学園編-8
マーリンの忠告も杞憂だったのか、グローディアはそれから2年間は王子とほとんど接触をせず平穏に学校生活を送った。
学園は、騎士科と普通科に別れており、それぞれそれぞれで卒業認定に必要な科目の単位が違うが、基本的には一般講義や、魔術課程に関しては同じ授業を受けることができる。
そのかわり騎士科には武術や剣術、その他にも武器を使用した実習が必須科目となっており、
一般課では社交界でのマナーや所作、音楽や演劇の知識など、上流階級で生きていくための嗜みの課程か、魔法、錬金術、薬学などの魔術課程を受講し単位を取得する必要がある。
グローディアは午後最後の授業の簿記を終えると小さな教室を後にした。
まだ授業を残した学生達が教室を移動する流れに逆らい、階段を降りると、校舎を出てすぐのところにある生徒達が休憩やおしゃべりを楽しむことができるサロンとして使われる全面ガラス張りの温室の扉を開けた。
扉を開けた瞬間から花の蜜のようないい香りが全身を包む。
カフェも併設された温室では、すでに多くのの生徒が既に各々お茶を飲んだりレポートを書いたりしていた。
グローディアがキョロキョロと空いている席を探していると、「グローディア!ここ~!」と大きな間の抜けた声が温室に響いた。
「ジャンヌありがとう、でも声抑えなさい」
アプリコットカラーの髪を無造作にくくり上げ、その甘そうな髪色に負けないほどの甘く愛らしい顔をした美少女が、満面の笑みでグローディアを自分の座っていた席の向かいに迎える。
ジャンヌと呼ばれたその少女は、少し気だるげな動作で後れ毛を耳にかけると、テーブルに肘をついて茶目っ気たっぷりに笑う。
「ちょーどいいところに来てくれた!占いの授業で秘数術やったんだけどぉ、もーさっぱりわかんなくてぇ~、グローディアこういう数数えるの得意じゃん?ちょちょちょ~っと課題手伝ってくんない??」
「私、秘数術なんて受講して無いからわかるわけ無いでしょう…。それより貴女、昼食の時間全く顔出さないで、どこへ行っていたの?」
グローディアはぶつぶつと文句を言いながらジャンヌの向いの椅子に座ると、彼女の手元にあった課題を覗き込んだ。
「ンヘヘ~小遣い稼ぎしてきたの、ドルビー伯の御嫡男様の筆下ろし」
親指と人差し指で丸を作って、ウインクをするジャンヌ。
視線だけ上げて、グローディアは何だ、そうかと言わんばかりに「懲りないわね」と流してもう一度課題とにらめっこを始める。
「グローディア様のお耳に品のない言葉を入れるなこの売女めが」
課題に釘付けになっていると、突然スパンと良い音がした。
「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
とジャンヌが頭をおさえ、弾かれたように顔を上げる。
グローディアも一緒に顔を上げると、そこにはブルネットの長髪をオールバックにして、丸い眼鏡をかけた長身の青年と、あいかわらず鬱陶しい前髪をしたガラハットが立っていた。
「そうやってレディに手を上げる様なところ!!絶対モテないからねギルベルト・アードラー!!!」
「あいにくと、有象無象の女どもは虫のようにたかってくる、払わずに寄ってこなくなるなら丁度良い」
ギルベルトは冷たい目でジャンヌを一瞥すると、グローディアに向き直り、胸にてを当てて頭を下げた。
「こんなアバズレと仲良くしていると、グローディア様に悪評が立ちます…直ぐにでも縁を切った方がよろしい」
そんなギルベルトに、グローディアは頭がいたいとため息をついた。
「私にそんな丁寧に接してくれなくていいと何度も申し上げているでしょう?」
「そんなわけにはいきません、何度も申し上げておりますが、魔術師ならば誰もが畏怖する、かの大魔女モルガンルフェイや我が憧れの、未来の上司であるヴェイン卿を輩出した名家フォーシス家のご息女である貴女にご無礼な真似はできません」
真剣な眼差しで詰め寄ってくるギルベルトに若干引きながら、グローディアは助けを求めるように今まで黙っていたガラハットへ目で訴える。
するとガラハットは底意地が悪そうに笑い、周囲を見渡した。
「まぁ、少なくとも評判が良いわけでは無いな、俺達全員」
チラチラとこちらの様子を伺っていた生徒達が一斉に目を背ける。
評判が悪いどころか、完全に悪役だ。とグローディアは口には出さずにぼやいた。




