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その魔獣使い、人類の敵につき。  作者: 有澤准
第一章 迷宮編
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第五十八話 ようやく始まる物語

 フユを救うには、世界を救うにはこの世界の全ての生命を絶滅させなければならない。

 だが、それはニナたちの命も奪わなければならない事を意味する。


 どうすればいい。

 俺は、どうすれば……。


「僕なら、皆殺しにしよう」


 声がした。

 弾かれたように顔を上げるが、佐倉はそんな俺を不思議そうに見つめるだけだった。


「僕は全てを犠牲にしてでも守りたいものを守る。たとえそれが間違っていても、ね」


 この声は、俺の頭の中、正確に言えば俺という存在の内側から響いてきている。


 つまり、これはもう一人の俺の声だ。


「だが……君は、そうじゃないんだろう? なあ、正しい『俺』」


 そうだ。


 そのやり方で世界を救うのは間違っている。

 もっと、別にやり方があるはずなのだから―—。


 考えろ。

 誰も殺さずに、誰も犠牲を出さずに世界を救う方法を。


「……おい、佐倉純也」

「なんだい?」


 一個だけ、あった。


 コイツは言っていた。


 俺を召喚するために、召喚システムに介入したと。


 つまり、システムにはある程度召喚対象を選ぶ機能がもともとあるという事になる。

 そして、それは完全にランダムじゃない……!


「召喚する勇者を選んでるのは、誰だ?」

「……神殿の連中だね」

「じゃあ……そこからシステムを崩せるはずだ! システムを操るコンソールが存在するならそこを乗っ取ってしまえば良い! そうだろ!」


 佐倉は、ふう、と嘆息した。


「つまり、君は……皆殺しは出来ないと?」

「あぁ、しない。人類の敵ならいくらでもなってやるよ。だけど、世界の敵にはならない!」

「システムを崩せるか保証は無い。無意味な可能性だってある。皆殺しが一番確実な解決方法だ。それでもやるのかい?」

「ああ、やってみるさ。駄目なら次の方法を探す。こんな方法じゃなくても、解決する方法があるはずだ!」


 大切なものを犠牲にせずに、両方を助けられるならそれを追う。二兎を追うものは一兎をも得ずなんて言葉があるが、今回は一兎を守りながらもう一兎を追う戦いだ。


「はぁ……ま、予想はしてたよ。人格の分裂は想定外だったんだよね。もう一人が主人格ならあっさりいったんだろうけど」


 そういやたびたびここに来てるって言ってたな、もう一人の俺。


「いいよ。気の済むまでやってみれば良い」


 呆れたように彼はため息をついた。


「意外と、物わかりが良いな」

「……これでも、いろいろとやってきたんだよ、僕も。皆殺しじゃなく世界を救えるならそれに越した事は無いさ……いずれはこの方法になってしまうとしても、それまで抗う価値はある」


 彼も今まで試行錯誤してきたのだろう。 


 それでも、どうしようもなくてこの方法を選んだのだ。


 だが、俺と彼には大きな違いがある。


「君は、僕と違って真の断片だ……もしかしたら、どうにかする方法があるかもしれないからね」

「……あぁ!」

「……ただし、一個気をつけて欲しい事がある」


 佐倉は指を一本立てて俺を見つめた。


「死ぬな。いいかい、勇者召喚システムは全ての勇者がこの世界から死亡、もしくは存在が消滅した段階で再発動する。だから君が生きている限りは僕らの世界が生き延びる可能性は在り続ける。だけど、君が死んだ段階でそれは終わりだ。もう誰も救えない」

「……あぁ、分かった」

「じゃあ、話はそんなところだよ。頑張ってね」


 すぅ、と俺の身体が透け始める。目覚めが近いのだろう。


「あー、そうそう。迷宮突破のご褒美だ。短刀のスキルを一個解放しておいた。後で確認しなよ……あと、刀剣術はゴミスキルじゃないから。わざわざ君が不利になるようなスキルを僕がつけるわけがないだろう」


