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その魔獣使い、人類の敵につき。  作者: 有澤准
第一章 迷宮編
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第五十話 俺と僕の決別

 徐々に景色が崩れていく。

 色が失われ、景色がぼやける。


 おそらく、この階層を突破したという事なのだろう。

 事件の真相と、二重人格分裂の理由の真実が分かった今、もうここに用はない。

 「現実ではなく、真実を見ろ」。課題は突破した。


 ただ……。


「……なあ」

「……なんだい」


 俺と、『僕』はまだそこに残っている。


「お前が見たかったものは、見れたのか」


 消えてしまった、俺たちに全てを託して消えた僕。

 彼があの事件の結果からもたらした意思を『僕』は知りたがっていたが、果たしてその目的は果たされたのだろうか。


「さあ、ね……見たかったものは見えたよ。でも、知りたかった結果じゃない」

「……」

「僕は君が妬ましい。最初の僕がどんなに綺麗ごとを言ったところで、君は結局のところこの事件を忘れて生きていけたんだから。どうして復讐してやった僕が封印されなきゃいけなかった?」


 俺は黙って彼の言葉を聞く。


 俺が未来なら、彼は過去だ。過去の罪を背負って、誰にも助けられる事なく苦しみ続けたもう一人の自分だ。


 そんな彼に対して、自分は何も言う事はできない。


「僕は知りたかった。どうして僕が裏で、君が表なのか。納得していない。結局のところ、あの『僕』がやらなきゃ僕たちはあの地獄から抜け出せなかった! 必要な犠牲だった! なんで僕だけがその苦しみを背負い続けなければいけなかった?」


 それは、そうだろうと思う。だが、違うのだ。


 その行為は間違っている。

 その解決方法は、間違っている。


 だから俺たちは絶対に相容れない。もともと、あの行為に対する是非で別れた俺たちが相容れる事はない。


 俺たちは、それからしばらく無言で睨み合っていた。


 景色が崩壊していく。もうほとんど何も識別できない、白黒のマーブル模様の中にいるかのようだ。ドロドロと全部が溶けていく。自分すらも溶けていくような錯覚に襲われる。


 最初に口を開いたのは『僕』だった。


「僕は君の事を認めない。正しさなんていらない。必要なのは、どんな犠牲を払っても自分を救う事だ」


 あぁ、そうだろう。


 苦しんだお前は、そう言うだろう。

 だから、俺も同じように返す。


「あぁ、俺もお前の事を認めない。間違っているものは間違っている。自分が助かるために犠牲を出す事が正しいはずがない」


 俺たちは、その言葉を最後に互いに踵を返して歩き出す。


 きっと、お互いに分かっているのだ。

 相手の言うことも、必ずしも間違っているわけではない、と。


 でも、だからこそ、それを認められない。それを認めたら、自分が自分である意義がなくなってしまうから。


 だから、俺たちは決別する。

 最初の僕が望んだ形ではないかもしれないけれど、それでも……俺たちは、相容れないのだ。


 カツン、と後ろから遠ざかる足音がした気がして、俺も足を踏み出した。


**


「ッ!」


 バチン、と目が覚めた。


 咄嗟に起き上がって周囲の状況を確認すると、見覚えのある白い部屋にいた。

 意識を失う直前の状況と変わらない。どうやら無事戻って来たようだ。


 違いと言えば、壁が発光しているのは変わらないがその光を受けてもなにも影響がない事だ。そして、もう一つ。


 何もなかったはずの壁にドアが出来ている。出口だろうか?

