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その魔獣使い、人類の敵につき。  作者: 有澤准
第二章 魔族領編
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第六十六話 天秤

「止まれ。そろそろだ」


 モトラドが急ブレーキをかけて止まる。


「わぁあ!」

「むぎゅ」


 爆睡していたニナがブレーキの勢いで八雲ちゃんに転がるようにつっこみ、もんどりうって八雲ちゃんの顔面にニナのお尻が正面衝突交通事故。八雲ちゃんがニナの下敷きにされる形になった。


「な、なに……?」

「地形的に多分あと数キロで魔物が溜まりやすいポイントがある。立花! 偵察行け!」

「人使いが荒いなあ……けっ」


 立花が渋々といった様子でモトラドから降り、両手を複雑な形にして体の前で組み合わせた。


「隠!」


 そう唱えると立花の姿が薄くなり、見えなくなった。

 

「な、なんだ!?」

「忍者のスキルだぜ~」


 何もないところから立花の声がした。すごいな、忍者……。

 ニナはしばらく目で走り去っているであろう立花を追っていたが(鼻をすんすんしていたのでもしかすると匂いで場所が分かっていたのかもしれない)、見失ったのか峰村に向き直った。


「よく分かるね? とくに地図には何も書いてないみたいだけど」

「戦術師の特徴なのかもな。地図と周りの環境を見ればだいたいどういうところに敵が潜んでるか分かるようになる」

「私の魔力探知よりも遠いところのことが分かるみたい」

「魔力探知持ってるのかよ……もっと早く聞いておけばよかった。立花早く帰ってこないかな……」


 言われてみれば立花は無駄足か……。可哀そうに……。


「俺が呼ぼう!」

「お前の大声だと魔物も寄ってきそうだからやめろ。つーかもっと早く聞いとかなきゃいけなかった。お前ら、どういうスキル持ってんだ?」


 峰村がメモ帳を取り出す。ぱらぱらとめくられたページにはびっしりと何かが書き込まれていた。

 こいつ、そういえば講義中もそれなりにノートをとっていたタイプだったような? 珍しいなと思ったので少し記憶に残っている。

 いや、しかしどの程度まで教えればいいのだろう?

 一応峰村たちは教会側の出身だ。おそらく、召喚システムを止めることを俺たちの目標にしている以上教会は敵になる可能性が高い。

 ここで教えてしまって何か不利につながらないだろうか……?

 オデット曰く念話は地上では禁術らしいし、鑑定もあんまり教えない方がいい気がする……。

 少し黙り込んだ俺に対し、峰村がにやっと笑った。


「そう気負うなよ。むしろ全部さらけ出された方がこっちとしちゃ荷が重いんだ。戦いに役立つやつだけでいい」

「……悪いな」

「俺らもさすがにお前らに全部手の内を晒すつもりはねえよ」


 気を使われたのだろう。それぐらいは分かる。

 むしろ、ここで全部晒しあうよりもこういった気遣いがあった方が信頼できる。


「俺の武器は刀だ。澱みを使って強化できる。あとは……ステータスを一時的に強化できる」

「私は炎の魔法が使えるよ。あとは肉体強化もできるかな。それとさっき言った魔力探知。八雲ちゃんは糸を出したり毒を出したりできるよ」

「ふぅん……狐っ子と蜘蛛っ子は俺たちにはないスキルだな。ちょっと戦術に幅が出る。白井は……近接系戦闘職だと若干鏑木と被るけどまあいいか」


 ちょっと残念そうにされた。しょぼーん。

 ちがうもん。魔獣使いだからニナと八雲ちゃんの戦力も俺のちからとしてカウント……というにはちょっと比重が重すぎるか……。

 そういえば澱みに対しては何も反応を示さなかったな。


「ある程度残滓については調べてきた。澱みを使うって言ったって魔力に変換されてんだ。直接空気中に澱みを放出してるわけじゃないからな。感染したりはしねえよ」

「そうなのか?」

「なんでお前が知らないんだよ。まあパンピーのだいたいも知らないらしいけどな……」


 だから差別されてる、と心底どうでもよさそうに峰村は言った。

 まあ、日本人っていまいちその辺の感覚が薄いよな。


 と、そこで立花が帰ってきた。


「おーい! めちゃくちゃ魔物いたぞ!」

「てめえ数と種類で報告しろっていつも言ってんだろ」

「え~? えーと、あれだ、クソデブ……オーガ! オーガが20匹ぐらい!」

「オーガかよ……相当多いな……。白井、お前らも手伝え。俺が指示を出す」

「いいけど……オーガって戦ったことないんだけど」


 ゲーム通りだと豚の顔をした大男……みたいなやつだっけ?


