はないと伝えるとそっかとハナは笑った。ハナは少しでもレナといる時間が増える事を嬉しく感じていた。


「祭りの日まではここでゆっくりしようかなって思ってる。けど祭り当日は美味しいものが沢山食べられるらしいから食べに行きたいなって。ハナさんもどう?」


 ハナは嬉しそうに時間を捻り出すとの事。宿泊客も祭り目当てが殆どな為少しの時間なら抜けても問題は無さそうだしと笑って答えた。

 それから祭り前日までレナはハナの手伝いを買って出て得たばかりの収入を浪費する事なく日々を過ごしていった。

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