 おそらく、階層クリア……ということなのだろう。


「主殿、起きたか」


 声をかけられて一瞬驚く。振り向けば、ニナを膝枕している八雲がほっとした表情で俺を見ていた。


「八雲ちゃん!」

 そうだ、2人は無事だったのだろうか? 八雲は既に起きていることからして、アレは俺だけにかかったトラップだったのだろうか。


「生憎そういうわけでもない。歪められた現実ではなく真実を見つけ出す記憶の世界。主殿も突破したのだろう?」

「あ、あぁ」


 どうやら全員にトラップは発動したという事らしい。そうなると、八雲は速攻で突破したということになるのだが……。


 いや、それよりも。


「ニナは……まだ戻って来てないのか」

「うむ……」


 八雲に膝枕されたニナは、まるで悪夢でも見ているかのようにうなされている。

 おそらく、彼女に取っての地獄の記憶を……両親についての記憶を見続けているのだろう。


「主殿もうなされてはいたのだがな。しばらくしたら落ち着いたので、おそらくもう大丈夫だろう、と分かったのだが……」

「ニナの様子には変化無し、か……」


 俺は正直言って、もう一人の俺という助け舟があった。

 だが、ニナにはそれがない。


 150年も前の両親の記憶なんて、そこかしこが歪められている可能性は高い。それを自分で修繕するなんて不可能に近い。


「助けないと」


 彼女を助けないと危ない。このトラップがどういう仕組みかは分からないが、真実を見つけ出すまで出られないのだとしたらニナは衰弱死してしまう。


「うむ、そう言うと思っていた。というか、それが出来るのは主殿しかおらん」

「え?」


 助ける方法までは具体的に考えていなかったのだが。


「昨日、主殿を妾とニナ嬢で助けた時と一緒だ。念話と共鳴をあわせてニナ嬢の精神世界に潜り込めばなんとかなるかもしれない」

「なるほど」


 共鳴と共鳴呼応。このスキルが織りなす効果といったところだろう。共鳴呼応同士ではバイパスは繋がらないだろうから、俺しか侵入は出来ない。


 だが、むしろ難易度は前回よりも低い。


 前回は俺の意識が失われた状況だったため、彼女たちは俺に共鳴を発動させるために念話で俺の意識に無理矢理潜り込む必要があった。


 一方で、今回は俺から共鳴を発動できる。念話から共鳴を促すよりも、共鳴してバイパスを繋げてから念話で侵入する方がよっぽど簡単だ。


「ただ……」


 早速共鳴をしようとする俺を八雲が止める。その表情は不安げだ。


「なんだよ?」

「帰って来れない可能性がある。多分、ニナ嬢の記憶の世界で真実を見つけ出さない限り……主殿も脱出できないと思うのだ。この結界は妾の記憶にないぐらい強いものだから……」


 八雲は眠ったままだった俺とニナを出現した出口から引っ張りだそうとして、何かに阻まれたと話す。


 つまり、途中中断はできないということ。

 行ったら最後、ニナを引っ張りだすだけでなく真実まで探し出さないと俺まで帰れない。


 でも、そんなのは関係ない。


「行かないとニナを助けられないだろ? 行くよ」

「……軽く言うなあ、主殿は」


 八雲は呆れたように苦笑いした。

 そして、「まあ、そういうところは嫌いではないよ」と微笑んでからニナを撫でた。


「うむ、眠っている間は任せてくれ。いざとなったら口に無理矢理水でもなんでも突っ込むからな、餓死はしないだろう」

「そんなにかからないことを祈りたいな……まあ、任せた。行ってくる」

「うむ、ニナ嬢を頼んだぞ」


 よし、と俺はニナに向き直り、彼女の小さな手を握る。

 今度は、俺がニナを助ける番だ。


「共鳴」


 そして、俺の意識は薄れていった。



 おまけ

 地獄の記憶 八雲ちゃんの場合


 妾は気がついたら森の中にいた。


「これは……!」


 なるほど、これは妾の記憶だ。


「待って、妾まだ理解してない! 記憶? 記憶なの? 地の文が暴走してる!」


 そう……歪められた記憶を正して真実を見つけるのがクリア条件なのだ。


「まってまってまって! やっつけになってる! 妾のだけやっつけになってる!」


 ワラワラと蠢く黒い子蜘蛛の群れの中に、唯一紫色の個体がいる。アレが妾だ。


「あー! 地の文だけがどんどん進んでく! もういい、分かった! 受け入れよう! はい! 昔の妾です!」


 昔の妾はものすごい勢いで周りの子蜘蛛を蹴散らしていく。流石は亜種の妾。

 全ての子蜘蛛を倒し、妾はそのとき生まれた子蜘蛛の頂点に立った。

 あとは、独り立ちをするだけ……!


「いや、違う。妾そんなに強くなかった。妾は普通に共食い祭りから逃げ出しただけだから! これ妾の記憶じゃない。普通にねつ造だから!」


 正解!

 106階層、クリア!


「ほんとにやっつけだー!」


 目が覚めた後、生まれて3週間やそこらじゃそりゃ現実も真実もクソもないわな、と八雲ちゃんは思った。


「最後まで地の文が妾じゃないんだが! 妾クソとか言わない!」



正直この階層の仕組みを思いついた時から八雲ちゃんはこうなる運命だった。

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