街へ②
「今度はどこ行く? って先に泊まるとこだよな兄貴、どっかいいとこあったっけ?」
その言葉にそれならとグレンが口を開く前にレナが口を挟む。心当たりがあると一同を連れてレナが先頭を行く。暫く街中を歩いて行き高い壁のあるところまで来た。
「この壁を超えたところが中央都市。まだ壁は何個か有るけどね、えっと確かこの壁伝いに……あっ、今日はあそこに泊まるから」
レナの視線の先に真っ黄色の建物があった。近くまで行かずとも塗装が剥げている所が見え、少し寂れた雰囲気の宿屋だった。虫とか出ないのだろうかとシャンディたちは不安に思う。
「いらっしゃいってあら。あらあらあら、レナちゃんじゃなーい。久しぶりね」
「お久しぶりですハナさん。お元気そうですね」
「あったりまえじゃなーい。それで、後ろの子たちはお友だちかしら? 歓迎するわぁ」
宿屋の中は小綺麗にしてあり、木材が使われているからか柔らかく暖かい雰囲気のどこか落ち着く場所だった。だがレナを除くはそれよりもカウンターで笑みを浮かべるお姉さんから出た声に耳を疑った。誰がどう聞いても、
「おと、こ……?」
ポツリと呟くシャンディに、花と呼ばれた人物は目を三日月のように細め口角を上げた。
「うふふ、レナちゃん。あの子さっきなんて言ったかしら? この私を見てなんて言ったのかしらね」
「ハナさんあんまり苛めないであげて。ハナさんは今日も美人だし、この子たちは美人なハナさんからかっこいい声が出たギャップで驚いただけだから」
「もうっ、レナちゃんがそういうならいいわぁ。所で部屋どうする?」
そうしてレナとハナだけであれこれが決まっていった。部屋は3階で今日は人が居ないからと3階を貸し切り状態になった。はしゃぐドロワとシャンディの女子組。好きな部屋を取るようにとレナが言えばドロワは迷った挙句いつものレナ、ゴーシュと3人で寝るとの選択。それをシャンディは残念がったがドロワにも事情があると素直に引き下がった。
「所であのハナって奴、男でいいんだよな?」
「シャンディ、またハナさんの前で男かって言わないようにね。まぁ男なんだけども美人でしょ」
ハナは引き締まったスリムな体で肌は浅黒く、顔立ちもハッキリとしたカッコいいタイプの黒髪美人だった。あの見た目だけならまさか男だとは思えないが声は艶のあるバリトンボイスだ。だが髪も短くして男の格好をすればさぞや女性たちから騒がれる美しい男性の姿になれるだろう。
「あ、あぁそうだけどさ。で、どういう知り合い? あんまり2人が仲良くなるとこ想像つかないんだけど」
「確かに」
とこれにゴーシュも賛同。そう言われてみればときっかけはなんだったかとレナは昔を思い起こす。
「確か……たまたま私がここに泊まりに来て、ハナさんに暴力しようとする人を止めたのが最初のきっかけだった気がする」
美人だったから鼻を伸ばしていたら実はバリバリの男でしたという落ちにブチ切れていた男どもを吹っ飛ばしたのはいつの事だったか。
それだけならただの恩人だったが、その後も何故か偶然ハナが困っている所に居合わせて助けているうちにいつしかハナに惚れられた過去がある。もちろんレナにその気はなかったため断ったが、かわりにと言ってはなんだが今は友人として続いていた。
(ハナさん前に会った時はまだ恋人出来てなかったけど今もいないのかな……良い人に巡り会っていればいいけど)
「へー、レナってめんどくさいとか言いながら昔から人助けはしてきてるんだな」
ぷっとゴーシュが吹き出した。レナは一瞬ゴーシュを睨むが効果はなかった。ドロワはニコニコとレナ様は優しいんですと頷いている。
「別に昔誰かにするべきだって言われたからしてるだけ。今はなんか出来る事しないのが気持ち悪くなって来てるしただの惰性だから」
「それでも実行に移し続けるのが凄いよ」
何故か居心地が悪くなるレナは視線を逸らしてしまった。それを見たブルーメがレナをからかい始めるが、シャンディたちが慌ててブルーメを止めた。まだレナが怒った所を見た事ないがブルーメは時たまやりすぎる事がある、もし怒らせてこの場で戦い始めたら周りは無事では済まないことは想像にたやすい。
あの雪合戦を見てレナだけは味方にしておかなくてはと皆が思ったものだ。
「レナ様っ、夕食早かったからなのか小腹が空いたので軽く何か食べたいです!」
ドロワが強引に話題を変え、話はそこで終わった。ほっと胸を撫で下ろす幾人かの横でブルーメは甘いキャンディをもらってご機嫌だった。
「ハナさん、今日何か小腹を満たすぐらいの何かって出せる?」
レナが一階に降りてハナに相談するとバッチリとウインクを飛ばして快く了承し、後で部屋まで届けてくれるらしい。ありがとうと礼とチップを渡しレナは部屋に戻った。それとは入れ違いにブルーメがハナの元へ足を運んだ。レナはハナに迷惑はかけないようにと釘を刺すが、ブルーメは大丈夫大丈夫とだけへらりとあまり信用が出来ない返事を返す。レナはハナを心配したがしっかりものなので何かあればすぐレナに頼るなり対応出来るだろうとそのまま行かせた。
ブルーメがハナの元に辿り着いたとき、ハナは受付けのカウンター内で書き物などをしていたがやってきたブルーメに気がつくと一旦作業の手を止めた。
「何かありましたか?」
「んーんちがうよー。ただ、あの子の友人って珍しいなぁって興味かなぁ? 君にとってあの子ってなぁに?」
カウンターテーブルで頬杖をつき話しかけてくるブルーメにハナは苦笑しながら質問に答えた。
「大切な友人、かしら。ふふっレナちゃんのお友だちがあんなに増えちゃって私寂しいって思っちゃうわ」
サービスとしてハナはお冷やを渡すとブルーメは受け取った側からそれを飲み干していった。余程喉が渇いていたのだろうかとお代わりを注ぎ、ハナは作業を開始した。
「もしかしておねーさん、あの子の事が友人以上に好き?」
作業を開始したハナの手が止まる。垂れてきた髪を耳にかけながらハナは困ったように眉尻を下げた。
「あら、そんな分かりやすかったかしら。レナちゃんには内緒よ? 一度振られてるの」
「わぁお、レナもすみににおけないねぇ。おねーさんみたいな美人な人を振るなんてもったいないよ。ふふっ、あの子の事をまだ想っているんだ?」
テーブルに突っ伏し、再び飲み干して空になったグラスを人差し指でツンツンと突きながらブルーメが聞けばハナは当たり前だと答えた。その時に丁度作業が終わったのかハナは立ち上がりカウンターから出た。空になったグラスを回収するのも忘れなかった。
「あなた名前なんていうのかしら? ……そうブルーメ。ブルーメ、少し話し相手になってくれない? 一人で作業するのってちょっと寂しいでしょ?」
そう言ってハナはブルーメを連れてキッチンへと向かうのだった。




