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その魔獣使い、人類の敵につき。  作者: 有澤准
第一章 迷宮編
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第四十八話 地獄の記憶④ 聞こえなかった言葉

 どうやら自動で繰り返されている光景以外にも、こちらが意識すれば場所を変えられるようだった。

 調べるにはもってこいなのでどんどん利用させてもらう。


 とりあえず、獣と呼ばれていたことについて調べるべく、時間を巻き戻させて小学校に向かう。何か詳しく分かるといいのだが。


 記憶の片隅に小学校の記憶は残っていたが、中を歩いても不思議と懐かしさは感じなかった。嫌な記憶として定着しているからだろうか。


「お前、俺が何年何組だったか覚えてるか?」

「4年1組だよ」


 ということは、中学年だから多分二階に教室がある。そう目星をつけて向かうと正解だった。


 どうやら帰りの会が終わった直後らしい。まばらに生徒たちが教室から出て来ている。

 一方で、俺はまだ出て来ていない。さっさと中に入って確認する事にする。


 元々田舎の小学校だ。人数はもうほとんどいない。だが、一カ所だけ生徒が固まっているところがあった。


 その中心に昔の俺がいる。相変わらず虐められているのだろう。


 ふと、もう一人の俺を見ると彼は憎々しげにその光景を見ていた。俺の視線に気付いたのか、ちらりとこちらを睨む。


 むしろ俺も同一人物な以上被害者なので睨まれても困るのだが。無視して意識を過去の自分に集中させる。


 だが、話している内容はたいして下校中と変わらない。やっぱり獣扱いされていたことは分かってもその理由までは掴めなかった。


 むしろ、気になったのは……。


「教師だな」

「僕もそれを思っていたよ」


 その場にいた教師の反応が変だ。


 いじめの現場にいるのにも関わらず何も反応しない。かといって立ち去るでもなくその光景を眺め続けている。


 そして、微かに口角を上げた。


「あいつッ……!」


 もう一人の俺が怒りに声を上げる。


 その怒りは当然だ。まさか教師までグルだというのか。これではどこにも救いがない。


 そんな状況で、俺は親にすらいじめられていることを隠した。心配させたくない、 なんていう理由でほんの10歳の子供がそんなことが出来るのか。


 いや、出来たのだろう、俺は。


 だが、とっくに壊れてしまっていてもおかしくないのだ。

 そんな状況で、妹にまで危害が及んだことに気付いた俺は一体どうなったのだろう……。


 ふと思い出す。


 重傷の妹を抱えながら何かに気付いたように呟いた俺。

 あの状況で、俺は何に気付いたのだろう?


**


「というか、お前……真実を知ってるっていう割には反応が過剰じゃないか?」


 次はあの教師を調べるために、俺たちは教師の行動を追跡していた。

 普通に考えて教師までいじめに加担するという状況は奇妙だ。


 であれば、原因が教師にあると考えるのが自然だった。むしろ、教師からいじめが始まったのかもしれない。


 そんな中で、憎々しげに教師を睨み続けるもう一人の俺に対して質問した。


「君の反応の方が……いや、いい。真実を知っているとは言ったけどね。僕が知っているのはあの事件の原因。結果。それだけなのさ」

「それ、全部知ってるんじゃないのか?」

「原因から結果に至る過程、結果から至った行動の過程を僕は知らない。実際のところ、獣呼ばわりされていた原因については知っているけど、あの教師については知らない。具体的な光景は僕も思い出せない」

「お前も俺の事言えないな」


 皮肉げに煽ると、彼もニヤリと笑った。


「ま、そうかもね。すっかり忘れていた君よりはずっとマシだけど?」


 さすがに言い返せない。というか、本当に俺はどうしてこんな記憶を綺麗に忘れているんだ?


 俺たちが話している間も例の教師は職員室で何か作業をしているが、イマイチ原因には関係なさそうだ。プリントの丸付けをひたすらこなしている。さらっと俺のプリントをグシャグシャに丸めてゴミ箱に捨てたのを俺は見逃さなかった。


「とはいえ、この階層は本当によく出来てるよな。俺の記憶にない部分まで補完できるなんて……」

「情報しか見るもののない奴が作ったところだからね」


 その言葉に「はて」と俺は首を傾げた。


「お前、この階層を誰が作ったか知ってるのか? というか、前から思ってたんだけど何でお前、俺が知らないようなことまで知ってんの? 異世界の記憶は流石に俺より詳しくなる事はないだろ」


 寝てる間に勝手に動いてるとかなら別だけどな。


「寝てる間に勝手に動いてるんだよ」

「エッ」


 いや、流石に嘘だろう。そんなことをしていたらニナが気付くはず。


「情報に埋もれた黒い世界、に覚えは?」

「あ? あー、んー?」


 あるような。ないような。ぶっちゃけ覚えはないと言えばない……のだが、夢で見た、といつぞやニナに話したような気もする。


「あぁ、やっぱり夢だと思って忘れてるんだね」

「え? 何? どういうことだよ」

「君が夢だと思ってる場所は現実にあって、情報の宝庫だってことさ。ついでに言えばこの迷宮を作った奴もそこにいる。僕は君より澱みの適性が高いから、君が寝ている時にお邪魔して調べ物をさせてもらっているんだよ、もちろん意識だけで」

