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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第十八話  抜け出す影

 野菜スティック、フライドオニオンを食べた一同はいい感じに腹を満たし後は寝る準備だけになった。ゴーシュ、ドロワ、シャンディの子どもたちはかなり眠そうにしている。眠そうな3人を急かしシャワーを浴びに行かせ、レナは部屋の換気を始めた。夜風が入りフライドオニオンの香りが抜けていく。食器を下げ片付けなどをして一息入れた所で双子が部屋に戻ってきた。タオルできちんと拭いていないのか髪から滴を垂らしている。レナがタオルで双子の髪をわしゃわしゃと水分をとり魔法で温風を出して一気に乾かしてやれば揃ってベッドへと向かい倒れ込んだ。


「お疲れ様、後で私もすぐ寝るから待ってないで寝ててね」


「は、い……」


 ドロワはそれだけ言ってすぐに眠りについた。ゴーシュについてはもうすでに夢の中である。レナは2人におやすみと返事の返ってこない言葉を残してその場を立ち去った。


 レナは久しぶりに魔法ではなく本物のお湯で体を洗った。優しい香りのする石鹸を使い、いい匂いを纏わせたまま浴室から出てきちんと乾かしてしまう。それから双子の眠るベッドへと向かい寝顔を見ればとても安らかなものだった。


「んん……」


 ドロワが寝返りを打つ。その際に手が何か掴もうとするかのように彷徨っていた。レナが何となくその手を掴めばぎゅっと握り返し、ドロワの口元が緩んだように見える。空いている左手でさらりとドロワの頭を撫でてレナは布団に潜り込んだ。


「今夜もぐっすり眠れますように」


 甘えるかのように擦り寄るドロワの手を握りながらレナは部屋の明かりを消し目を閉じた。



 さてレナたちが目を閉じて暫く経った頃、時刻にしてもう日を跨ごうとしている時かハナの宿屋を抜け出す2つの朧げな影があった。少し欠けた月に薄雲がかかっているが視界が全く見えないという事はない。


「何処に行くつもりなのかしら」


 そんな2人の前にまた1つ別の影が伸びる。その先を辿っていけばレナが建物の影から宿屋から抜ける2人の前に姿を現していた。1人の顔に動揺が浮かぶ。



「あーあ、やっぱり君には効かないんだねぇ」


 ほのぼのとブルーメが呆れたような顔をしている。それを聞いてグレンはどういう事だと驚いていた。レナはそんな2人を見ながらあくびを噛み殺しながら口を開いた。


「効かないって事はなかった。今も少し眠たい……でもこうしてあなたたちを追いかけるぐらいの浅いものだったってだけ。それで? 何処に行こうとしていたのかしら」


 白状するまではここから逃さないと言わんばかりの様子にブルーメが肩を竦め、グレンに説明をするよう促した。狼狽えながらグレンはぼそぼそと経緯を語り始め、それを聞いたレナはやっぱりとだけ言葉を返した。

 グレンは城に向かおうとしていた。シャンディの幸せな未来の為、もう王の魔力に苦しまない為に情報を集めようとして今回の行動に至った。今までも抜け出して行くことも出来たがグレンはシャンディに心配をかけさせまいとし、ブルーメに協力を要請して毒を軽食に盛ったのだ。毒とは言えただ非常に眠りが深くなるだけとのことらしいが、今回を逃せば気付かれずに抜け出すことも難しくまたレナの目の届かない場所でしか毒を盛ることは出来ない。レナも一緒に眠って翌朝目覚めた時に2人が居ないことを察して子どもたちの面倒を見る事も想定していたという。


「私は確かに死ぬ気でとは言ったけれど、このまま行っても犬死にするだけじゃないの? 私が魔力回路弄ってるからすぐに王様にバレるだろうし何かしらの問題が発生するのは目に見えてる筈よね、ブルーメも。それに私に協力を要請するなとは言ってなかったと思うのだけれど」


「だ、だが、今は意識をはっきりさせる為薬を飲んでいないんだ。だから俺の中の血がまた騒いでる、また以前みたいに襲いかねないんだ側に寄らないようにしないと——」


 そんなグレンの言葉をレナは静かに遮った。音もなく背後に回り首元にナイフを突きつけて。


「私の移動する姿、見えなかったんじゃない? 私、とても強いよ。あなた程度が不意を突こうとしても何とでも出来る。これで一体何処に不安要素があるのかきちんと聞いておきたいのだけれど」


