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その魔獣使い、人類の敵につき。  作者: 有澤准
第一章 迷宮編
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第五十六話 狭間にいたのは

作者ページの活動報告でユキトとニナのキャラデザを公開中です。よろしければご覧下さい。

 気がつくと、いつものあの黒い空間にいた。情報だけが流れ続ける奇妙な場所。


 なんだか久しぶりのような気もするし、そうでも無い気もした。

 ここに来ると、今まで忘れていたこの場所での記憶が一気に戻ってくる。


「……」


 相変わらず、俺の身体は朧げだ。存在感が無い。あるという実感が無い。まるで夢のように。


 だが、それでも以前よりはわずかに身体の輪郭を感じる。

 これが、何を意味するのか……。


『やあ』


 いつの間にか目の前に男が立っていた。


 真っ黒な髪。黒い目。数ヶ月前なら見慣れた日本人らしい顔立ち。

 いたって普通に見える成人男性。俺より一回りほど年上という程度だろう。


「……あんたは」


 一応聞くが、もう分かっている。


 こいつは、今までこの空間で俺と対話し続けていた黒い靄だ。それが、106階層に到達したことでとうとうはっきりと視覚化された。


 そして、俺が使っている刀の原型、木刀の制作者であり、あの村をオデットと2人で作った存在。

 オデットのいう『婿殿』、ネルのいう『あの男』。


 すなわち、この迷宮を作り出した張本人。


『お察しの通り。僕はJ・S……いや、この場所に限ってはもう隠す必要も無いな。七代目勇者の一人、佐倉純也だ』


 七代目。俺たちが何代目なのかは知る由もないが、3000年も昔からここにいるなら相当昔の人物だろう。


 何か引っかかった。

 3000年前って、元の世界は紀元前になるんじゃないのか……?

 そんな時代に、佐倉なんて苗字があるとは思えない。


『うんうん、そこに気付くとは流石だね。でもまあ、その話は後だ。その前に聞きたい事もいろいろあるだろう?』


 分かっているじゃないか。


 あぁ、山ほどあるとも。全部聞かせてもらおうか。

 ちょうど良く、こんな空間を用意してくれたんだからな。


「ニナと八雲ちゃんはどこだ」

『まずそれか。心配しなくていい。君と一緒に転移陣で地上に送ってある。君が目が覚めたら、いつもと同じように僕の孫が泣きべそをかきながら君に抱きつくだろうさ』


 よく分かってやがる。


 しかし、オデットの婿殿発言と、ディオナが人間とのハーフだということから予想はしていたがやはりこいつ、ニナの祖父なのか。


 ……随分若いな。


『死んだ時の姿のままだからね。で、次の質問は?』

「……いろいろ気になる事が多すぎて、何から聞けばいいかも分からないんだけどな。……この迷宮は、なんのためにある? お前が作ったってことで間違いないのか?」

『……なぜ?』


 なぜ、と問う割には彼の表情は疑問を抱えている者のそれではなく、むしろ笑みを浮かべていた。


「俺はこの世界に来てここしか知らない。だからほかのダンジョンがどうなってるのかなんて分からない。でも、俺たちが進んできた階層は……101階層なんていう割には明らかに、簡単だった」

『わからないよ? この世界のダンジョンは案外大したことないのかもね』

「101階層にしょぼいゴブリンしかいないのに、たった5階層下がっただけでドラゴンいるのおかしいだろ」

『君にとってゴブリンがしょぼかったかは別として……まあ、レベルを急に上げすぎたところはあるね』


 うるせーな。ニナがいなきゃ俺はたしかにゴブリンもどうにもならねーよ。


『あぁ、僕が作った。何のためかといえば君のためだよ。君を地上に出すまでに鍛え上げるのが目的だった』


 やれやれ、と肩をすくめる佐倉。

 それにしても鍛え上げる、ね。


 にしては、随分とヤバい階層まで用意してあったようだが。件の105階層とかな。


『本来はアレぐらい越えて欲しかったんだけどね。エリノアの奴が言うこと聞かないものだから、勝手に全滅させちゃって……』


 ネル、グッジョブである。アイツがいなかったら多分あそこでドラゴンズにやられて俺たちの方が全滅している。


「で、俺のためっていうのはどういうことだ。世界の敵とかネルは言ってたけど」

『なんか態度硬くない?』


 硬くもなるわ。

 こいつが今までの苦労の元凶なんだから。


『まあ、君に世界の敵になってもらうための迷宮だってことさ』

「……あのさ、さっきから話が読めないんだよ。世界の敵ってなんだ。具体的に何をさせるつもりなんだ。なんで俺がそんなものになる必要がある?」


 世界の敵なんて単語、マトモじゃない。


 普通に考えてろくな事をさせられそうにない、まっぴらゴメンである。


『世界の敵っていうのは、その名の通りだよ。君にはこの世界にとって最悪の天敵になってもらう。具体的には―—』


 そこで一回、この男、佐倉純也は言葉を切って、ちらり、と俺の後ろを見た。何かいるのか?