 そういえば剣術(刀)はこいつのせいで付与されたんだったな……。


 いや、他の武器を一切使えなくなる上に刀の技能も結局自分の腕次第ってマジでゴミスキルとしか思えないのだが。


「ヒントは鑑定スキルだよ」


 普通に答えを教えろよ。


「それは駄目。これからは自分の力で生きていくんだろう? もう僕らが設計した偽物の迷宮じゃないんだ……これぐらいは自分で見つけ出しなよ」

「あぁ……分かったよ」


 身体がどんどん透けていく。もう、ほとんど時間はない。


「最後に……聞きたい事がある」

「なんだい?」


「迷宮の敵が人間に近い姿の奴ばっかりだったのは、人殺しに慣れさせるためか?」


 空気が凍る。


 俺から放たれている敵意と、笑みを浮かべている佐倉の底知れない本性がぶつかり合う。


「……さあね」

「……やっぱ、お前のこと嫌いだわ」


 そして、黒い世界が視界から消えた。最後まで佐倉は笑みを浮かべていた。


**


「ユキト! 八雲ちゃん、ユキトの目が覚めた!」

「あー、だから転移のショックで眠っているだけだって言っただろう」

「ユキトぉ〜!」


 目が覚めたら早々に涙目のニナに抱きつかれた。

 だいたいアイツの予想通りかよ。


「ここは……?」


 辺りを見回すと、どうも石でできた狭い部屋のようだった。

 身体の下では怪しく青白い魔方陣が輝いている。あの部屋にあったものに似ているな。


「あの魔方陣で転移してきたみたい。どこかは分からないけど……」

「そうか……」


 ニナは、そこで訝しげに俺の顔を覗き込んだ。


「ユキト……何かあった?」

「そうだな、主殿……険しい顔をしているぞ」


 ……。


 2人には、話しておいた方がいいだろう。


 あの場所で黒い世界に行った影響か、夢のように朧げに記憶が消える事はもう無い。

 全てを鮮明に思い出せる。


「……佐倉純也に、あの迷宮を作った奴に会ってきた」

「えっ」

「まあ、そんなことだろうと思っていたよ。何か言われたのか?」


 驚くニナとは対照的に八雲ちゃんは冷静だ。


 ほんと、最年少とは思えないな。


「念話で共有する。頭貸せ、2人とも」


 ん! と頭を突き出してくる2人の頭に手を乗せて、意識を集中する。それだけで2人にはことの顛末が伝わったようだった。


「これは……!」

「ユキトの世界が、こんな……!」

「あぁ……」


 2人は、どういう反応をするだろうか。


 皆殺しという確実な選択肢を選ばず、厳しい道を行く俺についてきてくれるだろうか。


 だったら、むしろ彼女たちとはここで別れた方が2人は安全かもしれない……。


「俺はあの神殿を敵に回す。危険なこともしなくちゃならないと思う。だからお前たちは……」

「……ふふっ」


 すると、今まで真面目に話を聞いていたニナが笑った。


「八雲ちゃん、聞いた? ユキト、私たちの事心配してるよ? ユキトの方が私たちより弱いのにね?」

「うむ。しっかり聞いた。ふふ、そうかそうか、妾たちの命を奪わぬためにあえて修羅の道を行くか」

「お前らなあ、ふざけてる場合じゃ……」


 ニナと八雲が立ち上がる。


「ふざけてなんかないよ。私たちも、ユキトの事が大切だから……」

「あぁ。もちろん一緒に手伝わせてもらう。主殿だけじゃ神殿に歯向かうなど無理な話だ!」


 さらっと八雲ちゃんにバカにされたような気がするが。


「いいのか……? これは、俺が自分の世界のためにやることだ。お前たちは……」

「いいの! 私はユキトの力になりたいだけだから!」

「うむ! それに……妾たちの仲間だろう? だったら力も貸すさ。もとより、外に出たところで妾はずっと主殿と一緒にいるつもりだったしな?」

「ニナ、八雲ちゃん……」


 思わず、笑みがこぼれる。


 あぁ、仲間というのは……こんなにも、嬉しい存在だったか。


 ほぼ友達のいない俺が、異世界召喚されて開幕から半殺しにされて落とされた迷宮。

 厳しい三ヶ月ではあったが、こんなにも変え難い大切なものを得られたのなら、この時間に意味はあった。


「……これからも、よろしくな」

「うんっ!」

「うむ!」


 さあ、俺たちの異世界生活はようやくここから始まる。

 

 立ち上がって、石室の重い扉を押し開ける。

 ゆっくりとそこから光が漏れてくる。

 あぁ、この光は……。


 懐かしい、太陽の光だ。


「じゃあ、始めようか……俺たちの、世界を救う旅を」


第一章迷宮編、これにて完結!

長かった……めっちゃ長かった……!


さて、これにてユキトたちの迷宮編は終了。次章、『魔族領編』。地上で繰り広げられるユキトたちの活躍をお楽しみに!

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