「まぁまぁレナ落ち着いてよー」


 とブルーメが間に入る。レナは素直にグレンから離れた。


「グレンは優しい子だから、この辺で勘弁してあげてー。……でさぁ、さっきの口振りからして君は手伝ってくれる気満々だったのー? それは、すっごく心強いんだけどね、ただ君が一緒にいるとー、この先々にある門で警備に引っかかるのがオチというかー」


 存外に邪魔だと言っているかのような、いや正しくそう言っているのだろうブルーメの口元が微かに笑っていた。


「そのくらいは分かる。でもここにいて手助け出来ることもある、例えば」


 レナはグレンに向き直り手を伸ばした。何故かグレンは蛇に睨まれた蛙のようにピクリとも体を動かせなかった。レナの指がトンと胸の辺りに触れるとざわりと毛が逆立つのをグレンは感じた。何処かでカチリと言うような音と共にあの魔力が溢れてくる。グレンは思考がおかしくなりそうになりながら一体何をするんだと思わずレナを睨むが当の本人は少しでもバレる危険を減らすのは当たり前でしょうと素っ気ない。



「いきなりは可哀想だと僕は思うんだけどなぁ。まぁこれで多少は動きやすくはなるのは確かなんだけどねぇ、あそこには忠犬がいるから……。それで君の手助けってこれ?」


「煽るか助けをねだるかどちらにすべきだと思うけれど。それで私に何をして欲しい? 実際に何をしようとしているのかとかよく分からないから動きようがないのだけれど」


「あはは、そうだったねぇ。君は色々と出来るけど知らない事とか沢山あるもんね。んー、そうだなぁ言われてみれば他に手助けして欲しい事無かった、かも? あっ強いて言えば困った時に駆けつけて……いやいや冗談さぁ」


 ひらひらとブルーメが手を振り、もう話は終わったとばかりに立ち去ろうとした時グレンの手が出た。それを難なくレナは受け止めた。どうやらグレンの気性が少々荒っぽくなっている様子でそれを見てレナはそうだと思い浮かんだ。


「グレン、あなたマジックアイテムの袋持っていたわよね。それを出してちょっと待ってて……これでよし。はい、辛くなったらこれを握れば楽になるんじゃないかしら。どう?」


 レナは月の光を思わせるような薄く青味がかかった白色の短剣をグレンの手に握らせた。するとグレンに落ち着きが戻ってきたようだった。


「んー、それってなんの素材? あんまり見ないものみたいだけど」


「確かウルパの骨で作った短剣——」


「ウルパってあの浮遊竜の? ええー、すごーい。こんなに綺麗なんだねぇ」


 代わりにブルーメが興奮してしまった。レナはブルーメが落ち着くのを待ってもう一振り、浮遊竜ウルパの骨で作られた短剣にレナの魔力を流し込んで手渡した。受け取ったブルーメはとても嬉しそうに月に翳したりと短剣をまじまじと観察を始めた。


「うんうん、確かにこれを握っていれば王様の魔力の影響を落ち着けられるねぇ。魔力がとても流れやすくてそれでいてその魔力をしっかり保有してる。この素材は色々な事に応用が利きそうだ」


「そうね、ドワーフに加工をお願いしに行った時に素材が欲しいってねだられたから何か他の事に使いたかったみたい。……で、これで私に今出来る手伝いは無いと思うけどそろそろ出る?」


「そうだねぇ。グレンも行ける? うん大丈夫そうだ、レナありがとうねぇ、それじゃ出発するとするよ。うーん、城までかなり急いでもここからは何日かかかると思うしレナもここでゆっくりしてるといいからー。あの子たちも暫く眠ってるはずだよ。起きても傾眠状態だから食事もトイレもするけど意識はぼんやりとしたまま。ただ覚醒しそうになったらこれを少し嗅がせるだけでまた眠らせられるからどうぞ」


 ブルーメはレナに小さな瓶を手渡した。中には何かの無色透明な液体が入っていた。ほんの少しとろりとしている。


「そんなに眠らせ続けて体に異常は出ないの?」


「多少筋力とか衰えるぐらいじゃないかなぁ。多分。お腹空いたら食べ物探しにくるからテーブルに手で掴んで食べられるものを置くぐらいで大丈夫だよ。傾向としては1日1回から2回起き上がってくるから君も特に大きな不便は無いと思う」


「分かった、思っていたよりは楽そう。……あなたたちが何かあったら依代使って私に知らせてくれればなんとか助けに行く事も考える」


 ありがとうとブルーメは笑ってグレンと壁の向こうへ歩き始めた。それをレナは静かに見送りハナの宿屋へ戻って行く。3人の様子をハナになんて伝えようかと考えながら——

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