第十六話 街へ
「買い物行こうか」
さくりと小気味良い音を立てて目玉焼きの乗ったトーストをかじっている時だった、レナが唐突に皆を誘った。一体何の事だと言わんばかりに驚く者もいる。
「なんか帰る気が無さそうな住人擬きが増えたので色々と消費が激しいの。おやつの在庫はまだあるけどこれじゃ長くは持たないからたくさん補給しておこうかと」
「それはいいねぇ」
即ブルーメは同意した——それは一番クッキー類を消費している人物である。
「えっと私……」
ドロワは視線を彷徨わせて迷っているようだった。去年連れ去られた所へ行くのがまだ怖かったかとレナは思った。
「あなたたちを買ったのはきっと貴族。貴族はエストリア王国で中央都市にしか住んでないはずよ。中央都市に行くには貴族の護衛として同行を一時的に許可されるか国からの許可証とか発行してもらわないと行けない所。今回そこに入っていくつもりはない。それに」
とレナはワントーン声を落とし、双子にとある事実を伝えた。
「里の人と契約したものはみんな死んでると思う。エルフって強かよね、血の契約を結んでたってサロモンが教えてくれた。ぱっと見では契約書にそんな内容は読み取れないんだけどね。あなたたちを貴族が買って苦しめた時点で呪いはほぼ確実に発動してる。まともな所へ行かないだろうあなたたちが苦しめば、里の場所を知った者は死ぬ様にしてあった。
実際ブルーメに依代を使って色々と王都で調べてもらってたし貴族も謎の不審死を遂げたのもいた」
「あれはっ! ……何でもない気のせい」
ゴーシュが声を荒げるがすぐに口をつぐんだ。その貴族は頭を潰されて殺されていたのだ、レナはあの日に悟った……誰がやったのかを。そして何故あの時双子が殺されず木に繋がれていたのか。それは次々に何故か死んでいく者たちを知って呪いを恐れたのだ。
様々な奇跡もあって双子はこうして命を繋いで今に至る。レナは契約の内容を見て確認し、該当する事が無かったため呪われる事もない。
「おやつだけじゃない、後はフリーマケットでゴーシュの作った物が売れたらいいなと思ってるし服だってちゃんと2人に合わせた物を買いたい。どうしてもって感じなら残念だけど数日はお留守番してもらうけど」
「あたしも着いていくからドロワいこーよ! せっかく美人なんだしお洒落とかしてほしいわ」
レナの渡した服も似合ってはいるのだが、自分で選んで着るという事を経験させたかった。子どもには様々な事を体験させる事が大事だとレナは思っていた。
「私、行きます」
「ドロワ無理しなくていいんだぞ?」
ゴーシュが心配そうに声をかけたがドロワが発言を撤回する事なく全員で出かけることに決まった。ブルーメは依代で移動出来るが本体がずっと1人はつまらないからと着いてくるという。
「それじゃ今回はのんびり観光も兼ねるから森を抜けるのも急がない方向で行こうか」
今いる所からエストリア王国まで、普通の人間が休みを挟みつつ徒歩で半月ほどかかる距離はレナが思いっきり走れば半日で着くが、双子の特にゴーシュの体への負担は大きくなる。だからといってそこまでのんびりするつもりはなく、レナはゴーシュを背負って移動する事に。ドロワは筋力はあるので走ってついて行く。シャンディたちは言わずもがなで、3日目には関所の前に辿り着いた。
今回双子は身分証は無いがレナが保護者としてまたCランクの冒険者ともあってか常についている事を条件にすんなりと入る事が出来た。
「この国ガバガバじゃね? こんなんでロクな調査もなしで通すとか、そりゃその方がこっちも楽だけどさ」
ゴーシュが疑問を口にした。その疑問ももっともだとレナは頷くがそれに口を挟んだのはブルーメだった。
「ギフト持ちだからねぇ、国に害を為そうとするのは分かるんだよ」
それを聞いてもレナたちが頭にハテナを浮かべているのをみてブルーメは割と本気で驚いたようだ。分からないレナたちに説明を始める。
「ギフトって言うのは、んーと、固有スキルみたいな感じ? 誰もが何かしら持ってるんだけど、殆どがちょっと魔力少なめで水属性の魔法が使えますーとかそんなあって無いようなもの。だけどたまに相手の嘘が分かるとか、遠く離れた物が見れるとかそういう便利なものがあってねぇ、神様からの贈り物って事でギフトって言われるみたい。どんなギフトを持っているかは色々試して発動を確認するか、ピシアンティア帝国に行って聖女様に見てもらうかかなぁ? 聖女様のギフトが他人の持っているギフトを見分けるものらしくてね、お布施をすれば誰でも見てくれるんだって。
