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学園編-9



突然、サロンの入り口方面がにわかにざわついた。

その場の空気が比喩なしに変わったのを肌で感じる。


「ん゛っ」


グローディアは一切可愛いげ無く唸ると、慌ててテーブルの上の課題へと再び視線を戻した。

視線の端に入っただけでもわかる圧倒的な存在感をはなつ人物が目に入ったからだ。


ガラハットのものであろう、「チッ」と舌打ちが聞こえた。

それに対してか、フフっと鼻で笑うギルベルトの声も続いた。



足音が徐々に近づいてくる。


「やぁ皆揃って、アフタヌーンティーでもするのかな?」


透き通ったハツラツとした声だけで、顔を見なくてもその人物が誰なのか、グローディアにはすぐにわかった。


「俺達が自発的にアフタヌーンティー楽しむタイプに見えているなら目の病気を疑った方がいいぞ、アレキサンダー」


ガラハットはさも不機嫌そうなのを隠しもせずに、出会い頭だというのに嫌味を浴びせる。


アレキサンダーはそんなもの気にもしていない様子で「自虐的なジョークだね」と陽気な調子で嫌味を一蹴した。


「あらら~、殿下ごきげんよう」

「ごきげんよう、殿下」


ジャンヌが外面よく立ち上がり、スカートの端をつまみ上げて会釈したので、グローディアも立ち上がり極力印象に残らないよう控え目に挨拶をする。


「やぁミス・ベッカー、昼にドルビー伯爵の嫡男が顔を真っ赤にして占術授業準備室から出ていったけど…どこかの誰かと風紀を乱すような事があったのかな?」


わざとらしく名指しで訪ねられたジャンヌは、白々しく首をかしげると、妖艶に微笑んだ。


「さぁ…?解りませんけど、わたくしと二人で犯人探し、してみます?」


本当に見境がない、ここまでくると天晴れだとグローディアは目をそらしながら感嘆した。


「結構、そういうのは他の人に任せるよ」


人の良さそうな笑顔で答えるアレキサンダーに、グローディアは内心ソワソワしながら周囲をさりげなく見回す。


その場にいるほとんどの生徒がこちらを見ていた。

それはそうだ、一方はこの国の王位継承順一位の誰もが羨望し明るく真っ直ぐな太陽のような王子様。


もう一方はアレキサンダーに唯一敬語を使わず、自他共にライバル関係と認められるどこか闇を背負ったような雰囲気のガラハットと、

素行の悪い雌狐ことジャンヌ、

自分の認めた人間以外をムシケラのように扱う冷徹無慈悲な天才ギルベルト、

そしてかの大罪人モルガン・ル・フェイの姪であるグローディア。


端から見ればまさに正義と悪役の対立だ。


グローディアは胃がキリキリと痛みだし、吐き気すら催すのを感じ、口元を押さえた。


はやくこの時間が終わってくれと、柄にもなく神に祈りながらつい険しい顔になってしまう。



すると、苦虫を噛み潰したような渋い顔でジャンヌを睨み付けていたギルベルトがうやうやしく一礼をして声を上げた。


「ところで殿下、なにかご用ですかな?ティーパーティーは生憎と開催しておりませんが」


「あぁ、そうそう、明日からの王都実習の事前ブリーフィングが今日の入学式前に変更になったからと伝えにきたんだ、もう30分もしたら始まるから、騎士寮の談話室に集合してくれとガレス部隊長から伝言だよ」



ガレス、という名前にガラハットは分かりやすく反応し、眉間にシワを寄せアレキサンダーに指を突きつけて詰め寄る。



「何で貴様がガレス部隊長から頼まれ事されてるんだ、気に食わない、…チッ、さっさといくぞギル」


「はいはい、それではグローディア様、またお会いしましょう」



アレキサンダーを避けて、大股で出口へ向かい始めるガラハットの後を小走りでギルベルトが追いかける。


いつのまにやら集まっていた見物人達が一斉に道を開けた。


その背中を見届けると、アレキサンダーはクスクスと笑う。


「ああいうところが可愛いよね、彼」


あろうことかグローディアは同意を求められ、咄嗟に視線を反らしたまま


「左様でございますね、殿下」


と心にも思っていないような口振り丸出しで返事をしてしまった。


良くないとは思っていても、グローディアは、大の苦手な現国王そっくりな青年を直視出来ないのだ。


幸いにも、アレキサンダーはさして気にした様子も無く「それじゃあ僕も行くよ」と言ってサロンを後にした。




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