第六十話 魔力訓練、開始?
「スッキリした!」
うーん、と伸びをする。身体も温まったし、外套も二枚重ねに増えた。
これなら安心だ。街に出たらちゃんとしたものを買えば良いだろう。
「おかげで私の魔力はほぼ尽きたけどね……」
ぶー、とニナは頬を膨らませて文句を言う。ニナはひたすらあたりの植物を毟って布を作っていたからな。ちなみに、ニナの外套はオデット特製という事もあり、この程度の寒さなら遮断してくれるらしい。
「サンキュサンキュ」
わしわしと頭を撫でると、ニナはやはり不服そうな顔をした。
「むー」
「なんだよ……」
「ユキトの匂いが薄い! お風呂入らないで!」
「やだよ!?」
なに言ってんだコイツ。
「ニナ嬢は匂いフェチだったか……犬みたいだなあ……」
八雲も外套を二枚用意してもらい、足まですっぽり覆われている。そもそもあの服がおかしい。進化した時から着ていたが、どういう仕組みなんだろうか……。
というわけで、聞いてみた。
「この服か? これは体内に溜め込んだクモの糸を使って自然に生成されているのだ。破れても自然に治るし、なんなら紛失しても作り直せるぞ。魔獣の人化個体にはそういう性質が備わることがよくあるらしい」
「そうなの!?」
そういう仕組みなのか。
ニナにはその性質が無かったためにすっぽんぽんで進化した、と。ていうか、人化魔獣のくせにお前は知らなかったんかい。
「デザインは変えられないのか?」
「それは無理だな。そうだな……いわゆる、毛色や鱗と同じようなものなのだ。他の服に着替える事は可能だろうが、本気を出さなければならなくなったら勝手に服が生成されると思うぞ」
それはつまり、「変身!」っていうアレが出来るのだろうか。妹が魔法少女系女児向けアニメをなぜか中学生になっても見ていた事を思い出す。
マジカルスパイダー八雲ちゃん。
『毒を制すものはバトルを制す! ポイズン・ミラクル・チェーンジ! マジカルスパイダー八雲! 蜘蛛に変わってお仕置きよ!』
これは……行ける……!
「主殿ー? おーい?」
「ハッ! なんだいマジカルスパイダー八雲ちゃん!」
「ユキト?」
「主殿は何を考えていたんだ……」
八雲は呆れ顔でハア、と額に手を当てた。そして、ちらり、と俺の顔を見た。
「とはいえ、主殿にも覚えがあるだろう。この前発狂したときは仮面が現出していただろう? アレも同じようなものだよ」
なにそれ、初耳なんですけど。仮面?
俺の不可解そうな表情を読み取ったのかニナが補足する。
「やっぱり覚えてないんだね。ユキトがこないだ発狂した時に、澱みが集まって仮面みたいになってたの」
「なにそれかっこいい」
思わず呟くと、きっ、とニナに睨まれた。
「かっこいい、じゃないよ! 心配かけさせて、分かってるの!?」
「あ、すみません……」
素直に謝る。失言だった。
でも、暴走で仮面はロマンだよな……。
「ユキト! 噛むよ!」
「ごめんごめんごめん!」
マジで噛まれるのは痛いからやめてほしい。
ニナはカチカチと歯を鳴らしている。お前、そんなに犬歯とがってたっけ?
「ただ、あの時の澱みを扱う技術は目を見張るものがあったな」
八雲がぽつり、と零す。
「普段の主殿は……ドへたくそだからな……」
ド、までつけるな。そんなことは分かっている。
ネルとの戦いでそれを思い知った。アイツは俺みたいに触媒として何かを使うわけでもなく、巧みに澱みを操ってみせた。
最強最古の断片、エリノア・ルー。
おそらく、あれが不明の残滓としての到達点なのだ。
勇者召喚の元凶である神殿がどれほどの強敵かは分からない。だが、ネルでさえ勇者召喚は止められていない以上、俺はネル以上に強くならないといけないのだろう。
だが、一切の魔力適性が無い俺にそんなことが可能なのか?
