表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

学園編-12

ペースダウンしてすみませんがお付き合い下さると嬉しいです。



・ ・ ・




私はそれから2年間、マーリンの元で魔術を学んだ。

夜空のように真っ黒な髪の毛は期待を裏切らず、めきめきと魔術の腕は上達していった。


そして同時に、自分の置かれた状況も理解してきていた。


妹のモルゴースと引き剥がされて連れてこられたのは、美しく荘厳とした石造りの大きな城。

その西の棟にある高い搭の一室に私は部屋を設けられた。

今まで暮らしてきた屋敷とそう変わらない、整えられた部屋での不自由のない生活を送る日々。


問題があるとすれば、その搭には入り口が1つしかなく、常に見張りの騎士が入り口にいることと、マーリンに魔術の教えを乞いに行く度にその長い階段を登り降りしなければならないことだけだ。


西の棟の中は自由に行き来することも出来たので、私はなんとか使用人たちの言動や、こっそり抜け出して盗み聞いた騎士達の話などを元に、17歳にして初めて母の名前を知ることになった。



「イグレイン・フェイ・フォーシス…」



一人きりの部屋で、ベッドの天外を見つめながら今は亡き母親の名前を呟く。


フォーシス家は多くの魔術師を輩出してきた名門一族らしい。

私が知れたのは、その名前と、フォーシスの館の場所だけだった。


ゲームの悪役だった女に、こんな生い立ちがあったとは純粋に驚いた。

一方で私は、私の人生として、自分の母として生きていたイグレインという女性の事をもっと知りたいと感じている。


それを知れば自分がここにいる本当の理由もわかる気がしていた。



私は勢いをつけてベッドから立ち上がると、部屋履きの靴から外靴に履き替えて、バルコニーの扉を大きく開いた。

ひんやりとした風が頬を撫でる。

鼻から深く息を吸い、肺に澄んだ冷たい空気を取り入れ、ハァっと音をたてて吐き出す。



ポケットから使い込んだチョークを取り出すと、硬く冷たい床に膝をつき、黙々と複雑な模様を描き出した。

この世界ではもう使われていない、いにしえの魔人の文字を書き連ね、術式を刻んでいく。

仕上げにぐるりと模様を円で囲むと、私はチョークをしまって立ち上がりスカートの汚れを払った。


空間転移の魔術は複雑だ。

師匠であるマーリンは魔法陣無しで簡単そうに空間転移をやってのけるので、一度「どうしたらできるのだ」と聞いたことがあったが、ヤツはへらへらと笑いながら「君には無理だ」と突き放した。


魔法陣の中心へと足を踏み入れる。


眼前に広がる星空を見上げ、私は陣形の中心を片足でカツンと踏み鳴らした。


身体全体で浮遊感を感じる、吐きそうになるのを堪えて私はぎゅっと目を瞑った。




私は足の裏の柔らかな感覚で、ゆっくりと目を開ける。

そこは月明かりのみが差し込む、整えられた寝室だった。

ドレッサーがあるあたり女性の寝室であろうが、その部屋はまるで生活感のないほど綺麗に整理されていた。


空間転移の座標を間違えたのだろうか?

私は部屋全体を見回すと深いため息をついた。


「これじゃあマーリンに鼻で笑われてもしかたないか」


小さく独り言を呟く。


さて、何にしろ人の家の床に堂々と魔法陣を書き残す訳にもいかない。

空間転移をやり直すにしても、どうにかしてこの屋敷を出なければならない。


私は部屋の扉へと足を向け、静かに近づくとゆっくりとドアノブをひねった。


キィと些細な音をたてて扉が開く。


廊下は蝋燭の光で照らされており明るかった。

そっと扉の隙間から顔をのぞかせて廊下の左右を確認する。


左手の奥にひときわ大きな扉が見えた。

ダイニングかもしれない、そこを通ればキッチンに通じて裏の勝手口がある可能性が高い。


私はできるだけ音をたてないように扉の隙間からするりと抜け出すと、足早に大きな扉の前へと移動する。


周りを確認しながら、扉に耳を当てる。


音も、人の声もしない。

そっとその扉を開けると、中に身体を滑り込ませた。



「…ハズレか」



残念なことに、そこは書斎だった。

書斎にしてはかなり広い、私が生まれ育ったあの屋敷の書庫にどこか雰囲気が似ている。

壁一面に天井まで伸びた本棚があり、綺麗に本が整列していた。


物書き用の机なのか、使い込まれた大きな机にはランプが灯されているが、それ以外には羽ペンと封蝋用のスタンプが置かれているだけで他には何も置かれていない。


あまり使われてないのだろうか?


本棚に近づいて背表紙を読むと、それは見覚えのある文字だった。



「これ…魔術の古文書ね…」

背表紙を撫でると、ぐるりと部屋を見渡してみる。

一ヶ所だけ本棚になっていない壁があり、その壁には大きなタペストリーがかかっていた。


私はゆっくりとそのタペストリーの前へ歩み寄って見上げた。



湖のほとりに立つ美しい女性が、真っ黒な髪をした赤子を抱く図柄だ。

下の方には、古い魔人の言葉で『湖の乙女』と織り込まれている。



「イグレイン?」



突然後方から声がした。

私は肩を震わせて勢いよく振り返る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