「なにそれチート?」


 というか、俺にもそれを反映させろ。


 前から思ってたけど微妙に俺に恩恵がないスキルとかデメリットのある技能ばっかりなんだよ! 普通なら使えるスキルだろ、いろいろと。


「発狂まで行かずに澱みを扱えるって時点で十分チートなんだけどね」

「多分他の勇者は発狂リスク無しでもっと強いんだぞ」


 うん、適当を言ったがなんというか、確実にそうだと思う。澱みなんかを使っている時点で地上に出てから苦労しそうなのに発狂リスクまであったらやってられない。


 話が脱線した。


「で、とりあえずさ。お前も全部は知らないんだよな?」

「そういうことになるね。僕も自分の記憶しか知らないから、記憶の外で起きた事は流石に知らないよ」


 それはそうだろう。いくら彼がいろいろ知っているとは言え、見ていないものは知らない。彼は二重人格の俺であり、いわば当時は同一の存在であり、つまるところ10歳の子供に過ぎなかったのだから。


「ついでに言えば」

「ついでに言えば?」

「あの事件の直後に僕が何を考えていたのかも知らない」

「?」


 ふぅ、と彼はため息をついた。


「記憶がそこだけ欠落しているんだよ。そこまでは君が持っていない記憶もきちんと保持している。なのに、そこだけがない。……僕たちの記憶は、多分その記憶を覚えていたであろう自分が奪ったのさ」

「つまり……3人目がいるってことか?」

「うーん……」


 むしろ一人目だよ、と呆れたように彼は言った。


「とにかく……僕はその時の自分が何を考えていたのかが知りたいんだ」


 やけに真面目な顔で呟く彼の姿を見て、俺はほんの少し彼を嫌っていた気持ちが和らぐのを感じた。


 てっきり俺に嫌な記憶を見せて絶望させたいとかそういう理由でヒントを出しているのだと思ったがれっきとした理由があったとは。


「いや、それもあるよ」

「あるのかよ、やっぱ最低だな」


**


 状況が動いた。


 教師がゴミ箱に捨てた俺のプリントを教頭が見つけたのだ。中年男性で真面目そうな男だった。


『山口先生、これは?』


 俺はざまあみろ、と心の中で喝采を上げる。生徒のプリントを勝手に捨てるなんて許されない事だ。さっさと懲戒処分されるなり退職されればいい。


 と思っていたのだが、もう一人の俺はつまらなそうにそれを見ていた。


「期待しているような事にはならないよ、『俺』。僕の予想が正しければね」


 何? と教師の方を向くと彼はニヤニヤしながら教頭の言葉に応えた。


『あぁ、例の奴ですよ』


 それだけで教頭は何かを察したらしく、拾い上げたプリントを開く事もなくゴミ箱に戻した。


『ならいいです。ただ、目に付くところに捨てないように。この村以外から来た先生からすると見慣れない光景でしょうからね』


 そして、水道で手を洗ってきます、と言って出て行った。


「なんだ、今の」


 唖然としてしまう。

 担任だけでなく、教頭までグルなのか。


 ところが、すぐそばでコソコソと話し声がした。


『いつも思うんですが、今の……』

『シッ! 触れない方がいいわよ、この村で暮らしたいならね』


 若い女教師が今の光景に口を挟もうとして中年の女教師にたしなめられた。


『でも……』

『この村にはこの村の考えがあるのよ。あれはしょうがないことなの』


 この村の考え?


 どうやらあの若い教師は外部から転任してきたということが分かる。そのため、この村の考えとやらで虐げられている俺を庇うと彼女も不利益を被るのか。


 というか、そうなるとこれはもう学校だけの問題じゃないのではない。


「待て……話が大きくなって来てるぞ」

「もともとそういう話だよ」


 ぎゅるり、と景色が切り替わる。


 そこにあったのは見慣れた光景、重傷の妹を抱えて路地裏に立ち尽くす俺。


 車があわてて走り去る。

 ここで俺は気付いたのだ、何かに。


 いや、もう分かる。

 あのとき俺が思った気持ちがよく分かる。


『あぁ』


 大人も敵なのだ。狭い学校だけでなく、村全体が敵だと俺はここでようやく気付いたのだ。

 子供には虐められる。担任だけでなく、教頭も、他の大人たちも助けてくれない。


 小さな俺にとっての世界の全てが敵だと気付いたのだ。

 そして、自分への迫害が妹にも及んでしまった。


 その俺の形相は、諦めたようで、悲しそうで、それでいて憤怒に彩られていた。

 そして、その口が開く。あのとき聞こえなかった言葉が今なら聞こえる。


『みんな死ね、殺してやる』


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