この短刀を使わなければ魔力を練る事すら出来ないというのに。
「いや、それは違うな。主殿は魔力を生成できないわけでは無いと思うぞ?」
「そうだね、多分魔力自体は作れるんだと思うよ」
「えっ」
そんなバカな。
オデットから「お前は魔法の才能無し」とお墨付きをもらっているのに。
この短刀は周囲の澱みを吸収して、魔力に変換して俺に移している。そうまでしないと戦えない以上、魔力は生成できないのだと思っていたが。
「そりゃそうだよ。魔法はエーテルから作った魔力を基準にしてるし、スキルが無いと魔法は使えないもん」
「逆にだ。スキルは発動しているだろう? 一部のスキルもまた魔力を使用している。つまり、澱みから魔力を生成する事はもう出来ているのだろう」
マジかよ。
確かに、念話なんかは魔力を使いそうな感じだが……。
「うん。意図的に発動するスキルっていうのは魔力を使うからね。ユキトの場合は念話と鑑定と……共鳴も? かな? 共鳴は分かんないけど。念話と鑑定は間違いなく魔力を使ってるんだよ」
「マジで? 確かに短刀を使う前からその2つは使えたな……」
「うん。でも、どっちもほとんど魔力を使わないスキルだからね。だから普段のユキトは魔力をほんとぉーに、すっごく、少ししか生成出来ないんだと思うの。そもそも澱みから魔力を生成できるなんてことが異常なんだけどね?」
あの短刀、本当に凄いんだよ、とニナが言う。
正確に言えば元になった木刀。つまり、佐倉純也の功績というわけだ。
いや、でもなぜアイツはわざわざ木刀にそんな性質を持たせたんだ? もしかして、俺のためだとすると……。
「剣術スキルを獲得したのもアイツの思惑か……?」
絶対許さん。あんなゴミスキルを……。
いや、しかし最後に何か言っていたような……ゴミスキルじゃないとかなんとか。
「? まあ、主殿。発狂している時には澱みから作った魔力を凄まじい勢いで使っていたぞ、短刀無しでな。つまり、主殿は本質的には魔力を澱みから生成できるのだと思う」
「そうなのか……」
「訓練次第だね! あれだけの素質があるなら、ネルみたいにもなれると思うよ……発狂無しで」
発狂無しで出来るのは、大きい。今の俺は、はっきり言って発狂無しでは弱すぎる。
「訓練って……ちなみに何をすればいいんだ?」
「体内で澱みを魔力に変えればいいんだよ」
「うむ」
「はい?」
いや、だからそれが出来ないから困ってるんだけど。
「だから、澱みを魔力に変えて体内を循環させ続けるの! やってくうちに生成量は増えるよ? 私も村でずっとやってたでしょ、エーテルで」
「うむ」
八雲に至ってはうむしか言わないし。というか、いつの間にか手の中で蒼い鉱石を転がして遊んでいた。105階層にたくさん転がってたやつに見えるが、持ってきてたのか、それ。
しかし、参った事態だ。
澱みを魔力に変える、というのがイマイチよく分からない。
最初のスタート地点が分からない以上、訓練自体が始められないのだ。魔力自体、なんなのかイマイチ分からずに使ってきていたし。
ニナもこてんと首を傾げた。
「おかしいなあ、念話も使えてるし、最初から出来てるものだと思ってた」
「身体が勝手にやってるってことか?」
「そういうことになるのかも」
なんだそりゃ。
期待して損した……。
「じゃあ……まずはどうやって身体が魔力を作ってるのか調べないと、か」
「そうなるな。主殿の短刀は魔力を主殿に回せるのだろう? その魔力を体内で循環させていけば、外部の魔力と自分の魔力がどこかで混ざるのが分かると思うぞ。何かの手がかりにはなるんじゃないか」
「うん、それだね。魔力を操る訓練にもなるし、毎日やってみたら? なんなら身体魔法強化のスキルも手に入るかも」
私はそれで使えるようになったよ、とニナは言う。
そういえば子狐の頃から、俺が木刀を振っている隣で魔力を練っていたな。
「マジか! じゃあ、やってみる」
一方で、八雲ちゃんだけは変な顔をしていた。
「いや、主殿は表スキルは獲得できな……表スキル? 表スキルってなんだ……? えくすとら……? 知らない記憶が……!?」
大丈夫か、八雲ちゃん。
なんとなく触れない方がよさそうなので放っておこう。
だけど、確かに神聖の拒絶スキルがある以上、スキル獲得までは出来なそうだ。それでも魔力を操れるようになるかもしれないのは大きい。
あの最強の断片に追いつくには、それぐらいできなければならないのだから。
ぐっ、と拳を握りしめる。
やろう、今からでも!
そんなわけで、俺は道中もずっと魔力を体内で循環させ続ける事になったのだった。