「この世界のオーガは武器を持ってる。鎧を着てるやつもいる」

「やばすぎだろ。文明があるのか?」

「人間から奪ってるだけだな。パラメータ的には亜人のカテゴリらしいが、知性も獣並みだから話は通じない」


 ふぅん。まあでかいゴブリンみたいな感じか……?


「立花、車出せ」

「はいはい」

「作戦は簡単だ。着くまでに伝えるから覚えろよ」

「むぎゅぎゅむぎゅむぎゅ(というかそろそろどいてくれないか?)」


 八雲ちゃんはずっと下敷きにされていた。


**


 俺と鏑木はオーガの群れを迂回するようにして茂みの中を進んでいた。モトラドは遥か遠くに停めてある。

 鏑木はでかい盾を背中に背負っている。一応腰に大きいナイフを差しているが、それ以外に武器はない。盾使いらしいが……。盾でどうやって戦うんだろう?

 モトラドと自分たちの間にオーガたちを挟み込むような位置までじりじりと移動したあと、鏑木が親指を立てた手をくいくいと自分に向けながら言った。


「俺はいつも通りやる! お前もそうしろ!」


 そして、突然茂みから勢いよく立ち上がって吠えた。


「おらぁああああクソデブども!!! ぶっ殺してやる!!」


 突然出てきた大男に一瞬動きが固まるオーガたち。

 その隙を逃さず、鏑木は盾を構えながら群れのど真ん中に突っ込んでいった。


「あいつ怖いもの知らずすぎだろ! くそっ! 共鳴!」


 俺もステータスを底上げし、群れに向かって飛び出していく。

 とはいえ、この数の敵と正面切って戦う経験はあまりないので、端っこのほうからだ。囲まれたくないし。


「あーはっはっは! きかねえなあ!」


 視界の端の方でオーガにこん棒でふるぼっこにされている鏑木の姿が見えた。なにあいつ……? 全然応えてなさそうだし、なんなら盾で受けてすらいないんだが……。

 いや、あれを気にしている場合じゃない。


「壱ノ型:情緒纏綿!」


 澱みの魔力の刀身を5メートルほどまで伸ばしぶんぶんと振り回す。鏑木の周り以外のところにいたオーガたちが寄ってくるが、長い刀身を警戒してかじりじりと距離を取っている。たまに突っ込んでくる奴がいたらこちらも距離をおく。とにかく囲まれないことが第一だ。


「えいえいっ」


 つんつん、と突きのような動作をしたりして挑発していると、突然目の前のオーガの首が斬り飛ばされた。

 鏑木の方のオーガも急に火だるまになったり、苦しそうに喉をおさえて転げまわっている。


 作戦は本当に簡単だった。

 俺と鏑木が挑発して、後ろから立花、ニナ、八雲ちゃんが奇襲するだけだ。

 

 目立つ俺たちに気を取られてどんどん数を減らしていくオーガたち。

 あっという間に残り五匹程度になった。


「そろそろ俺にも狩らせろよっ! 経験値よこせ!」

「いいぞ、やれ!」


 鏑木が吠え、峰村が応えると大男の剛腕が巨大な盾を軽々と振り回した。オーガに直撃し、その巨体が軽々と吹き飛んだ。倒れたオーガの首を鏑木が盾の先端を叩きつけて潰し切る。


「白井もやっていいぞ!」

「ああ!」


 刀を1メートルほどに戻し、目の前のオーガの脇腹を防具ごと薙ぐように切り裂く。共鳴があればこの程度の鎧じゃぼろ布の服ほどの防御力もない。痛みにのけぞるオーガの顔面に刀を抉りこんでとどめを刺す。


 俺の近くのオーガはあと一匹。

 そうだ、ついでにあの意味わかんない新スキルも試すか……。


「参ノ型、妨功害能!」


 出現した澱みのボールをつかんで思いっきり投げつける。

 オーガも黙って受けるはずもなく、巨体を思ったよりも軽やかにステップさせて避けた。


「甘い! ()()()!」


 俺が念じるとボム! とボールが爆発して黒い瘴気をまき散らし、オーガを包み込んだ。


 このスキル、何回か練習していて分かったのだが俺の意志に応じてある程度動かすことができる。

 つかんで投げるモーションをした方が分かりやすく動かせるのだが、だんだん慣れてきて爆発させたり霧のように撒くこともできるようになった。


「ぐおぉ!?」


 驚いたようにオーガが腕を振り回し、瘴気から逃れようとする。

 まあ、それは無駄だ。


 当たるのはいいけど俺も効果知らないから……。

 ぶっちゃけ目つぶしっていうか、こういうハッタリ用のスキルなんじゃないか、これ……?


