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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第十九話  静かな朝

「ハナさん、厨房借りていい?」


「もっちろんよ」


 翌朝レナは、子供たち3人が起きてすぐ食べられるものを作りに取りかかった。トーストと素揚げにしたポテトチップ。それから新鮮な生野菜を出してもらい洗っていく。


「レナちゃん今日はどこに行くのかしら?」


 ハナは他の宿泊客に出す朝食を準備しながらレナに話しかけた。その手つきは手馴れたものでボウルに大量に割り入れた卵をかき混ぜている。


「ううん、今日は出かけずゆっくりする予定。下の子たちが昨日はしゃぎ過ぎたみたいで今日は寝ていたいって言ってたの。あと宿泊の延長出来る? 予定が変わってどれだけいるかはまだ決まってはいないけど数週間は滞在出来ればなって」


「レナちゃんのお願いならいくらでも大丈夫よー。それじゃあ今日はお部屋の掃除には行かない方がいいかしらね」


「うん、明日以降も私がやるし掃除はいいや。代わりにその掃除の時間で美味しいもの作ってくれる方が嬉しいかな。ハナさんの料理、私好きだから」


 まぁっとハナが照れる横でレナは今度は自分の朝食を作り始めた。ジュージューと食欲をそそるいい匂いが広がる。シンプルな肉野菜炒めを作り始めた。


「あらっ、美味しそうね。ちなみにそれはなんのお肉かしら? レナちゃん変わったお肉使っていそうだわ」


「えっとこれはウルパの——」


「ウルパ!?」


 飛び上がらんばかりにハナが上擦った声を出し酷く驚いた。その様子を見てレナは何か変な事を言っただろうかと首を傾げる。その間も良い音をたてて火を通している。大きな声を上げたハナはハッとして口を手で抑え一呼吸入れてから小声で話を続けた。


「今ウルパってものすごく需要が高まっているのよ? なんて言ったかしら、食べると魔力の扱える量が増えるとか力が増すとか私からすれば眉唾物だけど富裕層がお札で殴り合いするくらい取り合ってるのに……。レナちゃん、きっとあなたの事だからお肉の他に骨だとか沢山あるんでしょう? この事は周りに言わない方がいいわ、下手をしたら命を狙われちゃう。……所で、このお肉を食べてきて効果は感じてる?」


「私は意識した事ないから分からないけど以前誰かに分けた時は調子良さそうだった気がする」


「そうなのね。んー、レナちゃん元々すっごく強いものね、効果があるとしても少し食べたからって大きく変わるわけではなさそう」


 そうこうしているうちに肉野菜炒めは出来上がった。レナは少しハナにお裾分けして出来上がったものは一旦熱々のままで空間へしまった。そして下処理がまだの生魚を取り出し捌いてムニエルを作り始めた。ハナはレナの手捌きを見ながら一体どこで料理を覚えたんだろうかと思った。昔、ハナがレナに聞いた時には親は居ないと言っていた。


「レナちゃん料理って独学? いつも色んな料理をテキパキと作るわよね」


「料理は人が作っているのを見ればなんとなく分かる。後はヴェネチーに行った時に知り合ったお婆ちゃんに色々と教わった」


「ヴェネチーって確か水の都の? そんな遠い所までレナちゃんお友だちがいるのね。交友関係が広いと言うかフットワークが軽いと言うか、レナちゃんが羨ましいわぁ」


 ヴェネチーは海を渡った先にある国で、資金力か魔物を片手間に倒せるほど強くなければ行く事は難しかった。だが海を渡った先からとても美しい国だという情報だけはくるため、このエストリア王国では死ぬ前に一度は訪れたい場所として名を挙げられる事が多い。

 最近は国王自らが今まで見向きもされなかった科学へ多大なる資金などを投入し技術の向上でカメラというものが開発されヴェネチーの街並みを写し撮られた写真が出回り貴婦人方をうっとりとさせていた。


「いつか暇ができたら連れて行こうか?」


「ふふっ、そうねお願いするわ」



 資金こそないものの体一つ有ればレナは何処へでも気軽に行ける。食料と桁外れの力があればなんて事もなく、誰かを守りながらの移動も別に苦ではなかった。ハナはそんなレナの事を知っているため、本当に連れて行ってくれるんだろうなと嬉しくなりながらルンルン気分で宿泊客の朝食作りを進めていった。