『具体的には、この世界の生物という生物、全てを絶滅させて欲しい』


 ……何を、言っている?


 絶滅?

 殺害とかではなく、絶滅?


『そうだ、絶滅だ。人間という人間を、獣人という獣人を、亜人という亜人を、魔族という魔族を、動物という動物を、昆虫という昆虫を、魔獣という魔獣を、魔物という魔物を、全て絶やして滅ぼして欲しい』


 なんの、ために。

 いや、そもそも……。


「……お断りだ」


 その対象には、ニナや八雲ちゃんも含まれているではないか―—。


『一から説明しようか。まず、これは君にしかできないことなんだ。真の断片になり得る君にしか、ね』


「真の断片?」


 それもよく分からない単語だ。


『君は、元の世界、僕たちの世界だね? そこにいた時点で澱みに適性を持っていた。真の断片って言うのはそういう事さ。断片として軒並みならない素質を持っているんだ。ネルなんかよりも、ずっと強い素質をね……』

「断片ってのが人類の敵っていうのは知ってる。でも、それが何か関係あるのか」

『大有りさ。この世界はスティルゼ神っていうエーテルの大本に支配されている。ステータスという形でね。君にも発狂っていう形でペナルティが発生しただろう? ステータスに縛られている限り、この世界ではスティルゼの手の内から出られない。だけど、断片ならそのステータスの支配から逃れられる。ペナルティが発生しなくなるのさ』


 脳裏にネルのステータスを鑑定した時の記憶が蘇る。

 あのぐちゃぐちゃな鑑定結果は残滓から断片になってステータスの支配から逃れた結果だったのか。


「それならネルでいいだろ。あいつはもう人間を虐殺してるんだろ? ステータスの支配からだって逃れてるし」

『いいや、そうもいかない……真の断片ではないからね』

「どこが違うんだよ。アイツは世界最強の断片だって言ってたぞ」

『君のスキルに問題があるのさ。神聖の拒絶、人間からの乖離。それが君を真の断片たらしめている理由なんだよ……それが僕らが君に与えたギフトだ』


 俺の中でも正体不明のスキル。それは、コイツが原因だっていうのか?


『そうだよ。正確には僕じゃなくて……』


 そういって、佐倉純也は俺の後ろを指差した。


『彼女だけどね』


 ぎょっとして振り返ると、いつの間にか俺の後ろに黒い何かがいた。


 まだこれの姿は全く見えない。だが、見えないのに脳の中で何かが警告している。


 こいつだけは、見るな、関わるな、ただ畏怖せよ……と。


『ご     』


「ッ……!」


 それが、何かを発声する。何も分からなかったが、とにかく目を背ける。


『正解だね。この場所、XXXXXに限っては一切のスティルゼのペナルティは発生しないけど、他の場所なら彼女の存在を思い出しただけでデスペナルティを食らうような代物だよ。もちろん、そうならないように彼女自身がその黒いベールで全身を覆って本来の姿を隠してるんだけどね』


 ベールで覆ってる? そんな代物じゃない。全く隠しきれていない! 化け物じゃないか。


『酷い事を言うね。彼女ほど君たちの事を思っている存在はいないというのに』

「言ってない。さっきから心を読んで会話しやがって……。とにかく、この……この、女性が俺にそんなスキルをつけたっていうのか?」


 女性って言い換えただけ褒めるべきだね、と佐倉は頷いた。ねえ? と俺の後ろのソレに対して肩をすくめる。


『ま、そういうこと。勇者召喚の時にね。君だけこの空間を通過してもらった』

「俺だけ……?」

『覚えてないかい? 君、あの講堂からこの世界に飛んだとき、目の前が真っ暗になっただろう?』


 そういえばそうだって気がするがそれがなんだというのだ。


「あ」


 そういえば山田は『突然目の前が真っ白になった』と言っていたような……。


『そう。そもそも今回の勇者召喚は僕たちが君を呼び寄せるためにハッキングしたものでね。おかげで才能が無い勇者ばっかりで神国も苦労してるみたいだけど』


 思わぬ副産物だね! と佐倉は笑う。


「待て……お前、いつから俺に目を付けてたんだ……? その口ぶりだと、現実世界のときからってことになるだろ」

『そうだよ? 僕たちは君が生まれた時、いや生まれる前から目を付けてた……まあ、その話をするなら、もっと根本から話さなくちゃいけないね』


 最初からそうしろ、こっちは頭がこんがらがってきている。


『じゃあ、話すとしようか。この世界が生んだ最悪の害毒、勇者召喚システムの話を……』 


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