「やっぱりよくわからん! 情緒纏綿!」


 改めて刀に澱みを纏わせて鎧ごとオーガを袈裟切りにする。と、ガリガリッ、といやな音がして刀が鎧に止められた。


「こいつの鎧、硬いッ……! 共鳴!」


 共鳴を重ね掛けしてもう一度斬ろうとしたところで、うっとおしそうにオーガが大腕を振るった。


「くっ!?」


 思い切り胴を殴られ、吹き飛ばされてたたらを踏む。めちゃくちゃ痛い。こいつ、なんか強くないか……!?

 刀を構えなおして向き直ったところで、突然オーガの頭が燃え上がった。転げまわり、すぐに静かになるオーガ。


「ユキト! 大丈夫!?」


 駆けつけてきたニナが俺に触れると、じんわりと痛みがなくなっていく。


「悪い……なんか強かった気がする……」

「そう? 魔法の通りは悪くなかったけど……」


 油断したのだろうか? ちゃんと鑑定して、共鳴でステータスを超えているか確認してから戦ったほうがいいのかもしれないな……。


**


 戦闘後、いろいろ後始末をしていたらすぐに日が暮れてしまった。

 オーガの死体をまとめて燃やしたり、焼け跡から頭蓋骨と骨盤を集めたり(これを持っていくと狩人組合から協力お礼金がもらえるそうだ。ちゃんと燃やして他の魔物の餌にならないように処理をしましたよ、という証明にもなるので頭蓋骨と骨盤が選ばれるらしい。どっちかだけじゃダメなのは頭だけ燃やして胴体を放置する事例もあったからだとか)


 峰村たちからパンをもらいつつ熊肉を分けたりして(魔袋の存在にビビられた。容量が多すぎるらしい)夕飯を済ませたあと、俺はモトラドの外で見張りをしながら考え事をしていた。


 昼間地図の話をしてから俺は峰村にあることを聞かれていた。


 すなわち、これからどうするのかだ。


 フランク州まで行ったあと、おそらく俺たちはある程度街や村にも入れるようになるし、情報集めをしやすくなるだろう。

 目的は勇者召喚システムを止める方法を探すこと。

 そして、おそらくだがそのヒントになるのがアラクネだ。アラクネコピーの知能を奪った八雲ちゃんですらあの知識量。アラクネなら何か知っている気がする、というか確実に知っている。


 八雲ちゃん曰く、勇者召喚についての知識はコピーにはなかったらしい。いくつかの知識はすっぽりと抜け落ちており、おそらくコピーには共有されていない知識があるのだろう、と。なかでも不自然なぐらい勇者召喚の知識は本当に基本的なところしかなかった。


 アラクネコピーがいたことから、ほぼ間違いなくダンジョンの生成にはアラクネが関わっている。つまり、オデットやエリノア同様にアラクネは佐倉の仲間だったのではないか?

 なら、勇者召喚について絶対に調べている。はずだ。


 だからアラクネのところを目指す。

 それが正解のはずだ。


 だが、俺の中で引っかかっているものがあった。


 消息不明の山田。

 俺の元の世界の唯一の友達。


 あいつを助けにいくべきなんじゃないか……?

 でもそれは、神国のあの神殿に行くということだ。

 見つかるかもわからないのに行くのか?


 まして、俺は神殿にいけばまた捕まって迷宮に閉じ込められるか、もしくは今度こそ殺されるだろう。迷宮の出口の結界は解けている。俺が出ていることがばれたらすぐに出口も見つけられて、運よくまた迷宮行になったとて、出た瞬間に袋叩きだろう。


 ……リスクが大きすぎる。


 山田を助けようとした結果、俺が死んでしまったら勇者召喚システムは止められなくなる。

 それは、ダメだ。


 ぎぃ、と荷車が軋んで誰かが出てきた。

 峰村だった。


「行き先は決まったか? フランク州にいくか、神殿にいくか。明日の朝に差し掛かる道がその分岐だ」

「……正直、悩んでる」」

「……お前の目的がなんなのかは知らねえよ。好きなようにやりな。俺たちもそうしてる」


 どうする?

 俺が本当に守りたいものを優先しなきゃならない。

 選ばなければいけない。


 それは、今はニナと八雲ちゃんと、元の世界の家族、風結だ。

 山田ももちろん大事だ。でも、危機的な状況に陥ってると決まったわけじゃない。


 ニナと八雲ちゃんを神殿につれていくのはマズい。守り切れないかもしれない。

 風結は勇者召喚システムを止めなければ絶対に消えてしまう。


 じゃあ、選択肢は一つだ。


「アラクネを探しにいく。フランク州を越えて魔族領にいくよ」


 ** 


 俺はいずれこの選択を後悔することになる。

 だが、しばらく先の話だ。

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