 さて、自分の分の朝食を作りおえたレナはそれらを部屋に運んでまだ眠るゴーシュたちの寝顔を眺めた。部屋が違うと世話が少し面倒になるためシャンディもゴーシュたちのところへ並べて寝かせていた。


(今日はとりあえずこの子たちの様子を見てから明日からの動きを考えようか)


 テーブルに3人が手掴みで食べられるように料理を置き、自分自身の分は膝に皿を乗せてまだ暖かいムニエルを口に放り込んでいけば、身の表面は小麦粉をつけて焼いた為カリッと、中はほろっと身が崩れていく。思うように出来たなとその仕上がりにレナは満足した。バターの香りもとてもいい。


 レナはすぐに朝食を食べ終え、3人の様子をじっと見つめるが誰一人として身動ぎすらしない程に深く眠っている様子だった。こんなに人がいるのにこんなに静かな朝を迎えるのは久しぶりだった。


(なんだか変な気分だ)



 何故だかそわそわと落ち着かないレナはただ暇なだけだと解釈して部屋もあまり汚れなくて静かに出来る編み物を始めた。ゴーシュの編みぐるみをフリーマーケットで売る日はいつになるんだろうかと考えながら細かなレースを編んでいく。頭につけるカチュームを作ろうかと売り物の編みぐるみを取り出しイメージを膨らませながらかぎ針で形を作り日が昇り切った頃、シャンディがむくりと起き始めた。


「シャンディ?」


 呼びかけにわずかに反応するも返事らしい返事は無く、むにゃむにゃと呟いてベッドから降りた。そして覚束ない足取りでトイレに行き用を足せばまたベッドに戻り眠りについたようだった。


「みんなこんな感じなのかな」


 まだゴーシュやドロワが起きる気配はない。レナはレース作りに戻りまた暫くすると今度はドロワが静かに起き上がりシャンディと同じようにふらふらとしながらトイレへと向かい用を済ませればまたすぐに眠った。これでまだ今日動いていないのはゴーシュのみになった。だが、恐らくゴーシュも同じようにしか動かないのだろうとは予想できる。


「手はかからないけど完全に目を離すの危ないような気がする……」


  ハナをこの部屋に掃除に入らないようにはしてあるがいつまで誤魔化せるのか……素直に事情を話してもいい気もするが下手に巻き込むのもレナはなんだか嫌だった。


(後でハナさんに料理もいらないって言っておこう)




 結局その日はゴーシュも2人と同じようにトイレに行くのみで食事にはただの一度も付けられる事はなかった。レナはふにゃふにゃになったトーストを囓り、ポテトチップを摘んで早めに夕食を終わらせた。


 明日は何か食べるんだろうかと考えながらレナは夜中に眠る3人が食事で起きる可能性を考えてポテトチップと野菜は残したままその日はすぐに眠りについた。


 その翌朝、3人がほぼ同じ時間帯に起きテーブルに集まって食べていた。それを表情のない顔で観察しながらレナは次から食べるものを適当に買ってこようと思った。

 再び3人が眠りについたのを見て手を洗い、顔を拭いて歯を磨く。口を開けてはくれない為唇をこじ開け水魔法で歯磨き粉を含ませて口中をサッと流す。うっかり気を抜くと咽せたりするため繊細な作業であった。


「歯磨き、自分ではやってくれないのは面倒だなぁ」



 今日はもうご飯には起きないだろうと考えレナは部屋を出た。まだ早い時間で店を開けている所は少なかったがパン屋が焼き立ての良い匂いを放ちその場に居合わせる者のお腹を誘惑している。レナはまだ何も食べていなかったため自身の朝食の分も買おうと店に入った。


 店の中は客が多く、焼きたてのパンをいくつもトレーに乗せていた。レナもトレーとトングを装備しトレーにパンを乗せていった。手を汚さず食べられそうなパンを多めに、それから自身が気になったものだけ乗せたつもりだったがそれなりに山が出来てしまった。


 袋詰めしてもらい代金を払って店を出てすぐ、まだ温かいパンを1つ囓りながら一度宿屋に戻った。

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