っとそうそう、さっきの門番さんたちはねぇ嘘を見分けるギフトとか悪意を感じとるギフト持ちだったと思うよー。素直にしていれば大丈夫なのさー」
レナと双子はへぇと言葉を漏らした。それを聞いてブルーメは少し呆れ顔でレナに、
「空間にものをしまう事が出来るのって魔法じゃなくてギフトの一種なんだよ?」
といえばレナは驚いた。いつの間にか何故か出来た事がギフト呼ばれる物だとは思わなかったのだ。他にもよく分からないが出来てしまう結界などもそうなのかと聞いてみれば肯定ばかりが返ってくる。
「厳密には、ものをしまったりとかは空間属性とかとっても希少な属性魔法を使ったりしてるわけなんだけど、使える人は限られているんだ。だからそれらもまとめてギフトって言われてるよー。
あっ、君がよく気配探るあれは正真正銘のギフトだねぇ。ほんと希少なギフトの展示物みたいなものだよ君は」
あははと笑うブルーメにレナは今後はもっと人前での身の振り方などを考えなければと心に誓った。またその話を聞いていた者は改めてレナの常識外れさを知る。もしかしたらまだまだ知らないだけで他にとんでもないギフト持ちなのかもしれないと畏れさえ抱くほどで、逆らってはいけない人だと頭で理解した。
さてレナたち御一行はぞろぞろと街の中へと入って行くとジロジロ視線が飛んできた。視線の先には大体ドロワかゴーシュで双子は居心地悪そうにしている。エルフの子どもが無防備に歩いている姿が珍しいようだ。だが時期に慣れるだろうとレナは無視をする。
「あっ、あそこの飯屋美味いんだよ! 入らないか?」
シャンディが指を差す方向を見ればなるほど、まだ夕食の時間には早いが人が並んでいる。恐らくピーク時にはかなりの列になっているのだろう、シャンディのお勧めとあって少し早いが夕食はそこで摂る事に決まった。
幸い並んでいるといっても数人ほどだ、そこまで長く待つ事なく席に通された。そして置かれたメニュー表を見て適当にそれぞれが注文をしていく。シャンディとそしてグレンもワクワクしているようだ。やがて運ばれてくる料理に一同は舌鼓をうった。
レナはジャンバラヤと呼ばれるスパイシーな米料理を頼んでいた。米自体殆ど食べたことはなかったが今回頼んだこれはとても口にあった。肉とシーフードが沢山入っており、それからしっかりと旨味が出たのだろうひと口食べればもうひと口とどんどんスプーンが進む。野菜の甘味もある。またピリッとした刺激も丁度いいアクセントになっていて肉と米、シーフードと米、または米だけでなど組み合わせてを変えて一口ごとに楽しむ事が出来るのもポイントで大皿で来た時は多いと思ったがずっと飽きもこないためしっかりお腹を空かせておけば意外とぺろりと食べられてしまいそうだとレナは思えた。味は濃い目だが一緒に頼んだ烏龍茶を飲めばさっぱりとする。
他の者はピザのようなものや七面鳥であったりとどれもかなりボリューミーで双子は最初は食べ切れるのか不安そうにしていたがすぐに夢中になり食べ進めた。ドロワが頼んだのはピザのようなものでゴムのように弾力のあるチーズに目を丸くしながらもかぶりつき、マリネされた肉や野菜の美味さに言葉をなくす。
ゴーシュはかなり苦しくなりながらも他の者が頼んだ料理と少しずつ交換しつつ七面鳥を減らしていく。
シャンディやグレンはこの店をよく知っているからか二人は軽くスープ一皿だけ頼んでレナたち3人から分けてもらいつつ食事を進めた。
普段食べるものよりガツンとくる味は食欲を強くそそり一気に食べ進めたくなるがなにぶん量が多い、シャンディたちがセーブして頼んだおかげでなんとか完食。ブルーメは皆からひと口ずつだけ貰って食事を終えた。
「すっごく美味しかった。ねぇシャンディはよくここには来てたの?」
「まぁな。安いし量もあるから仲間と……いろんな奴とテーブルを囲んで突っつきあったさ」
一瞬寂しげに笑ったのをみてドロワは不思議に思ったがあまり深くは聞いてはいけない気がした。




